十三.宝と見え、麗しきこと並ぶべきものなし(8)
「ははあ、なるほど。先輩は心当たりが無いにもかかわらず、いつの間にか美月先輩のプレゼントである、ネクタイとピンを失くしたと」
「そうなんだ。失くしたときの記憶は全くない」
いつ失くなったかもわからないのだ。
「そして、なるべく早く発見するのが目標ですね? それはできれば、十二時半のシフトの前がいい。それまでに見つからなければ、美月先輩にバレてしまう」
そうだな。今は十時半だ。もう無理っぽいけど。
「あのー、俺としては、朝のときに素直に謝ってしまった方が良かったように思うんですが」
それもそうだ。報告せずに隠していたら、後ろ暗いところがあるんじゃないかと疑われるだろう。でも、楽しみにしている美月を前にガッカリさせるようなこと言えなかったんだよ。過去のことをとやかく言っても、時間を巻き戻せるわけじゃないんだから、意味ないが。
「美月先輩に言えば、時間を巻き戻せるっすよ」
その美月に言えないんだろーが。
「美月先輩のことだから、失くしてしまっても話せばわかりますよ」
そう願うけどさ。だが、このまま見つからないのに放っておくことはできない。
「うーん。なぜ失くしたんでしょうね。俺が力になれる範囲で協力しますよ。まず、どうして失くしたか、を考えないといけません」
「俺の不注意なのかな。考えられる原因は『落とした』、『どこかに置いたが忘れた』、『盗まれた』とか」
俺がどこかに置いて忘れるなんてことはあり得ないから、実質「気付かずに落とした」か「盗まれた」の二択だろう。俺はカステラを口に運ぶ。
「物を紛失したときは時系列順に遡っていくのが賢明です。いつどこで失くしたかの見当が付きますから」
ノエルはソーダをグイっと飲んだ。
「失くしたのに気付いたのが自宅なら、まずは自宅内で失くしたと考えられます」
「自宅はあり得ないと思うぞ。帰って来たのが夜8時頃。それからリュック開けたけど、取り出した物は限られている。家の鍵、スマホ、ペットボトル、勉強道具は持って行かなかったし、それくらいだ。翌日まで自室にリュックは置いておいて、翌朝まで失くしたのに気付かなかった」
なぜ夜中に美月からのプレゼントを見直そうと思わなかったのだろう。夜中のうちに気付いていれば——何もできなかったにしても、もっと対策が考えられた。
だが、結果論だよな。それを今更とやかく言ってもしょうがない。
「シュータ先輩の家には誰が在宅でしたか?」
「母さんと父さん。だけど、知らないみたいだった。今朝、ネクタイを知っているか訊いたが、どちらも知らないって答えた」
「ご家族は容疑者として考えられない?」
「だからそうだって。うちの両親はあり得ない。家で失くしたなら、ノエルが深夜に瞬間移動して俺の部屋に来て、ネクタイを盗んだ可能性も考えられる」
家では、俺も両親もネクタイを見ていないんだ。だから家に着く前に失くしたって考えるのが、常道だろう。
「俺ではないですよ。ネクタイを貰っていたことさえ、知らなかったですからね。じゃ、その前は下校時です。先輩はいつから誰と帰ったんですか?」
昨日は7時に学校を出たのだった。メンバーは、そのとき六組に残っていた仲のいい美月、冨田、福岡、片瀬の四人だ。まず、正門で自転車に乗る冨田と別れた。次に片瀬と、そして美月と駅に着く前に別れたのだった。
「その間に、リュックはどういう状態でしたか? 誰かに触られました?」
リュックはずっと閉じていたと思う。冨田は自転車を押して正門に向かっていたし、俺に不用意に近付くことも無かった。片瀬は俺に一度肩パンをした。だが、リュックを漁っていたら気付くだろ。それは美月や福岡にも同じことが言える。
「そのときは暗かったですか? 落としたら気が付くと思います?」
薄暗かったかな。落としたら気付くんじゃないのか。車の音がうるさかったから、落とした音に気付かない可能性は無くはない。
――が、もし俺が音に気付かないとしても周りの女子がわかるはずだ。それによく考えてみろ。縦二十センチで横七、八センチあった箱がリュックから、くるっ、パコーンと落ちるはずが無い。重力がきちんとある限りはな。人力が働かないと落とすことはあり得ない。
「なるほど。で、福岡先輩と二人になったシュータ先輩はどうしました?」
二人は都内の高級ホテルに消えて行きました——みたいに、写真週刊誌的なことにはならない。同じ駅を使っているから、電車に乗って最寄り駅まで行って、ちょっと歩いたら別れたよ。




