十三.宝と見え、麗しきこと並ぶべきものなし(3)
ネクタイは箱に入れて大事にしまっておいた。昼食をとり終えた後、リュックは教室の窓際(教室の後ろ)に置いた。クラスメイトが地べたに段ボールを敷いて所々座っているのを縫ってトイレに行った。そしてトイレの帰りに、廊下で謎の集団に襲われたのだった。
「あ、シュータじゃない。なにそのバーテンダーみたいな服」
声を掛けてきたのは黒子である。
「誰だお前?」
「失礼ね、ミヨよ。アララギミヨ! 黒子で装置を作動させる役なの!」
黒子は顔の前の黒い布を取り去った。ああ、ミヨか。後ろにいる死神とフランケンシュタインとカボチャは?
「死神はサナちゃん。フランケンシュタインの怪物は慶くんよ。ついでにカボチャの石島くんもいるわ」
死神は黒の布を全身に被り、顔に骸骨のお面を装着していた。仮面を取ると確かに佐奈子だった。仮面を取ったとて、大して表情が変わらないのがサナちゃんだね。フランケンシュタインのマスクの下は、薄味顔の翁川慶だ。相変わらず顔も印象もキャラも薄いな。
そしてカボチャを被ってマントを羽織っているのは、イケメンの石島。カボチャを取るだけで、廊下では女子のひそひそ声、キャーキャー声が聞こえる。
「お前ら、お化け屋敷やるからって、そんな恰好で巡回するなよ、気味悪い」
「今、教室でシミュレーションを重ねているのよ。脱ぐのが面倒だからね。そのまま食堂に行っちゃって」
へえ。頑張ってくれとしか言えない。
「そうだ。皆で六組に行きましょうよ。シュータたちの進捗具合を見ましょう」
別にお前らに監督される謂れは無い。だが、お化けたちは乗り気みたいで付いて来た。シミュレーションはどうしたんだよ。他クラスの冷やかしなんてしやがって。
「ヘイ・ヨウ。ミヨが来たよう、百鬼夜行。隔靴搔痒、スターティン・ショウ」
ミヨが小声で歌いながら六組の教室に入って来た。お前には羞恥心が欠けているのか。
「へえ、雰囲気があるね。一回は来店しよう」
石島はにこやかに見回した。数人の女子が作業の手を止めて歓喜している。佐奈子カップルは静かに付いて来た。お面を外せ。お前らは黙っていると怖いから逆に喋ってくれ。
「あれ、美月はいないの?」
ミヨは美月を捜していた。俺がトイレに行く前はいたけどな。
「おーい、冨田。美月のこと知らない?」
冨田は椅子に乗って壁の飾りつけをしていた。
「うるせえ。アイは遊んでないで仕事しろ」
まさか、冨田に仕事しろと言われる日が来るとは思いもしなかった。
「美月はどこにいるかなって思って……」
「いいから働け、面食い面倒臭がり面白いモテ方してる羨ましいナマケモノ男」
ぐぬぬ。やんのか、てめえ。
「喧嘩するほど仲がいい、だね。っていうか、相田くんはチャラ田くんくらいしか友達いないもんね」
福岡がいた。外装をしていたらしく、顔に茶色のペンキが付着している。あと、失礼極まりないぞ。
「美月ちゃんならカフェの制服を試着しに行ったよ」
マジか。あの麗しきウェイトレス服がついに解禁か。
「え、何なに? どういう服なの?」
ミヨが俺の背中に飛び付いて訊いてくる。くっ付くな、黒子。
「相田くんの服に似てるのかな?」
石島が訊いてくる。
「俺のバーテンダーとは違って、女子はスカートだよ」
白のブラウスと黒ワンピースに下エプロンをつけた、よくあるコスチュームだ。ワンピースは女子の手作りらしい。
「ちょっと、ちょっと、皆! 大傑作ができちゃった」
片瀬が教室に飛び込んでくる。何だろう、傑作って。
「ほら、美月ちゃん!」
片瀬に促されて美月が教室に入って来る。




