十二.音には聞けども、いまだ見ぬ物なり(15)
「実代、これあげる」
ママは私のプレートに、私の好物であるはずのフライドポテトを移してくれた。
「あ、ありがとう」
私は自分でもわかるくらいぎこちない笑顔で言った。ママは気付いた。
「なんか、今日の実代。元気ないね」
「そうだね。久し振りだから緊張させちゃったかな。ごめんね。会えていなくて」
パパも不安そうに気遣う。違うの!
「そうじゃないの、私は、別に……」
パニックになって、なぜか泣きそうになった。何かに耐えられなかった。
「私たち、実代を一人にしちゃって悪いなって思ってるの。だから、もし我慢できないくらい辛くなったら、きちんと教えてね。ママは実代の味方だから」
「ううん。大丈夫」
もう涙を我慢できない。
「あの、ちょっと実代さんと話があるので、一瞬席を外してもいいですか?」
ミヨ(男)が手を挙げた。そして私の手首を掴んで店の外に連れ出した。レストランの外は暑くて、セミがうるさかった。私は急に安心して泣いてしまった。
「どうしたんだよ、お前」
ミヨ(男)は私の背中をさすった。
「ごめん。こんなつもりは無かったんだけど」
私は涙を拭ってミヨ(男)を見た。
「私、気付いたの。私は『蘭実代』じゃない。『相田周太郎』なの」
ミヨ(男)は真顔で私を見ている。
「私はミヨの体に慣れてきた。でも、どんなに慣れてもミヨにはなれない。私はミヨと思い出を共有してない。私はあの二人の子供じゃない」
「そうだな」
「あの二人の愛を受けるべきなのは、私じゃなくて貴方なのよ。私は本当はここにいちゃいけないんだって。ミヨ、貴方が愛されなくちゃいけない。私は貴方が愛されていることがよくわかった。こんな貴重な時間、私が浪費しちゃ駄目なの」
私の訴えを、ミヨ(男)は素直に頷いて聞いた。
「そうだよ。俺は結局シュータじゃない。お前がシュータなんだよな」
ミヨ(男)は私の涙を、固い指で拭いた。
「だから、もうやめよう。元に戻らないと」
「そんなこと言っても戻れないじゃないか。方法が無いんだ」
「どうしてもこのままじゃ良くないわ」
私のワガママを聞いて、ミヨ(男)は困った顔をする。
「気持ちはわかるけどさ——」
「戻れないなら、きちんとこのことを打ち明けましょう。そうでもしないと」
ミヨ(男)は頭を掻いた。私の必死な目を見て。もう、何とかしなさいよ。助けてよ。
「わーったよ。二人に上手く説明しよう」
ミヨ(男)は何かを考える様子で言った。
「どうしよっかな。無理ゲーだぞ」
「私たちだって誤魔化すのが限界なんじゃないの?」
ミヨ(男)は悩んだまま黙りこくってしまった。どうしようもないのかな。私たちは一生このままなのかな。こんなのって——
「パンパカパーン!」
陽気な声が耳元で聞こえた。誰?
「呼ばれてルリちゃんシャラランラーン! 超絶カワイイ皆のアイドル、キラーン、岡野ルリちゃん登場です♪ ヤホヤッホー、ふわーん、パフパフ、指ハート、シュワシュワシュワちゃ~ん」
ルリがいた。存在を忘れかけていたけど、美月を敵視している未来人変態おバカギャル。今日はいつものツインテールに、へそ出し露出狂ファッション。なんでアンタがここにいるのよ。
「ルリちゃんは正義で良い子の味方なのです。ですから困っている少年少女を見て、遥々未来から駆け付けたのですヨ!」
ルリが正義の味方かどうかは別として、この入れ替わり事件を知っているらしい。
「帰れ、アホ」
ミヨ(男)が殴ると、ルリは怒った。
「ちょっと、シュータくんの意地悪。ルリはシュータくんの命令で過去に来たのよ」
シュータは私よ。
「あ、じゃあ殴ったのはみよりんか。入れ替わってるからわかりにくいですねえ。まったく」
「そんなのどうでもいいんだ。お前は何の目的でここに来たんだよ」
ミヨ(男)が問いただす。ルリはニヤリと笑った。
「ルリの目的は簡単です。入れ替わった二人を元に戻しに来ました」
はい? どうして敵のルリが私たちを助けに来たのよ。って、元に戻せるの?
「本当に戻せますよ。ビコーズ、アイ・アム・ア・パーペトレイター」
ルリが実行犯……。まさか。どういうこと⁉




