十二.音には聞けども、いまだ見ぬ物なり(8)
エサを全部消費すると、俺たちは別の所に遊びに行った。パターゴルフができるようなので、皆でゴルフをした。運動神経がいい石島やミヨ(男)なんかが活躍していて、ミヨは俺の体なのに上手く動けるのかーと感心していたら、俺がボギーした。美月や福岡も苦手らしかった。俺たちは飽きてしまって八番ホールで途中退席させてもらう。そして三人で飲み物を買いに行った。
「みよりん、こういうの得意なのかと思った」
福岡が意外そうに俺を見ていた。たぶんミヨはゴルフだろうが、クリケットだろうが、カバディだろうが上手にこなすだろう。だが、運動神経やセンスやカリスマは内面に起因しているらしいぜ。俺たちは自販機でポチっと飲み物を購入する。この時期は飲み物がいくつあっても足りない。
「私、チャラ田くんにも買ってあげよ」
福岡がそう言ってジュースを買っていた。
「片瀬ちゃんにも買ってあげれば?」と言うと、
「え、いや、その、だってさっき自分で買ってたし」
福岡は困惑していた。なんで? ついでにトイレとかも済ませて戻る。わざわざ暑い所に戻るなんてな。まったく、嫌に——はならない。楽しいからさ。
「え、美月ちゃん?」
福岡の切羽詰まった声。美月がどうしたって? さっきりんごジュースを買って喜んで飲んでいたじゃないか。
「え」
美月が頭を押さえ、膝をついていた。血の気が引く。
「大丈夫か? 何があった?」
隣に座って表情を覗く。美月の顔は蒼白で冷や汗が出ていた。
「すみません。何ともないです。少し、貧血気味というか」
なんでいきなり。美月に冷たい飲み物を飲ませた。こうして座り続けていれば治るかと思ったけれど、一向に改善しないどころか、顔色は一層悪くなっていく。美月が体調不良になるなんてあり得るのか? 伊部は何をしてるんだ? 未来の医療なら治せない病気なんか無いんだろうが。
「これ、涼しい所に移動させないとマズいよ」
福岡が美月の汗を拭いなら言った。そうだよな。さっきの休憩所にでも移そう。俺は美月の肩を支えて立たせようとする。
「あれ、だ、駄目ね」
ミヨの体じゃ美月を支えられない。くそ、なんでこんなことに。
「私たちじゃ無理だよ」
「お……私がミヨ、じゃなくて、シュータを呼ぶから!」
俺は急いでミヨ(男)に電話を掛けた。応答するまで四コールかかったけど、永遠に感じた。俺が電話で美月が倒れたことを伝えると、すぐに駆け付けるからと言われた。
ここから歩いて五分ほど離れていたんだが、応援はあっという間に来た。最初に来たのは石島。走ってきたようだが、それでも一分半。予想より速すぎだ。他の連中はまだ後ろの方にいる。
「美月さん? どうしたの?」
「本人は貧血だって言ってる。とりあえず休憩所に運んで様子見ようと——」
「わかった。僕が運ぶ」
石島は座り込む美月を抱えると、ダッシュで休憩所に向かった。何の躊躇も無いお姫様抱っこ。よろけることも無く真っ直ぐ走って行った。そりゃ、俺やノエルをぶっ飛ばした筋力があるんだから、それくらいワケもないだろう。いざってときに役立つヤツだ。俺は密かにカッコいいと思った。本物のイケメンだ。
「お、おい。大丈夫なのかよ」
続いて来た冨田はだいぶ息を切らしていた。そう言えば石島は息すら切れていなかった。
「貧血で気分が悪くなったらしくってさ。まずはさっきの休憩所に運ぼうと思って」
次に到着していたミヨ(男)は、ちょっと怪訝そうな顔。皆で追い掛けないといけないので、多少小走りで付いて行く。正直、真夏にあんな離れた場所までゼンリョクで走って行くのは無理だ。俺は最後方でミヨ(男)と話した。
「シュータ、美月が体調不良になったってのは事実なの?」
俺は頷く。美月は福岡の手前、嘘を吐いたのだろうか。
「伊部くんに訊きましょう。そうじゃないと、もしかしたら……」
そうだ。もしかしたら超能力者あるいは未来人の妨害行為かもしれない。俺はスマホを取り出す。そして、
「どうすりゃ、伊部に電話が掛かるんだ?」
ミヨ(男)は俺を睨んでくる。しょうがないだろ。いつもは都合よく呼び出せるんだ。
『もしもし伊部だ』
お、不機嫌そうな声が聞こえてきた。




