十三.宝と見え、麗しきこと並ぶべきものなし(9)
「詳しく話してください。福岡先輩とはよく一緒に帰るんですか?」
一カ月に一回あるか無いかだな。冨田や片瀬と一緒に帰ったとき、成り行きで一緒に帰るということはある。
詳しくって言われても話すようなことなんか無い。俺と福岡は定期で駅に入って、ホームで電車を待った。待つ間、俺はリュックを体の前に回していた。そしてリュックからイヤホンを取り出した。そのときはネクタイを確認してない。
で、そのまま音楽を聴きながら福岡と話した。リュックのチャックはきちんと閉めていたと断言できる。電車に乗っている間、俺と福岡は座席の前で横並びで立った。そのときはイヤホンを外したな。車内はうるさくて音が聞こえないからさ。
福岡とは、ぼちぼち話した。もし福岡や他の乗客がリュックからネクタイを取り出していたら、確実にわかるだろう。最寄り駅に到着して五分くらい歩いた後に、福岡と別れた。ちょうど腕時計を見たから覚えている。8時3分だった。
「ずいぶん細かい時間を覚えていますね」
「ん? ちょうど腕時計を見た記憶があったからな。おかしいか?」
「いや、時計を見たからといっても一々時刻なんか覚えるんすね、と思って。それは今はどうでもいいです。ここで問題に突き当たった気がするんですけどいいですか?」
――つまり?
「ネクタイが箱に入っているということです。箱は平べったくて軽いですが、運び出すには問題がありますね。それは長くてかさばるということです。シュータ先輩がリュックを背負っている以上、それを落とす、あるいは盗むのは困難を極めるようっす」
確かに。じゃあ、下校途中は可能性が低そうだ。と言うことは、だ。
「はい。最後に目撃したのはいつでしたっけ?」
「美月とウェイトレス服で写真を撮ったときだ。そのときの写真が残ってる」
俺はスマホをポケットから出してノエルに見せる。福岡から送信された写真には、ようこそ、と手を伸ばした笑顔の美月と微笑の俺が写っている。
「これが例のネクタイっすね」
ノエルは写真を拡大して眺めた。
「写真を撮った時刻はデータに残っていませんか?」
「福岡から送信された時刻ならわかる。2時15分だ」
と言うことは、2時30分頃にはネクタイがリュックの中に戻されたんだ。
「リュックに戻してから再度リュックを開けましたか?」
何度か開けた。飲み物を取りに行ったときだ。でも、ネクタイの有無は確認していないな。
「じゃあ、午後2時半から7時の間に無くなった可能性が高いんじゃないですか?」
その通りかもしれない。だが、それだと——
「盗まれたということです。放置されているリュックから自然とネクタイの箱が蒸発するわけが無い。犯人がいて、返って来る見込みが無い」
そういうことだ。故意犯であって目的がある。
「リュックを間違えてしまって、たまたま同じ大きさと色の箱が入っていたから持って行ってしまった……というのは無いでしょうね」
無いだろ。だとしても返却しろ。
「うーん。じゃあ犯行時刻は絞れたとして。次は犯人捜しですが、率直に誰だと思います?」
ノエルはカステラとソーダを交互に楽しんでいる。俺も純粋に楽しめる時間が欲しい。
「俺や美月に敵意を抱く連中なんか想像つかないぜ。でも、容疑者は……」
「そうですね。少しは絞れますかね」
ああ。まず校外の人間ではない。教師か生徒。教師は教室にほぼ入って来なかったし。
「生徒の中で、容疑者は?」
「いや、誰でも教室には入れたからな。主に六組の生徒。あるいは、ミヨや石島とか一組のヤツも結構長い時間滞在してた。だけどさ、俺のリュックは教室の後方にあって、どのクラスの誰が来ているかなんか、わかりっこない。他のクラスの人だってたくさん来ていた」
あの教室は誰でも入れたんだ。つまり、容疑者は生徒全員。
「はは。行き止まりです」
クッソ。なんてことだ。俺は頭を抱えた。本当に返って来ないのか? 俺の不注意で、美月からの思い出のプレゼントが。




