十二.音には聞けども、いまだ見ぬ物なり(7)
到着から結局三十分くらい居座ってしまって(メンバーを考えたらわかるだろ?)、俺たちは嫌々外に出ることになった。二時になっても、日射しはギラギラと輝いていた。俺たちは乳搾り体験をする予定だったのだが、時間が遅いのと、牛が酷暑で元気が無いというのでできなくなった。代わりに牛や羊などを見に行った。
「うわ、臭い」
片瀬が鼻を摘まんで失礼な反応をしていた。確かに牧場独特の匂いがあるけど、それは諦めろ。身も蓋も無いこと言うな。俺たちは馬や羊にエサをあげられる所にやって来た。
「ち、近くで見ると大きいですね……」
美月は、柵の向こうからこっちにアピールしてくる羊を見ていた。
「目が、鈴みたいです」
しゃがんだ美月は俺にそう報告してくる。確かに羊の目は黒目が横長だよな。
「怖いんだ」
「は……はい」
美月は若干引いていた。未来じゃ動物に触れ合う機会は無かったかもしれない。
「あ、石島くんって動物にもモテるんだね」
福岡の声が遠くからして目を遣ると、そこでは三頭の馬が石島の出すニンジンを食べに寄ってたかっていた。「流石、モテ男」と片瀬。石島は苦笑交じりにどんどんエサを渡していた。
「なんで俺の方には誰も来ないんだ!」
冨田の所には動物が一匹も来ていなかった。騒がしいな。
「おら、やるぜ」
ミヨ(男)は飼育員のように淡々とエサをあげている。それは俺の真似を意識してるのか? もっと楽しげに丁寧にやれよ。
「美月さん、実代さん。写真撮ろうか?」
翁川はカメラを持って俺と美月に言った。
「あ、じゃあお願いします。シュータさんも一緒に」
美月はミヨ(男)も呼んだ。どうせなら三人で撮ろうか。
「……ねえ、私が荷物預かるよ」
佐奈子が三人の荷物を持ってくれた。三人分じゃ重いだろうに。助かるけど。
「あ、じゃあ相田くんのやつは俺が背負っておくよ」
翁川はミヨ(男)の荷物だけ肩に掛けた。そして「柵の前に並んで」と言う。
「ちょ、これ、後ろ。近いです!」
美月は後ろの羊たちを怖がっている。食われたりしないから安心しろって。
「あはは。大丈夫だよ」
ミヨ(男)も笑いながら美月を座らせていた。
「はい、いくよー。はいチーズ」
三枚くらい撮った。よし。これで美月との思い出写真はゲットした。いや、俺の体のミヨが写真を撮っていたら、そっちが俺の写真なのか?
「あ、写真は後で欲しいな」
ミヨ(男)は翁川に写真をねだっていた。俺も後で貰おう。
「そうだ。美月もエサあげてみれば?」
ミヨ(男)が置いていたエサのカゴを差し出してみる。美月は恐る恐るキャベツを受け取った。
「はい。せっかくですものね」
嫌ならしなくてもいいんだけど。俺が初めにあげてみる。羊はむしゃむしゃと、あっという間に食べてしまった。食い付きがいい。手だって汚れなかったぞ。
「私も勇気を出し——痛たっ」
美月がこめかみを押さえた。
「おい、どうした美月? 平気?」
咄嗟に美月の体調を尋ねるが、美月はすぐに笑顔を取り戻した。
「いえ。一度ズキっと頭痛がしたもので。もう大丈夫です」
そういうことはたまにあるけど。俺は美月にスポーツドリンクを一口飲ませた。水分不足になると危険だからさ。
「よし。気を取り直して」
美月はエサのキャベツの皮の端を摘まんで差し出す。羊が食らい付くと、美月はびくっとして手を放してしまった。羊は満足そうに帰って行く。
「あはは。もう一回やる?」と訊くと、
「結構です、充分です、楽しみました!」
美月は慌てて拒否していた。動物は怖いみたいだね。
「あ、荷物は?」
すっかりリュックのことを忘れていた。翁川は後ろを振り向く。
「サナは……いた。サナ!」
遥か後方で牛舎を見ていた佐奈子を呼んだ。佐奈子はゆっくりこちらへ戻って来る。
「はい。これがみよりんで、こっちが美月さんか」
荷物を返してもらった。サンキュー、佐奈子。




