十三.宝と見え、麗しきこと並ぶべきものなし(13)
11時35分、俺たちはパソコン室を退室した。ゲーセン並みに楽しかった。
「最悪。ノエルくんったら私に関節技ばかりキメてきたんですケド。ドSなんだから」
ルリは満更でもなさそうに頬を紅潮させていた。特別棟の階段を下っていると、四階と三階の間の踊り場付近で、とんでもない人物に出くわした。——美月だ。
「ルリ、四階に上がって隠れてろ」
俺はルリを突き飛ばした。俺とノエルは美月に発見される。
「あ、シュータさんとノエルくん。こんにちは」
俺は笑顔を作って階段を下りて行った。三階の生物室前(SF同好会部室の前だが、SF同好会は何も店を出していない。ミヨはやる気がありそうなのに)で、美月と片瀬、福岡と話す。
「ノエルくん、法被可愛いじゃん」
片瀬に背中をバシバシ叩かれたノエルは、「強いっすよー」とむせていた。
「シュータさん、ネクタイを着けてくれているんですね」
「あっ」
油断してた。堂々とネクタイを着けて登場してしまった。美月は二メートルくらいの距離で確認すると、ニコっとした。近くで見られたらピンのデザインとか刺繍などがバレてしまうかもしれない。
「そうだ、皆で何してたの?」
話題をすり替える。
「特に目的も無く学校を回っていたんです。これは景品です」
美月は忍者刀を背負っていた。まさか、ノエルがやってる射的ゲームに行った?
「ええ。一年生の教室を見ていました」
そっか。本棟を巡ってから、こっちに来たのか。
「そうだ。これから一緒に行きませんか? シュータさんとも楽しみたいです」
美月は素晴らしい提案をしてくれた。でも、上の階にはルリがいる。アイツを放っておくわけにはいかない。
「あー、シフトが終わったら行こう。今からだと時間ないし」
「そうですね。ゆっくり過ごしたいですものね」
何とか乗り切れた。美月は違和感にも気付いていない。
「相田くん、あの、確認だけど、12時15分には教室ね」
福岡に言われる。俺は頷いた。福岡はどこかで貰ったらしいおもちゃの指輪をたくさん着けていた。ギラギラといやらしいご婦人みたいだな。
「15分ね。任セロリ」
「あと、チャラ田くん見た?」
冨田はどこに行ったんだろうな。俺が最後に見たときは三年の教室で、可愛い女子の先輩のケツを追っ掛けてたぞ。
「え? じゃあ、チャラ田くんに会ったらバババ、バカ野郎って言っといて!」
福岡は一生懸命そう言った。そこまで言う? まあ機会があったら言っておく。
「んじゃ、後で会おう」
俺がトイレに行こうとすると、いつの間にかノエルが片瀬にアームロックされていた。
「こいつー、生意気なコウハイだな」
「た、助けてくださーい」
あんなに強いノエルがやられるなんて、あー恐ろしや。
「わかったか? くれぐれもミヨや美月に見つからないよう細心の注意を払うこと。それができなけりゃ——」
「お仕置きですかー? キャー、いやあーん」
俺は美月たちがこの場を離れたことを確認して、四階にいるルリに指導していた。ルリはこの通り真面目に取り合わない。
「ルリさんには、お仕置きがお仕置きにならないっすね」
ノエルも呆れ顔。
「そうです。ルリにとって、死ぬこと以外はご褒美です!」
自慢できねーよ。ともかく静かに文化祭を楽しんでな。
「今度ロメロ・スペシャルしてくださいね」
黙れ。
「はあ。心配なら俺が付き添いますから」
「やったー。ノエルくんと水入らずのデートだあ!」
「やっぱ野放しにします。俺も仕事があったっけ」
「むむむー。もういい! 一人で楽しも。迷惑掛けないから安心して?」
悪いけど頼むぜ。俺はこれから仕事に赴く。目立つ真似だけはするな。俺は不安を胸に抱えつつ教室に戻った。はあ、ったく厄介事が減っているのやら、増えているのやら。




