十三.宝と見え、麗しきこと並ぶべきものなし(11)
「えへへ。可愛いルリちゃんを褒めて遣わせ。ルリの技術を使えば、ネクタイを複製できます!」
「マジか。それなら今日は誤魔化せる気がする」
と、一瞬期待してしまったが、果たしてルリがまともな技術を使えるかな。ルリは抱えていたトートバッグから、一本の棒を取り出した。見たことある。ルリは立ち上がった。
「これをお股に挟んで——」
「違うでしょう」とノエルがツッコむ。助かる。
「間違えた。先っちょのボタンを押して、ポーンと組み立て式に立方体を完成させて……」
見たことあるのは、ミヨの家でだ。美月が所持していた、物体を粒子状にして転送したり、創造したりする装置。美月の持っていた方はルリの物より少し大きかった。ルリのやつはミニバージョンなのかもな。普通自動車に対する軽自動車みたいな。
「はい。これで、この中に物を作ることができますよ。どんな素材、デザインでも」
「ありがとう、ルリ。役に立つな」
俺が感謝を述べると、ルリはびっくりした。
「う、うん。ありがとうって言ってくれてありがとう」
どういうボケだ、そりゃ。俺はさっきノエルに見せた写真をルリに提示する。ルリはデザインを視界から脳内コンピューターに読み込み、素材を選択しているようだった。あいにくルリの視界に広がっているであろうデジタル画面は見えなかったものの、実直に仕事をしているようだ。
ルリは箱を俺たちの体で隠すように指示する。流石に未来の技術で物を作る瞬間を他の人間に見せるわけにはいかない。
「よーし。じゃあ生成します。萌え萌え波動、もあもあーん」
ルリはハートを手で作って合図を出す。メイド喫茶での既視感はこれか。先週もルリの「元に戻~れ。萌えキュンビーム」を食らった。
「はい、完成ですヨ!」
ルリは自慢げに取り出す。俺たちは三人で再びベンチに座って確認する。
「お、良さそうじゃないっすか」
ノエルはネクタイの質を見て感激していた。確かに本物と遜色ない。
「これはルリちゃん特製ですから。丈夫ですし、色落ちもしません!」
海外製みたいにヤワだとは思ってねーよ。
「だが待った。この裏地には美月が特別に『Shutaro.A』って刺繍を入れてくれたんだ。それが無いと……」
「ええー。刺繍は写真でもないと入れられないですよー。ルリの手縫いならできますが」
じゃあ要らねえ。お前の手縫いじゃ小学生のお裁縫レベルだろう。
「あと、ネクタイピンは?」
ノエルが気付かせてくれた。それもだ。
「どういうデザインなんですか? 写真だけじゃ不鮮明です」
「こう、銀色なんだけど三日月がこういう向きに彫ってあるんだ」
俺はルリに絵を描いて説明した。ルリは「なるほどー」と言って再び生成。
「はい。どーぞ」
そのピンには俺が描いたまんまのイビツな三日月が彫られていた。
「馬鹿! こんな気持ち悪いデザインではないぞ!」
「そんなこと言われても想像だけでは上手く作れませーん」
ルリの泣き言ももっともか。これ以上無理は言えない。
「わかった。助かったぜ、ありがとう」
ルリは「どうもどうも」と照れ隠しをしていた。ひとまず体裁は繕えそうだ。
「お礼にと言ってはなんですが。シュータくんたち、案内してくれる?」
ルリと行動するなんて。ミヨや美月に見つかったらどうしよう。この変態を捕らえたんだって誤魔化せばいいか。ノエルは面倒くさそうにしているけど、案内くらいしてやろうぜ。
11時12分。俺とノエルとルリは校舎を散策していた。
「わー。すっごく楽しそうなお店がたくさんありますねえ。この手作り感がなんともダサダサです」
嫌なら帰っていいんだからな。俺とノエルはルリの一歩前を歩いていた。
「シュータ先輩。ルリのこと、どうやって言い訳するつもりですか?」
「美月やミヨには、ルリを発見して危害が無さそうだから監視しているって伝える。他の知人にはノエルの彼女ってことにするよ」
「辞退します。一年生の知り合いってことにしましょう」
俺は借り物のネクタイが出来たので、一安心して気持ちが緩んでいた。本棟二階を歩いているときだ。
「あれ、相田くんじゃんけ」
坂元がいた。坂元は一組の水色クラスTシャツにジップパーカーを羽織っていた。
「エンジョイしているかい?」
「ぼちぼちだな」
坂元の方がエンジョイしていそうだ。両手にはたこ焼きやタピオカミルクティーなど食べ物が入った袋がわんさかぶら下がっている。
「それ何用だよ?」
「さっきまでみよりんたちとお化け屋敷の仕事しててさ。仕事が終わったから、パソコン部に籠城するために食糧を買い込んだってわけさ」
「私にも一つくださーい」
ルリが俺とノエルの隙間を縫って坂元の所へ行き、たこ焼きを一つ貰った。バカ野郎。不用意に前に出るな。
「誰、このアキバ系美少女は?」
ルリは美少女と言われて上機嫌になったようで、
「ありがとう、逆刃刀。ルリの方が美月よりKAWAIIですよね?」
「別にそこまでじゃないけど」と率直な坂元。
「あ、そうですか」と白目のルリ。
「そいつは、ノエルの友人の岡野ルリだ。変わり者だがよろしくしてやってくれ」
坂元は特に疑う様子も無く受け入れたようだ。良かった。
「じゃあさ、パソコン室に向かうから、皆も来る?」
「行きます、行きます、行っきまーす!」
ルリが大きく手を挙げてしまったから、坂元に付いて行くことに決めた。他に行きたい所も無いからな。ノエルは?
「俺も行く所は無いです。シフトは午後からですし。そうだ、どこかオススメあります?」
「三年二組のメイド喫茶だ。俺の推しメイドは赤松先輩」
ノエルは俺の正気を疑っていた。お前も冨田みたいに文化祭を味わい尽くせよ。
「あのね、シュータくんってハーレム趣味があってね、あと夜中はお腹出して寝てるからね、パンツがボクサーブリーフだってわかっちゃって——」
いつの間にかルリが坂元に要らぬ吹聴をしていた。ルリのやつ、生き埋めにしてやる。




