十三.宝と見え、麗しきこと並ぶべきものなし(15)
「いらっしゃいませ」
美月が客をご案内する。俺と冨田は料理や皿を運ぶ係。片瀬、福岡は調理。忙しいので、ボランティアで他のクラスメイトも手伝ってくれるが、結構大変だった。
俺が布巾を持って空いたテーブルを清掃していると、接客している美月の様子が見える。美月は席を案内した客からオーダーを取っている。すると、オーダー用のメモ用紙を切らしてしまったことを見つけた。俺は予備のメモ用紙を持っているので、美月の傍に駆け寄る。
「あの、美月。これ」
「…………」
シカトされた。
「なあ、美月——」
「お次のお客様どうぞー」
「美月?」
「私がご案内いたします。四番テーブル入りまーす」
美月は俺を見事に無視して客を案内した。え、マジで無視されてる?
「お前、竹本ちゃんに何したんだよ。あんなに怒ってる竹本ちゃんは初めて見た」
冨田は唖然としている。俺もだよ。美月は喧嘩すると、冷戦になるタイプか。これは辛い。案内して、自ら予備のメモを取り出した美月は注文を取った。なんだ、自分で用紙を持っていたから無視したのか。そうだよな。美月は手が空いたらしく、飲み物の準備を手伝い始めたので、俺は近付く。
「美月。さっきはゴメン」
「あ、コーヒーのオーダー入りましたね」
美月は隣で飲み物を紙コップに注いでいる女子に話し掛けた。
「美月、忙しいところ悪いんだけど——」
「紅茶よりコーヒーが人気みたいですね」
「俺、悪いと思ってる。これから直すから——」
「……あの、うるさいです」
美月にキッパリと言われた。ショックだった。ついに嫌われた。
「ゴメン、でも」
「でも?」
あ、癖でつい言ってしまう。俺は下の方を向いた。ネクタイの無いシャツが見えた。
「そんなに許して欲しいなら許しますよ」
そう言って笑顔を作った。美月、やっぱり女神だ。
「はい、私もすみませんでした。じゃあ仕事してください」
かつてないほど冷たくされた。もはや「好き」から「嫌い」を通り越して「無関心」に落ちてしまったらしい。
「このコーヒーとコーラを二番テーブルに持って行ってください」
「あの、この後一緒に昼食を食べない?」
「食べません。仕事してください?」
「まだ怒ってるよね」
「まったく怒ってません。仕事しないなら邪魔ですよ?」
これは当分ダメだ。何言っても無駄だ。隣の女子は唖然としている。
「しばらくシュータさんのことを目に入れたくないのですけど」
小声だけどハッキリそう告げられた。
「はあ、わかったよ。じゃあな」
俺は店を出た。あとは皆で何とかやってくれ。邪魔者の俺がいなくても平気だろ。俺は非常に落ち込んだまま、校内を歩いた。行きたい所なんか無い。
「うわっ!」
俺は急に何かとぶつかって尻もちをついた。何だ、何が起きた?
「すみませーん! 急いでて。お怪我無いですか?」
階段付近でぶつかったのは、見知らぬ女子生徒だった。ふわふわしたロングヘアでオドオドしている。だが、俺は彼女の姿が全く見えていなかった。彼女が階段を下って来て、下に行こうとターンしていたようだが、ちっとも気付かなかった。美月のことがあまりにショックで、周囲のことが目に入らなかったのだろう。
「いや、俺も見てなかったから。すみません」
「いえ、いえ。私が悪いんです! よく人とぶつかるから」
女子生徒は、俺とぶつかった際に散らばった物を回収していた。段ボールに入っていたのはドレス? 俺も手伝う。
「ありがとうございます。おっちょこちょいの私が悪いのに」
「構わないよ。ドレスなんか何に使うんだ?」
その臆病そうな女子は笑顔で答えた。
「劇です。今日は特別棟の五階で演劇部が劇をやるので、ぜひ観に来てくださいね」
そう言えば、佐奈子の演劇部は午後からやるって言ってたな。行ってみよう。
「ありがとうございましたっ!」
いいから落ち着いて行けよ。駆け下りて行ったその女子生徒を見送って、俺も下に行こうかなと考えた。校庭の店で昼食を買おう。と、ポケットに手を入れた俺が踊り場に来たとき、
「あっ。アイくん」
こんなときに相園と会うなんて。俺は踊り場の壁に背中を預ける。




