十三.宝と見え、麗しきこと並ぶべきものなし(17)
「いやー、面白かったわ。ブラーヴォ」
ミヨは最後のエンドロールで拍手を送っていた。俺も拍手を送る。とても面白かった。特に良かったのは、主演の佐奈子だ。佐奈子は明るく行動力のある夫人、でも実は二面性のある悪女という難しい役を艶やかに演じていた。
あの女らしさ、はきはきした口調はいつもの佐奈子じゃない。本物の女優魂を見た気がする。あの階段付近で衝突した女子は、どこで出演したのかわからなかったが。
次々と客が退室して行く。カーテンが開けられて日光が眩しく感じた。まだ舞台上に残る演者の所に水色のクラスTシャツの翁川が行ったのを見つけた。
「あれ、慶くんも観に来てたのね!」
ミヨも舞台の方に向かった。やれやれ。俺は疲れて昼寝でもしたいんだけど、ミヨにもう少し付き合うか。
「サナちゃん、慶くん!」
「みよりんも彼氏と観に来てたんだ」
「へえ、相田くんが彼氏なんだ」
佐奈子と翁川の冗談にミヨは動揺した。
「は、はあー? 私がこんなナマケモノと付き合って、仲良く観劇するワケないでしょ!」
そんなに俺が嫌いか。
「嫌いではないわよ!」
そうかい。ホッとした。
「その服着てると、一層カッコいいよね」
翁川はお世辞を言ってくれた。
「あれ、胸元。ネクタイしないの?」
佐奈子は、俺がネクタイをしていないことに気付いたようだ。
「それは色々あって。明日以降は着ける予定。そんなことより、劇の話しようぜ」
俺は話を逸らす。佐奈子が、
「どうだった? 私たちの舞台は?」と訊いた。
「もう最高! サナちゃんのエロい魅力にもっと大好きになっちゃったわ」
ミヨは舞台(階段一段分高くなった木製の壇上)に上って、佐奈子に抱き付いた。エロいってのは、女性的美しさのことを言ったのだろう。俺も観ていてドキッとした。
「演劇中のサナは綺麗だからね。別人になったようだし」
翁川は佐奈子の演技をよく観るのか?
「うん。去年、初めてこの文化祭で観たんだ。すごくいいなって思った」
へえ。佐奈子は慶を舞台でイチコロにしたってことなのか。俺も去年佐奈子と出逢えていれば。
「これからいっぱい感想を言ってあげたいけれど、私はこれから一組に戻るわ」
お、ミヨはお化け屋敷か。頑張れよ、黒子。
「アンタも来なさいよ。泣きべそかいてるところ、バッチリ見てやるんだから」
ミヨは利き手でオッケー形を作って、そこから俺を覗いた。
「俺、お化け屋敷とか興味ない」
「アンタ、バカァ? 私が出てるんだから来なさい! どうせ暇なんでしょ」
確かに美月と出掛ける予定が無くなったので、時間は余っている。
「相田くん。優しくしてあげないと、彼女に嫌われ——」
「彼女じゃねえ」
なだめてきた翁川に反論したが、これではミヨと同じ反応だ。ミヨと佐奈子はニヤニヤしている。なんか、もう疲れたぜ。
俺はミヨと別れて校庭に出た。散歩しようということだ。外の風に当たってゆっくり過ごしたい。が、神様は俺を一人にしてくれなかった。
「あらあら、生気が抜けて干からびちゃった男子がいると思ったら、シュータくんじゃないですか」
ここに来てルリと出会うとは。カロリー高め。きっつ。
「そんな顔しないでください。ルリはシリアスモードもイケるクチですので」
嘘吐くなよ。
「だけどお、その前にルリに何か買って?」
えー、やだ。
「ちょっとちょっと、モノローグまでサボらないでください。しつこいくらいのお喋りがシュータくんの取り柄でしょう?」
メタっぽいこと言うな。本当に疲れてるの。
「少しお買い物して、どこか涼しい所でお話しよっか」
ルリに手を引かれて、外の出店を見て回った。買ったのはリンゴ飴とチョコバナナ、ペットボトル飲料。それからグラウンドの方に向かった。
グラウンドの芝では多くの生徒が座ってステージ上の催し物を見ていた。今は吹奏楽部の演奏をやっている。福岡が出てるのかな。俺たちはステージから少し離れた陸上トラックの端に座った。ここなら建物の陰になって涼しい。
ちなみに現在2時15分。まだかなり明るいし暑い。




