十二.音には聞けども、いまだ見ぬ物なり
「アララギミヨ・イン・ホッカイドウ!」
ミヨ(男)の絶叫が響き渡る。そう、俺は結局この修学旅行をミヨとして迎えることになった。俺とミヨが入れ替わって二週間が経ったわけだが、いつになったら戻れるのだろうね。ひょっとしてこのままだったらどうしよう、そういう不安を感じる時期は過ぎ去った。元に戻る見込みも予兆も無いからな。仕方なくミヨとしてこの修学旅行に参加する。
「シュータさん、待ってください」
背後から声を掛けてくるのは美月だった。俺とミヨと美月。この三人で空港まで来た。早朝から電車を乗り継いで、大体一時間半。どうもお疲れのようだね。
ああ、ミヨの最初の発言に惑わされちゃいけない。俺たちはまだ北海道ではなく、出発地の空港にいる。空港に現地集合し、そこから飛行機で向こうに行くのだ。
「そうこう言っているうちに、ミヨは先に行っちまうぜ」
ミヨ(男)は元気に空港の階段を上って行ってしまった。体力の無い美月は汗をかきながら階段の下までたどり着いた。
「ふぇ、ま、また、階段ですか?」
「じゃあ、手を繋ごう」
俺は階段の一段目に左足をかけ、美月に手を伸ばす。
「え、でも。シュータさん……」
美月は俺と手を繋ぐのを恥じらっていた。
「いや、今の俺はミヨなんだから平気だろ。ほら、こうすると楽かもしれない」
美月は素直に手を握った。柔らかくて温かい手だった。美月はちょっと恥ずかしがりながらも一段下に付いて来た。
階段を上りきると、そこには星陽高校の生徒が集合していた。ワクワクする。ついに出発だ。そこにはまず、待っていたミヨ(男)がいた。
「なに手なんか繋いでんの? ズルいんだけど」
悪りいな。ミヨは美月の手を放せと言った。不服だが放す。
「はあ~。最初くらいいいじゃん。美月とは離れ離れになるんだからさ」
「ええ! そうなのですか⁉」
美月は驚く。しょうがないだろ。ミヨと美月は別クラスだ。基本、クラスが違うと別行動になる。会えるのは自由行動になるわずかな時間だけ。だから俺は自分の体を取り戻して、美月と一緒に旅行を楽しみたかったんだ。俺は石島や坂元たちと一緒でも全然楽しみじゃないぞ。
「残念ね、シュータ。私は美月と楽しんでくるわ」
ミヨ(男)は笑顔だった。俺の顔をしているから一層憎い。俺はこっちなのに!
「では、シュータさん。なるべく時間を見つけて会いましょうね。みよりんさんも一緒に」
ああ、そうしよう。人生一度きりの修学旅行。何が何でも美月と思い出を作ってやる。
「お、アイじゃん。元気?」
冨田が半袖ジャケットに短パン、サンダル姿でやって来た。俺、夏に短パンサンダルを履く男は苦手だ。ミヨ(男)もちょっと嫌そうにファッションを眺めていた。
「お、おう。まあ元気だぜ」とミヨ(男)。
「元気ねーな。もっと盛り上がっていこーぜ。ここを逃したら青春は一生来ねーぞ!」
冨田は暑苦しくミヨ(男)と肩を組んだ。ミヨ(男)は「や、やめてっ」とすぐに振りほどいていた。
冨田が体の持ち主を知らなかったとわかっていても、何だか俺自身ムッとしてしまった。ミヨに気軽に触ってんじゃねー。
「竹本ちゃんもみよりんもおはよう。二人とも可愛いじゃん」
美月は「ありがとうございます」と礼を返していた。修学旅行は私服なんだが、俺と美月はミヨに選んでもらった服を着ていた。美月の可愛さはいつものことだが、流石ミヨが熟考したコーディネートで、どこぞのお嬢様の避暑地旅行のような雰囲気だった。素直に可愛い。お嫁さんにしたい。俺はスカートを履いている。まだスカートには慣れないな。
「チャラ田。アンタ、いつまでも女の子のケツばっか追い掛けないで、きちんと観光しなさいね。あくまで学を修めるための旅行なんだから」
俺が諫めてやると、冨田はニヤニヤしながら、
「そう言うみよりんが一番楽しみにしてそうだけどな。はっは」
そう言って集合場所の方に近付いて行ってしまった。ウゼえ。あいつも美月と一緒に行動できるのかよ。冨田と体を交換できないかな。
「じゃあね、シュータ。また後で会おう」
「では、シュータさん。ごめんなさいね」
ミヨ(男)と美月は六組の集合場所に行ってしまった(溜息)。俺も一組に行くかね。




