十三.宝と見え、麗しきこと並ぶべきものなし(19)
「何してるんだい?」
声が頭上から降って来たので何かと思って顔を上げると、そこには制服の石島がいた。
「お前こそ、ここで何してんだ?」
石島は笑顔で応じる。
「これからグラウンドで生徒会の仕事があるんだ。今日は一日中仕事しててさ。休む暇も無いよ」
そいつは大変だな。俺ならそんな文化祭は嫌だ。
「だから、歩き回っている間にちらっと店を覗くくらいしかできてなくて。六組も見に行きたいんだけどね」
「あ、そう」
「え、僕に来て欲しくないのかい? もしかして美月さんのウェイトレス姿を他の男子に見られたくない、とかいう素直な男心かな?」
全然違うわ。石島とはよく話す仲になっていたので、コイツはこうして軽口を叩いてくるようになった。
「今、美月と喧嘩しててさ。店に来ても一緒に接客できないぞ」
石島は思い切り笑いやがった。疲れてるからって笑い過ぎだ。
「美月さんが怒ることあるんだ。『もう、シュータさんの馬鹿』って感じかな。怖くなさそう」
「いーや、めっちゃ怖い。もう知りませんってシカトだよ」
石島は更に笑った。そんなに面白いかよ。
「羨ましいな。喧嘩するほど仲がいいって言うからね」
そんな状況じゃないんだよ。ったく、他人事だと思って。
「だから浮気してるの?」
浮気? すっかり忘れていたが、俺の隣には制服を着崩したツインテールのギャルがいるのだった。静かだから放っておいてしまった。ルリの横顔を見ると、口を開けてヨダレを垂らしている。何してんだ、お前。
「ちょー、ちょー、ちょータイプなんですケド! 壮絶なイケメンだわ」
ルリは石島にキラキラした目を向けている。石島はイケメンと言われ慣れているからそこまで驚かない。そこは美月のヤローとは違う。
「ありがとう。相田くんの友達かい?」
「へい! シュータくんの愛人のルリでやんす。あの、ルリと付き合ってください! 可愛い後輩キャラになりますから」
ルリはいきなり告白しやがった。石島はニコニコしている。
「そういうわけにいかないよ。付き合うのはきちんと愛を確かめ合わないとね」
「どういう手段で確かめます? 今夜空いてますよね?」
「はっはは。面白いね。相田くんの友人はどれも」
俺のせいにするな。ルリも石島に変なこと言うな。
「だってえ、こんなにイケメンなんだもん!」
ルリは石島の首に抱き付く。
「コラ、ルリ。そんなことしたら星陽の女子全員にぶん殴られるぞ」
ルリは石島にぶら下がっていたが、細マッチョの石島に簡単にはがされていた。ルリは節操が無い。俺にもノエルにも石島にも色目を使いやがって。
「むしろ石島くんに殴られたいですう。お尻叩いてくれません?」
「僕は女の子に暴力は振るわないって決めてるんだ」
男の俺は殴られたけどな。ルリは「ベッドの上は別でしょ」と甘えている。
「じゃあ、僕は仕事に戻るよ。仲直りしたら報告お願い」
「言われるまでもねえ。まあ、連絡してやるから店に来いよ」
「あーん。最後にルリが喜びそうな科白もらってもいいですかー?」
石島は面倒くさいなって感じでルリに耳打ちした。ルリはそれを聞くと、顔を真っ赤にし、泡を吹いて倒れた。
じゃあな、石島。お前なりに楽しんでくれ。癒されたかったらこの変態女を好きに使っていいぜ。石島はステージの方に小走りで向かった。
「お前、起きろって」
俺が鼻を摘まむと、ルリは「ふがっ」と目覚めた。
「まさか彼にあんなこと言われるなんて……。彼はナチュラルSですね。ノエルくんが真正のドSであるのに対して」
「なあルリ」
「へ?」
「お前、意外と友達作るの上手だな」
ルリは照れ隠しに「てへ」と笑った。




