十三.宝と見え、麗しきこと並ぶべきものなし(14)
本棟の四階、二年六組の教室に向かう。廊下は人がごった返していて騒がしい。俺は人の間を縫って行って、六組の後ろのドアに入った。
時刻は12時10分。店内の後方では三人のウェイトレスが立ち話をして出番を待っている。冨田はまだ来てない。皆、衣装が似合ってるじゃないか。特に美月はさ。
俺が美月に声を掛けようとすると、美月からこちらに来た。手に何か持っている。それは——
「シュータさん。これはどういうことですか?」
ずっと捜していた、俺のネクタイが入っているはずの箱だった。なんで美月が持っているんだ。
「それは、どこにあったの……?」
「窓側の、一番後ろのテーブルです。窓を背中にした机の中にしまってありました」
机の中に? どうしてだ。俺はそんな所にしまってない。朝には机の中まで確認したんだ。だから机の中にあったってのはおかしい。そんなはずはないんだ。
「なんで美月がそれを……」
「待っている間にテーブル拭きの手伝いをしていました。そのときに発見したのです」
美月は無表情で淡々と話した。
「どうしてそんな所に」
「私が訊きたいです」
う……怒ってる? 美月が、まさかね。
「これは、どういうことなんですか」
美月は箱を開けて見せる。ネクタイとピンが入っている。——あっ。そのときに気が付いた。自分の胸には同じ柄のネクタイ。そしてピン。ルリから作ってもらったもの。
「シュータさんが今着けているネクタイは何ですか」
俺は答えあぐねて視線を逸らす。こちらを窺っている片瀬、福岡と目が合った。が、二人は何も見ていないフリをして手伝いに行ってしまった。
「これは、その、昨日ネクタイを失くしたことに気付いて、似たようなものを家から持って来たんだよ」
「……え? ちょっと、見せてください」
美月は俺のネクタイをまじまじと見つめる。ピンがニセモノだとバレただろう。
「あの、ネクタイもピンも未来の技術で作られています。どうしてですか?」
そんなことまでわかるのか? じゃあルリのことを隠すわけにいかない。
「私はこんなもの作ってません。私のプレゼントはお店で選んだんです。シュータさんのために」
「う、うん。これはルリに作ってもらった」
「ルリ? え、それって」
「未来人のルリだよ。今日、文化祭に来ているらしい。プライベートで」
「ルリさんが来ているんですか? いつそれを知ったのです?」
「えっと、10時半過ぎかな」
「そんなに前に! どうして連絡をくれないんですか」
どうしてって。ネクタイを作ってもらったことが言えなかったからだ。でも、そんなこと言えない。
「今回のルリは敵対するつもりは無いらしかったから」
「それでも一報は入れるでしょう。なぜ隠していたんです?」
「隠してない。いつかは言うつもりで……」
「先ほど特別棟で会ったではないですか。そのときも何も無いフリをしていました」
「いや、だって、皆もいたし、ネクタイのこともあったし……」
美月は口調こそいつも通りだが、確実に怒っている。俺を真っ直ぐ見てくる。
「そもそも、ネクタイを失くしたのを言ってくれなかったのはどうしてですか? 私が失くしたことを責めると思いましたか?」
「今だって、怒ってるじゃん」
「怒ってないです! 私が信用できなかったんですね」
「違うよ。失くしたって言ったら、美月が悲しむと思って。だから言えなかったんだ」
「言ってくれれば良かったのに。私も許しますし、一緒に捜しました」
「だから、できるだけ自分で捜して、それで見つからなかったら打ち明けようと思ったんだ。別に隠してないよ」
「ルリさんのことも含めて、何も言ってくれない方がずっと傷付くってわからなかったんですか?」
「ゴメンとは思ってるよ。でも、まずは自分で捜したかった。美月は知らない方が幸せなわけだし」
「知らない方がいい? 何を言ってるんですか。ルリさんと隠れて会っていたことも、私を幸せにするためでしたか」
「あのね、後で言うつもりだったんだって。わかってよ」
「後で後でって。私のネクタイがずっと見つからなかったら、一生そのまま騙すつもりだったんですね」
「……違うよ。俺は美月を悲しませたくなくて」
「でも、だって、違う? そんな言い訳ばかりです」
美月は涙目で俺に抗議してくる。俺も悪いと思ってるのに、どうして理解してくれないんだろう。美月はもっと物わかりがよかったはずなのに。
「とりあえず、ネクタイ貸してくれ。着けるから」
「要らないでしょう。シュータさんにはそのネクタイがあるんですから」
美月は発見した本物のネクタイを返してくれなかった。俺はルリのネクタイを取る。
「こんなの、着けたくない」
「では、何も着けずにするしかないですね」
美月は箱を教室の後ろの棚に置いてしまう。俺が取りに行こうとすると目で制してきた。お前なんかがもう着けるんじゃないって意味だろうか。
「うっーす。マジで文化祭って楽しいな」
冨田がご機嫌で教室に入って来る。悪いが、今は黙っていてくれないか。
「……あれ?」
冨田も雰囲気の悪さを悟ったようだった。静かに忍び足で入って来る。こんな最悪の状況で俺たちの店番がやってきた。




