十三.宝と見え、麗しきこと並ぶべきものなし(12)
特別棟五階のパソコン室に俺たちは到着した。パソコン室と坂元と言えば、四月の嫌な記憶が蘇る。だけど坂元はニコニコ笑っているし、パソコン室は賑やかだった。
その中に一輪のダリアのような可憐な少女がいた。死神ローブを着た佐奈子だ。黒いフードでもその魅力は失われていない。フランケンシュタイン姿の彼氏、翁川と一緒にいる。
「相田くん。名前呼んで」
「——は? 佐奈子?」
あ。気付いた。彼氏の前で下の名前を呼ばせたのか。佐奈子はしてやったりの微笑。これじゃ、佐奈子とただならぬ関係だと勘違いさせるかもしれない。
と、心配したのだが、当の翁川は朗らかに会話を聞いている。こいつは、いい彼氏というよりアホなんじゃないか。
「お二人は付き合ってるんですかぁー?」
ルリが俺におんぶをされに来た。すぐ振り払う。くすぐったい。やめい。
「付き合ってるよ。もう一年だ」
翁川は答えた。
「ふーん。欲求不満とかありませーん?」
「私は無いけど、慶は?」と佐奈子。
「無いね。サナには文句ひとつ無いな」
翁川はキッパリ答えた。
――くそ、いい彼氏すぎる。ルリも不満だったようで俺に小声で、
「あんなマグロっぽい女と付き合ってるのに満足できます? 無性に寝取ってやりたくなりますネ」と囁いた。
そんな気持ちに一向ならないのは俺だけだろうか。佐奈子はああ見えてロマンチストだから、案外——って、俺は何を言いかけたんだろうね。
「そう言えば、そっちの可愛いキミは後輩かな?」
佐奈子がノエルを指差す。ノエルの童顔は得していると思う。
「ええ。シュータ先輩の友達の綾部です。皆からはなぜかノエルと呼ばれています。先輩と落ち合ってぶらぶらしていたんです」
自分でも名付けのきっかけを知らないのか。ミヨのみぞ知るセカイってやつだ。
「ってか、佐奈子たちはどうしてここにいるんだ?」
それには佐奈子が答える。
「私たちはさっきまで色々見てたんだ。で、六組に寄って慶とパンケーキ食べ終わって店を出たら、シフト終わりの坂元ちゃんと会ったの。そしたら二人でパソコン室に行って待ってなさいって命令された」
坂元は何のお化けなんだろうね。
「坂元さんは実代さんと一緒で黒子だったはずだよ。物陰に隠れて音を立てたり、仕掛けを動かしたり。俺が見たときはクラスTシャツだったけど」
翁川はそう言う。外でクラスTシャツを着ているのは当たり前で、黒子姿で外を出歩くトンチンカンはこの世にいまい。
「で、その後大量に食糧を買い込んだ坂元と俺たちが会ったってことね……」
坂元はどうしているかなと振り返ると、たこ焼きを食べつつ接客をしていた。デスクトップパソコンの前に客を座らせているが、あれは一体どういう商売なんだ?
「どうも部活で自作のパソコンゲームを体験させているみたいだけど……」
翁川もプレイしたらしかった。坂元たちは、部活で作ったゲームを同人で売りに出すレベルらしい。ここは正式に言うなれば、ゲームプログラミング部だな。
「じゃ、私たちはクラスの仕事があるからこれで。ついでに、パソコン室の隣の音楽室で私たち演劇部が午後から公演するんだ。初回は一時半から。時間があったら観に来て」
そうか、佐奈子は演劇部だった。一回はこの子の演技を見てみたい。
「一応宣伝しておくと、俺も弓道部でヨーヨーすくいやってるから。興味があったら校庭の会場に来てね」
翁川の方は、本当に時間があったら行こう。二人は仲睦まじく(?)クールに会話しながらパソコン室を出て行った。俺は室内を振り返る。
遮光カーテンが引かれて、朝なんだか夜なんだかわからない部屋では、たくさんの生徒がパソコンに向き合っている。気付くとルリとノエルが坂元の教示を受けながら、ゲームを始めようとしていた。
「えーん。難しい。ルリはエロゲーしかプレイしたこと無いので」
逆にエロゲーだけをプレイするなよ。
「あ、相田くんも参戦する?」
「坂本先生。ゲームがしたいです……」
坂元に促されて二人と横並びに座った。あんまり時間ないんだが、格ゲーならばいっちょ腕試しと洒落こもうか。




