十三.宝と見え、麗しきこと並ぶべきものなし(6)
三年二組のメイド喫茶前には六グループほどの生徒が並んでいた。まだ始まったばかりなのに盛況じゃないか。うちのカフェはどうなんだろうな。
「訊くまでもないかもしれんが、どうしてメイド喫茶にしたんだ?」
「それはシンプルアンサーさ。三年二組と言えば、星陽高校のマドンナである赤松先輩がいるじゃないか」
誰だ、それは。聞いたことも無い。
「マジかよ、お前。赤松先輩の美しさは高校でも随一だ。水泳部で片瀬の先輩。俺は先輩を愛するあまり、インターハイを観に行った」
暇なんだな。美月より可愛い先輩がいるとも思えないけど。
「竹本ちゃんはカワイイ七割、美しい三割だろ。赤松先輩はカワイイ三割、美しい七割なんだ。どっちも黄金比だがタイプが違う」
お前の「カワイイ」と「美しい」の違いが俺には理解できないな。でも、その憧れの先輩がこんな風に押し掛けて、都合よくメイドとして出て来るのか?
「甘いな、アイ。これから食べるオムライスの卵くらい甘い」
これからオムライス食べるのかよ。まだ朝だぞ。
「俺は既に三年二組のシフトは掌握している。先輩が今からシフトに入ることもリサーチ済みだ」
そういうことかい。お前は余計なところに労力を惜しまないよな。
そうこう言っているうちに順番が回ってきた。俺たちは二人掛けの席に案内された。男二人で来るって、すごく残念な男子たちという目で見られていないかなあ。気になるけど。俺たちを案内したのは、丸眼鏡を掛けた三年のメイドお姉さんだった。
「こんにちは。担当します、め、めぐみーです。よろしくお願いします、ご主人様」
眼鏡の先輩は恥じらいながら自己紹介した。こっちが恥ずかしくなる。たぶんそういう設定でやれと言われているのだが、羞恥心が勝ってしまうのだろう。
「え、ちょっと待ってください。赤松先輩は来ないんですか?」
冨田が訊いた。お前のお目当ての先輩はどれだ?
「えっと、2テーブルごとに担当を割り振っていて、赤松さんは奥の……」
奥にはテキパキ動くメイドさんがいる。メイド用なのだろうが、髪型はお団子を二つ結んだ形だ。
「ええー。赤松先輩が良かったのに。この日のために俺は徹底して下準備を……」
冨田は肩を落とした。お前、この野郎。そんなに言ったら頑張ってくれた「めぐみー」先輩が可哀想だろうが。
「すみません、めぐみー先輩」
俺があだ名で呼んだことがトドメとなってしまった。めぐみー先輩は半泣きで赤松先輩に交代を申し出た。冨田も俺も「ヤベ」という顔。
「冨田が悪いんだぞ」
「すまん。誰一人として女の子は傷付けないジェントルマンを心掛けていたつもりだったんだが」
シルバーのお盆を持った赤松先輩が来た。意外とニコニコしている。
「いらっしゃいませ、ご主人様。担当替わりました、まっちゃんです。キミたち、私のファンなんだって?」
赤松先輩はクスクス笑った。冨田は心を何百もの矢で打ち抜かれている。
「はい! まっちゃんの、だ、だ、大ファンです」
俺と話すときの福岡みたいになってるぞ。
「あの、先輩。俺たちのせいで担当替わってもらって申し訳ないです」
俺が代打で謝る。先輩は「いいんだよー」と言った。
「すごい熱心な後輩たちが来て受け止めきれないから替わって、ってめぐみから言われただけ。別に厳しい決まりがあるわけじゃないからご指名も受け付けるよ。で、ご注文は何にいたしますか?」
テーブルのメニュー表を見る。料理はオムライス一択。飲み物が数種類か。
「オムライス二つで。あとコーヒー。もちろんブラックですよ」
冨田は全力でカッコつけた。
「俺は、じゃあオレンジジュースで」
「お子ちゃまだなあ」と冨田。殺すぞ。
「承りました。ちょっぴりお待ちくださいませ」
赤松先輩はニコリと微笑んで厨房に帰って行った。不覚にも美しいと思ってしまった。
「ところで冨田。なぜ俺たちはカフェの制服で来たんだ?」
俺と冨田が着替えた意義とは。
「そりゃ、こっちの方がカッコいいからに決まってんだろ」
つくづくどうでもいい動機だな。
「こっちの店は男子店員いないのかな」
店内を見渡すが、男子の姿は目に入らない。ピンクでファンシーな雰囲気の中には女子生徒しか見当たらない。
「メイド喫茶だから仕切りの向こう側で料理をやらされてるんだろうよ。華やかな職場には、過酷な裏労働が付き物だろ?」
じゃあ、まだ二年六組は健全かもしれない。似たような店でも男子の待遇は天と地ほどの差だ。




