十二.音には聞けども、いまだ見ぬ物なり(16)
ルリが実行犯……。まさか。どういうこと⁉
「ルリが八月三日にプールの売店で二人の中身を入れ替えたのです。そのまま過去に『戻って』、今日ここに再登場したということですね。つまり、自分で仕掛けて自分で修復しに来たということ」
「なんでわざわざそんなコトするんだよ! マッチポンプじゃないか」
ミヨ(男)がキレる。その通りよ。どうして入れ替える必要があったの?
「それは他言無用。言えません。ですが、シュータくんならいつかわかるかもよ?」
私が? どういう意味だろう。
「まあ、ちゃっちゃと入れ替えちゃいましょう。二人ともルリの眼を見て」
ミヨ(男)と二人、警戒しながらもルリを見る。
「元に戻~れ。萌えキュンビーム」
おええ。絶対違うでしょ、それ。そう思ったら、私はゆっくりミヨ(男)と額を重ね合わせた。
「……あ。私、戻った?」
私は自分の体を見る。視線が十センチ高い。シュータの服。
「も、戻ったの?」
ようやく自分の体を取り戻した! 私はミヨと目を合わせる。
「なんか、鏡を見てる気分だな」
ミヨがそう言った。全くの同感よ。昨日までの私の顔だわ。
「ちょっと二人とも。元に戻ったんですから、お股は閉じるの? 開くの?」
私は気が付くと、男には似合わない内股だった。肩も内向きだし。
「それに、口調も気を付けてください。俺と私でしょう?」
うわ、そうだった。俺、だっけ。粋がってるみたいで恥ずかしい。
「これで一件落着。事件解決。ふ、また一つ謎を解決してしまった」
ルリはカッコつけていた。
「こんのお、馬鹿ルリ! 全部アンタが悪いのよ! 自分で事件を起こして自分で解決して、何が一件落着よ! 自作自演じゃない」
ミヨはルリを怒鳴りつけていた。俺だって猛烈に怒っているわ……いるぜ!
「しょうがないんですー。これはしないといけなかったんですー。むしろ感謝して欲しいと言うか、シュータくんには絶対怒られたくありませんーだ。汚れ役をしてあげたのに!」
ルリは訳のわからないことを喚いている。とにかく一度叱られろ。
「ところで、なぜ俺とミヨを入れ替えたんだ?」
ここが一番気になる所だった。なぜ美月やノエルじゃ駄目だった? 故意犯なら理由を持っているはずだ。
「んー? 話していいのかな。シュータくんやお姉ちゃんたちに叱られるかもしれないけど、言っちゃいます。みよりんを入れ替えることは絶対だったの。で、相手は誰でも良かった。だから、一番優秀なシュータくんに決めたんだ。心が信頼できるからね」
どういうことか全然理解できぬ。
「じゃあ、方法は? 伊部くんが悩んでいたけど」
ミヨが訊く。それも問題だったな。伊部はできずにルリにはできた。これはつまりどういうことなのか。ルリの方が優秀だったのか。
「伊部くんができなくても当たり前です。だってルリは未来から来たんですからね。エッヘン」
お前が未来人なのは知ってる。
「方法はイージーです。記憶の置換です。二人の記憶をデータ化して、入れ替えて上書きしたのです。ですから、みよりんの体にはシュータくんの、シュータくんの体にはみよりんの記憶データが上書きされたのです」
それで入れ替わったように感じたのか? 恐ろしい技術だ。
「アンタら、またそれを使って悪さをしようなんて考えていないでしょうね!」
ミヨが詰め寄る。ルリは首を横に振った。
「いいえ。今回だけですよーん。これは必要性があった事件なの」
そんなわけあるか! 俺とミヨは被害しかこうむっていない。コイツ、ただじゃ置かない。ミヨ、一緒にお仕置きだ。お仕置きが好きそうな顔してるもんな。
「またまたシュータくん、そんなこと言っちゃってー。ルリのこと好きなくせに」
一ミリも好きじゃねえよ。夏の暑さくらい忌み嫌っている。
「また抱き締めちゃおー」
「むわっ、暑苦しい!」
俺はルリに抱き付かれた。コイツ、抱き付いた隙に紛れて刺してくるとかあり得るからな。
「離れなさい、馬鹿!」
ミヨが目くじらを立てて怒る。
「みよりんこわーい。とにかく、今日は帰りまっせー。バイバイきーん」
ルリは一歩退くと、ヒュンと消えてしまった。
「な、何だったのよ……」
ミヨは呆然としていた。が、何はともあれ、俺たちは元に戻ったみたいだ。
「本当にルリが犯人だったの? どうしてかしら」
わからないが、俺もシュータとしての感覚を思い出してきた。案外、簡単に思い出せるぜ、この感じ。やっぱ、こうでなきゃな。
「シュータ。調子狂ったけど、早く戻るわよ」
そうだ。俺はミヨの両親を待たせているんだった。これからどうしよう。




