一.黄金ある竹を見つくる(20)らいと
「そう、ウニ。黒くてトゲトゲの」
「う、ちょっと待ってください。今調べますので」
すっかり元の調子に戻った? ような竹本は目の前の何も無い空間を触る。竹本には見えるというデジタル画面を見ているのだろう。そこまでポチポチ押してないことを鑑みても、視線なんかである程度操作可能なのかもしれない。
「ええ! 嘘ですよね。これ魚ですか」
絶句している。魚ではないだろう。
「それの中身の黄色い柔らかい部分を食べるんだよ」
「中身、黄色、柔らかい」と竹本は明らかに食欲を減退させていた。
「た、食べれば美味しいよ」
俺なりのフォローは入れておいたから、もし竹本が口に入れることさえ拒否した場合でもこれ以上責任は取らない。全国のウニ業界の皆様にはあらかじめ断っておく。
「では食べますか、ええ」
気乗りはしないらしいな。
「そう言えば、相田さんはラーメン食べなくていいのですか? ほら、あるみたいですよ」
タッチパネル横の広告を指して笑った。これは冗談かな。
「やめてって。寿司屋で食べるものじゃないよ」
俺は苦笑で返すけど、おわかりの通り、俺は「面食い」と言われているのであって、麺類が好きなわけではない。俺は苦笑してウニを差し出した。
「はい、あげる」
竹本は四方からウニを観察した。顔が引きつっている。
「た、食べましょう」
竹本は割り箸を使い、慣れない手つきで挟んでウニを持ち上げ、醤油にワンバン。口に運ぶ箸が、微動しているのがわかった。箸が苦手なのか、ウニが恐ろしいのか……。
かくて綺麗な薄い唇にウニは吸い込まれ、数回の咀嚼。まずは眉をピクピクと動かした。あれ、まずいんじゃないか。そのままの表情で口を動かし、飲み込む。次は感想を言うだろう。緊張の一瞬。俺は固唾を飲んだ。
「あら、美味しい……」
全国のウニ業者さんにいい報告ができそうだ。俺は寿司を食べさせて良かったと思う。
「気に入ってくれたなら良かった」
「ええ。もう一皿頼みます」
竹本がタッチパネルに触れようと箸を置く。俺はネギトロを食おうとしたのだがレーンに流れている寿司が目に入った。
「あ、竹本さん。カリフォルニアロール食べない?」
竹本は驚いて顔を赤くした。
「相田さん! 私のこと、からかっているでしょう」
何のことかと思ったが、竹本はカリフォルニア州から来た設定になっているのだった。自分で考えた設定が今になって恥ずかしいらしい。
「いいじゃないか。美味しいよ。カリフォルニアの味」
「次言ったら、ちょっと怒るかもしれないですよ」
目線を醤油皿の方に向けてふて腐れている。竹本には案外子供みたいなところがあるのだ。あんまり見たことの無い姿だ。きっと真面目な竹本がいつも隠している面。心を開いた相手にだけ見せる顔だった。誰しもそういうところがあるだろう。それは未来人の竹本でも同じだった。
たったそれだけのことが、俺にとっては嬉しかったのだろう。つい口が滑ってしまった。
「竹本さん。今日だけなら、うちに来てもいいよ」




