十三.宝と見え、麗しきこと並ぶべきものなし(7)
ここの女子制服は水色のメイド服で、カチューシャやロングスカートだった。こっちの方が可愛いな、美月に着せたいなんて思いつつ時間を過ごしていたら、料理が運ばれて来た。赤松先輩はやはり可愛いし、メイド服と笑顔が似合っていた。
「お待たせしちゃいましたか? こちらオムライスです」
冨田と俺の前に飲み物とオムライスが置かれる。値段に相応した小さめサイズだ。
「こちら、ケチャップでお名前を書くサービスをしておりますが、わたくしが——」
「ぜひ、お願いします!」
冨田が食い気味で懇願した。
「料金がお高くなってしまいますよ?」
赤松先輩が冨田に尋ねる。
「構いません。何ならそのケチャップごと買い取ります!」
「あはは。面白いね、キミ。冗談だよ」
赤松先輩は笑顔でケチャップを構える。
「お名前教えてくださいませ」
「冨田です」
「じゃ、トミーね」
短くしたいだけだろと思ったがツッコまなかった。先輩は「トミー」とハートマークをケチャップでオムライスの上に書いた。
「おまじないをしますから、ご主人様も一緒に掛け声お願いしますね」
赤松先輩は手でハートマークを作る。冨田も真似する。
「美味しくなあれ。萌え萌え……せーの」と先輩
「キューン!」
冨田が大声で叫んで、先輩と共にハートを注入する。もっと声量抑えろ。他の客から見られて恥ずかしい。店にとってみればこれ以上ない宣伝になるだろうが。
「はーい。じゃあそっちのキミ。名前伺ってもよろしいですか?」
俺もやるのかよ。辞退できないのか? 辞退したら冨田にキレられそうだ。くっそ。誰も他の連中が見てないのを確認して、やります。
「相田です」
「ふーん。じゃあ、アイくんね」
冨田がニヤニヤ笑っていた。先輩も「アイくん」以外に思い付かないんですか。先輩は「アイ」という文字と流れ星を書いた。
「はいじゃあ、ご主人様。掛け声お願いね?」
先輩は魅惑的な茶色の瞳を向けてくる。手でハートを作らされる。
「美味しくなあれ。萌え萌え?」
「……えっと、キュン」
「声小さっ。やり直しー」
先輩は俺を叱った。声が出ないんです。
「美味しくなあれ。萌え萌え……」
「キュ、キュン!」
思い切って言った。先輩と冨田は手を叩いて喜んだ。何だこの悶絶地獄は。そういや、この萌えキュンを最近どこかで聞いた気がしていたのだが、どこだっけな。
「それではごゆっくり。よくできましたね、ご主人様?」
赤松先輩は、俺をからかうように頭をポンと叩いて行ってしまった。食べるか。
「ホント、尊いぜ」
どう考えても、冨田には手が余る先輩っぽいけど。
「お会計になります」
俺たちは赤松先輩にお金を払った。恥ずかしいのでとっとと帰ろう。
「ちょうどお預かりします。そう言えばキミたちの服、カッコいいじゃん」
「ですよね! まっちゃんもお団子二つヘア似合ってますよ。俺、お団子頭好きなんです」
冨田は帰り際なのに猛烈アピールしていた。諦めろ。
「ふふ。ありがとう、張り切っちゃったの」
先輩イイな。俺的可愛いランクは美月が一番で、佐奈子が二番、先輩は三番です。あ、ミヨは……。
「では、いってらっしゃいませ。ご主人様。すぐ帰って来なきゃイヤですよ」
赤松先輩はテーブルで俺たちをお見送りした。
「はい、必ずや次のシフトの際に帰って来ますとも!」
冨田はスケジュール帳を変更していた。次はお前だけで行け。それか、石島でも誘って台無しになれ。
「よーし。次は三年七組だ! 新庄センパーイに会いに行くぜ」
まだ行くのか。コイツ、入念に下調べしてやがる。もう付き合いきれない。
「おい、冨田。もう可愛い先輩探しには付き合えんぞ」
「先輩だけじゃない。同級生も後輩も分け隔てなく巡回するつもりだ」
なおのこと嫌だ。同級生の店に行ってミヨや相園に遭遇したり、後輩のクラスでノエルに出くわしたらどうするってんだ。責任取れるのか。
「お前とは一旦お別れだ。後で会おうぜ。じゃあな」
「つれねーな。アイも可愛い子たちとふれ合って心を癒されたらいいのに」
俺はありがたいことに可愛い子には恵まれているから充分だ。冨田と別れて昇降口に行った。
靴に履き替えて校舎の外に出る。校門まで続く道のりには、テントを立てた出店がたくさん出ている。「野球部名物たこ焼き」、「環境美化委員会特製・焼いも」、「調理部ガッツリハンバーガー」など、色々な上り旗が突き出ている。外も賑やかなんだな。
「あ、シュータ先輩!」
こちらに手を振るノエルがいた。ノエルは鉢巻きに青の法被を着ている。
「よう。何だお前、その服」
「これは、えっと、うちのクラスは射的やってるので、その衣装です」
ふーん。似合うじゃん。
「シュータ先輩の服もいいじゃないっすか」
「あ、そのことだよ」
美月のプレゼントを失くしたことを思い出した。赤松先輩に癒されて忘れちまっていた。今は喫緊の問題を抱えているんだ。
「ノエル。どうか俺の頼み事というか、相談を受け付けて欲しい」
「ははあ。また、厄介事を抱え込んでいるわけですね」
ノエルは苦笑していた。頼むぜ。打ち明けられるのは、最早ノエルくらいしかいない。仕方なくベビーカステラとソーダ水を奢ってやって、校庭のベンチに座った。欅の木の下、俺は昨日から今日までの経緯を話した。




