十四.かぎりなき思ひに焼けぬ皮衣
翌朝、8時20分に登校した俺は本棟の屋上に向かった。今日はワイシャツに、美月のネクタイとピンを身に付けている。
リュックを背負って階段を上るから、五階の上にある屋上まで行くのは辛かった。でも、ミヨは俺と二人きりの空間で話したいと言う。スマホのメッセージで呼び出されていた。
「うー、疲れた。おはよう」
「あら、おはようシュータ」
ミヨが屋上の手すりに寄り掛かって返事をした。屋上にはミヨ以外に誰もいない。木の板や台などが所々散らばっているだけだ。もろに風が吹き抜けて、高所恐怖症の俺には怖い。リュックを足元に置いて話を始める。
「ここ、何かに使われてるのかな?」
俺はミヨの隣のフェンスに背中を預けた。特別棟の校舎が見える。ミヨは風で乱れる髪型を気にしている。
「ここは美術部が展示をやってるみたいよ。青空の下に作品を持ち込んでいるらしいわ」
そうなのか。あ、思い出した。昨日ここの屋上で風船が浮かんでいるのを見た記憶がある。美術部の出展だったのか。
「美月の話だから、二人で会える場所にしたのか?」
「ん? まあね。シュータとばっかり話していると恥ずかしいっていうのもあるし」
どういう意味だ? 俺はルリや冨田みたいに恥ずかしい人間だというのか。お前はよっぽど俺が嫌いなんだな。
「違うわよ。むしろ——よ」
「ごめん、風が強くて聞こえない」
「聞こえないように言ったのよ」
……は? ミヨは顔を背けて言った。よくわからんね。
「美月のことだけど、昨日の夕方に話したわよ」
「どうだった? 怒ってた?」
ミヨはクスリと笑う。いきなりご機嫌になりやがって。女心と秋の空ってやつだ。
「怒ってもいたわよ。どうしてルリと会っていたのに隠していたのでしょう、後ろめたいことでもあったのでしょうか、ってね」
ルリのことか。ネクタイは?
「ネクタイの話もしてたわ。言ってくれれば良かったのにって」
「何て答えたんだ? 余計なこと言ってないよな」
ミヨは首を横に振る。
「ネクタイは、シュータが美月のことを大事に思ったから言わなかったんだって教えてあげたわ。失くしたことを聞いて、動転したり悲しんだりする美月を想像すると言い出せなかったんでしょ?」
まあな。で、美月はどういう反応してた?
「落ち込んでたわよ。やっぱり言い過ぎたかもしれませんって感じで」
もちろん美月は鬼じゃないからな。俺だって家に帰ってだいぶ反省した。
「美月はなるべく早く仲直りしたいってさ」
「俺もだ」
「じゃ、朝イチでしてあげなきゃ駄目よ。美月は気にしいなんだから」
俺だって、そろそろ美月と雪解けの時期だと思っている。ネクタイを見せて謝ろう。
「でも、ルリのことはどうやって言い訳するのかしら?」
「なんだよ。さっきからルリ、ルリって」
「美月としては、他の女の子とコソコソしてるのが気に障ったみたいよ」
ミヨは楽しそうに笑っている。皆、俺と美月の喧嘩が面白いのかな。
「その、ルリのことを気にしてるのは、嫉妬してるからか? それとも敵だから?」
「どっちもじゃないかしら。シュータは知らないかもしれないけど、女の子は自分一人しか見てくれないと嫌なものよ。私も本当は嫌だもん」
浮気心は厳禁ということね。了解、了解。
「ちゃんとわかってるのか怪しい。でさ、今日はいつシフト入ってるの?」
今日は確か、10時じゃなかったかな。朝だった気がする。
「ふーん。今日こそは美月とシュータの共演を見たいものね」
そうだな。俺も美月と一緒に働きたい。
「あれ、ちょっと待ってね」
ミヨは突然目を瞑った。あれか。未来予知。たまにコイツはいきなり瞑想する。そういうときは大体頭痛か予知だ。今回は何だろう。




