十三.宝と見え、麗しきこと並ぶべきものなし(2)
ちんたら仕事をして十一時頃、俺が三個目の窓に縦テープを引き終わったときだった。
「あの、シュータさん。時間ありますか?」
声が掛けられた。顔を見なくてもわかる。
「どうした? 美月」
そこには、胸の前に縦二十センチ大の長方形の箱を抱えた美月がいた。下は学校の制服のチェック柄スカートだが、上はクラスで制作したTシャツを着ている。
「シュータさん。これを差し上げようと思って」
その箱を俺に手渡す。どうせミヨが持たせたゴミだろうと思って受け取る。
「ありがとう。何かな?」
箱を開けると、その中には紺のネクタイとネクタイピンが入っている。
「これは?」
美月は笑顔になった。ネクタイを手に取る。細い縞模様が斜めに入っている。銀のネクタイピンもセットだ。
「ふふ。ここに刺繍が入っています」
ネクタイの裏には「Shutaro.A」という文字が刺繍で刻まれている。
「え、なんで俺の名前が?」
「少し早いですが、私からの誕生日プレゼントです。実はネクタイを買って刺繍を入れてもらったのです」
美月からの誕生日プレゼント⁉ まさか俺の誕生日を知っているのか?
「ええ。シュータさんは九月二十日が誕生日ですものね」
そうだけど。どこで知ったんだろう。
「チャラ田さんからコッソリ聞きました。合ってますよね」
美月からプレゼントが貰えるなんて思いもしなかった。感動した。
「ありがとう。大切にする。家宝だ。デラックスな金庫に入れておく」
俺が大げさに感謝すると、美月は苦笑した。
「えっと、文化祭の接客のときに着けて欲しいです」
そうか。男子のカフェ制服はネクタイが必須だからな。学校の制服のネクタイか、父のものを借りようと考えていた。
「ちょっと、試着してもらえますか? 似合うかどうか見てみたいので」
俺は冨田に仕事を押し付けて更衣室に向かった。クラスTシャツから制服に着替える。冨田には恨まれるだろうな。
「どうなんだろうか……」
俺は学校の制服に市販のベストを羽織り、そこに美月のネクタイを結んだ。胸の辺りが神々しい気がする。鏡で見ても似合ってるんじゃないかと思った。
「よ」
教室に戻る。他のクラスメイトは、カラフルなクラス製Tシャツを着ているから(全クラス作ることを強制されているのだが、俺たちのクラスはウェイトレス服だから着る機会が少ない。ちなみにピンク色)、俺はちょっと目立った。で、美月の前に行くと、
「わあ、似合います。シュータさんならこの色がいいかなって思って選んだんです。長さも色合いもいいですね」
美月は喜んだ。そう言われると俺も嬉しくなる。似合うってさ。
「そうそう、美月の誕生日っていつか訊いてもいい?」
「え、私の誕生日?」
美月は驚く。
「ええっと……八月十五日です」
俺の一カ月前。ちょっと待て。誕生日が過ぎてるじゃねえか。
「駄目じゃん。俺たち、お祝いしてないよ」
「いや、お二人が入れ替わって大変な時期だったのと、私が喪中なので」
誕生日って喪中とか関係するんだっけ?
「お祝いは辞退したのでした。ごめんなさい」
「まあ、後でお祝い会しよう。元に戻ったことだし、ミヨでも主催者に祀り上げてさ」
美月はくすぐったいように「ありがとうございます」と言った。そう、普段は面倒くさがりの俺でも、今は機嫌がいいのさ。カラオケでもコンパでも今ならどんと来いだ。だって似合うって言われたんだからな。
「へえ。相田、こっち向いて」
片瀬は俺に対してスマホを構えている。写真か。ピース。
「はっは。ポーズだっさ」
ウゼえ。
「友達に共有しておいたから」
おい、やめろよ。肖像権だぞ。片瀬はクスクス笑いながらどこかに行ってしまった。
「いいじゃないですか。カッコいいですよ」
カッコいいからと言っても広めるのは——カッコいい?
「カッコいいですよ?」
美月は笑顔で言った。なんか、今日は幸せだ。
「おいアイ。仕事せいや」
弱った女御なら呪殺できそうな視線を冨田から貰った。それがお前のプレゼントか。今なら何でもありがたく受け取ろう。




