十二.音には聞けども、いまだ見ぬ物なり(17)
「遅かったじゃない。大丈夫?」
ミヨ母が心配してきた。言わずもがな、ミヨの涙は乾ききっている。
「あ、全然平気よ。むしろ超元気」
ミヨはさっき俺が座ってた方の席に座った。俺はミヨの席へ。
「本当だ。いつもの実代だね」
ミヨ父もほっとしている。
「さっきはどうしたの?」
母がミヨに訊く。ミヨはニコっとして、
「会えたのが嬉しくって我慢できなくなっただけよ。向こうに行ったのは、シュータが二人に言いたいことがあるから、言ってもいいかなって訊いてきたのよ。ね?」
ね? じゃねえ。何の話だよ。ミヨの無茶ぶりか。
「何でも言って欲しいな」
父が俺に優しく訊いてきた。ちょっと待ってください。今考えますから。
「ええっと……。実代さんのことで話したいことがあって。さっき、実代さんが寂しくしているんじゃないかって心配されてましたけど、僕は心配ないと思います。実代さんは、勉強ができますし、運動神経はいいですし、部活動もやって行動力もありますし、元気で明るくて人気者です。
確かに暴走気味になることもありますけど、そういうところも含めて、皆から好かれています。実代さんは友達が多くて寂しい思いはしていないと思います。
でも、お父さんやお母さんの話はよく聞くので、二人のことが大好きなんだってこともわかります。だから、今日会えることだって楽しみにしていました。そのことは、僕の口から言わないといけないかなと思って……」
うわあ、めっちゃ恥ずかしいこと言った。しかも本人の目の前で。ミヨを見ると、顔が真っ赤だった。俺に何か言えって言ったのはお前なんだぞ。
「良かったね。ミヨのことちゃんと見てくれてる人で」
母はミヨに笑いかける。ミヨも反撃(?)してきた。
「シュータっていい人でしょ? 馬鹿なことしても付き合ってくれるの。それに高校で一番カッコいい男子なの。それに優しい。私、見る目があるの」
心にも無いことを言いやがって。
「うん。相田くん、ミヨのことよろしく」
父は俺にそう言った。ミヨは俺の方をじっと見ている。ちゃんと答えるってば。
「はい。お父さんとお母さんがいない間、寂しい思いはさせませんから。実代さんは僕が幸せにします」
ミヨが脇腹を肘で突いてきた。
「そこまで言わなくてもいいでしょ!」
だって、俺はミヨの恋人役なんだろ。言わないわけにいかないじゃん。
「ははは。だけどね、相田くん。君にお父さんと呼ばれる筋合いは無い」
お父さんに真顔で言われた。マ、マジで。ドラマで聞く科白だ。こんなに優しそうでスタイリッシュ若社長みたいな雰囲気の人なのに、意外と厳格なお方なのか⁉
「す、すみません」
俺は一目散に謝る。すると、蘭家の笑い声が上がった。
「ごめん、冗談だよ。実代のことよろしくね」
父が謝る。びっくりした。
「まったくシュータって本当にバカね」
ミヨも楽しそうに笑っている。なんだか幸せそうだなと思った。本来はこういうことなんだ。やっぱり元に戻って正しかったんだな。
それから食事を終えた後、俺は車で駅のロータリーまで送ってもらった。今日はこれでお別れ。あとは家族水入らずでやってくれ。
「じゃあね。シュータ」
ミヨは助手席の窓から言った。
「良かったな、ミヨ」
「バイバイ。ありがとう」
車は発進して行く。助手席の窓から手がひらひら振られた。危ないから手は外に出すなよ。




