十三.宝と見え、麗しきこと並ぶべきものなし
まだ暑い日々が続くが、俺は意気揚々と学校に登校していた。駅から校門までの最中、ノエルとばったり出くわした。
「おはようございます、先輩」
ノエルは今日も爽やかな笑顔である。
「よう、ノエル。美月をホテルに送って以来だな」
八月の最終週に俺とミヨが元に戻った。今は九月の初週だ。今週の金曜日と土曜日に、星陽高校文化祭が催される。んで、今日は木曜日。明日から文化祭なんだ。
「久し振りですね。すっかり調子は戻りました?」
ミヨから俺の体に戻ったわけだが、まあ既に元通りさ。しかし、少しは働き者の性質が根付いた気もする。
「それは良かったです。無事平和を取り戻したということですね」
そうかな。美月は家なし子になってしまっているが。
「美月先輩は可哀想ですけど、みよりん先輩は良かったのでは?」
それもそうだな。両親と束の間の家族団らんを楽しんで欲しい。
「ともかく、ミヨの体から解放された。俺はそれだけで充分だ」
涙ぐましい喜びだな。アイデンティティも取り返した。俺は一生俺として生きていくぜ。
「何言ってるの? みよりんとどういう関係?」
背後から声がしたので振り返って見ると、後ろには片瀬がいた。もしかして「ミヨの体から解放された」ってのを聞いて、おかしな方向に勘違いしてるのか?
「違うって。それはだな、ミヨが文化祭に注力しているから、俺はあいつのための肉体的雑用から解放されたってことを言ったのさ」
片瀬は疑わしそうに「へー」と言った。
「他クラスの女子に現を抜かす前に、私たちのクラス準備をきちんとやってよね。やんなきゃ殺すから」
殺害予告は立派な脅迫罪だぜ。それに、殺すぞって脅しは真面目な俺じゃなく、いつも暇そうにプラプラ遊び歩いている冨田にでも言ったらどうだ?
「そうね。アイツ、目を離すとすぐ仕事を放棄するんだから。でも、口で言っても聞かないなら、有無を言わさず屠殺するわ」
楽しい文化祭で人殺しをするな。
「そうだ、ノエルくんのクラスは何するの?」
片瀬を初めとする先輩方(特に女子)に人気が高いノエルは、訊かれると愛想よく答えた。
「俺たちは射的をするんです。おもちゃの銃で的を撃ち抜いたら景品を渡す、みたいな」
「へえ、そうなんだ。面白そうだね」
それが射的だからな。
「絶対に岡ちゃん連れて遊びに行くね」
「はは。ぜひぜひよろしくお願いします」
ま、楽しいなら結果往来だ。
今日は一日中準備の日だ。こんな楽ちんな日があっていいのかね。羽根を伸ばして寛ごうっと。そう思っていたら、どこもバタバタと忙しそうな雰囲気が漂っていた。準備がギリギリでデッドラインに追われているらしい。
「あ、相田くん。これ手伝って!」
福岡に言いつけられて、俺は教室の内装を手伝わされていた。ちなみに俺のクラスの出し物が何かと言えば、あれだ、パンケーキカフェ。なんだそりゃって思うだろ? 簡単だ。パンケーキを出す飲み物屋さん。つまり、パンケーキカフェ。
店のモチーフはレトロな喫茶店だ。店員は、男子だとワイシャツに黒ベスト、女子は白黒ウェイトレス姿で接客する。黒板の前に冷蔵庫とホットプレートとペットボトルを並べ、そこからパンケーキと飲み物を準備して給仕する感じだ。席は教室の机を向かい合わせに四つほど合体させて、木目を意識した色のテーブルクロスを上から掛けている。それで八テーブル用意できる。
もう調理台やテーブル、飲食物は準備完了なのだが、まだ出来ないのは装飾だ。外装は外装で、お店の名前やイラストなどを色紙で飾り付けている。本物の喫茶店みたいで趣があった。店内では見た目が寂しいからということで、キラキラした長いモールみたいなやつ(クリスマスみたいじゃないか?)を壁に吊るしたいと言われ、教室の端から端まで繋げている。
今俺がやっているのは、窓に窓枠風の茶色いテープを十字に張り付けること。簡単だから冨田と二人でやれと言われた。ま、女子から言われたことをやるだけさ。文化祭なんてのは。
文化祭っていいですよね。ぐうたらしてました。
文化祭なら、米澤穂信さんの古典部シリーズ3作目『クドリャフカの順番』が一番。あの伏線回収は、ミステリーというか小説のお手本ですよね。読んだこと無い方、ぜひご一読ください。




