一.黄金ある竹を見つくる(18)らいと
俺と竹本は駅に向かって真っ暗な道路を歩いていた。駅まで繋がる一本の大通りを進む。通りの左右には飲食店、スーツ店、本屋、その他がそれぞれ眩いライトを光らせていた。
「相田さん、やはり泊めてはもらえないですか?」
竹本は断られても、躊躇いがちに訊いてくる。
「どうしてホテル住まいじゃ駄目なんだっけ? お金の問題?」
竹本は苦笑しながら、
「そうなんです。未来から物資を送るぶんには簡単なのですが、現金は送りにくいんです。お金は国が供給量を決定しているでしょう? 勝手に増やすと秩序の均衡が大変なのです。オペレーターの彼も頑張ってくれているのですが」
……彼? なんか気になるが、
「それはわかってたことじゃないの?」
もっともな疑問だろう。
「通信状態が悪くて秩序の調整が難航しているのが原因です。このままだと来月の半ばまでしか泊まれずピンチなんです。幸い、食料や消耗品は送られて来るのですが」
だとしても俺にそれを助ける義理は無い。もちろん、竹本が未来から来たという事情を知っていないと泊められないのはわかるけどさ。
「今日一日だけでもいいのですけど」
明日はまた別の宿を探すのか? さながら放浪人だ。流石に可哀想ではある。俺は夜道を歩きながら、もう暗いし早く決断してあげないといけないと思う。腹も減ったし。この道路に面しているファストフード店が目に入った。
「遅くなったし、一緒に夜食べてから帰る? 外食は駄目か。お金使うし」
竹本は首を横に振る。
「いえ。せっかくですし、何か食べて帰りましょう。この時代っぽい物がいいです」
俺にはこの時代っぽい物がわからない。辺りを見渡すと、飲食店の看板はたくさんある。どこが良いものか。さっきのファストフード店じゃナンセンスなのはわかる。ガラの悪い連中も集まっているだろうから、竹本は連れて行けない。居酒屋は入れないし、ファミレスはこの時代っぽい物があるのかどうか。日本食ってことを言いたかったのかな。ポケットにある家の鍵を触りながら悩んでいると、いきなり竹本が俺の腕を引いた。
「相田さん、あれって」
竹本が指差す方向は大通りには垂直に交差した道路の先で、そこには回転寿司があった。
「お寿司ですよね。私、食べたことないんです」
「じゃあ行こうよ」
店内はそこまで混んでなかった。五分待ったところでテーブル席に通される。家族連れが多い中でちょっと浮いているけど、竹本と二食連続食べられただけで大満足ってもんだ。
「ふふふ、いただきます」
竹本は手を合わせて笑う。まだ何もテーブルに載っておりませんが。
俺はレーンの上から湯飲み二人分を立ち上がって取る。茶葉を入れて、テーブルに備え付けてある例の押すタイプの給湯器で湯を入れる。
「すごいですね。ここからお湯が出てくるのですか」
目をきらきらと輝かせてお茶が出来上がるのを見つめていた。外国から来た少女を迎えて日本を案内しているみたいだな。ホームステイ中です、みたいな雰囲気を出そう。
「これはどうすればお寿司が出てくるのでしょう。流れているのを取ればいいのですか?」
「それでもいいし、食べたいものがあるならタッチパネルで注文できるよ」
俺はレーンの上部に設置されているデジタル画面の「にぎり」の部分をタッチした。一ページ目には本マグロ、中トロ、ハマチなどが並んでいる。
「竹本さんも何か頼んでみる?」
「私、何を頼めば良いかわかりません」
回転寿司だから作法とかは無いだろう。好きなものを頼めばいい。
「じゃあカレーで」
「邪道だよ」
俺の間髪入れないツッコミを聞いて、ボケ側はクスクス笑う。
「冗談じゃないですか」
あなたの冗談はわかりにくい。そんなこと言う子だったかと不思議に思う。その後、俺のチョイスに任せると竹本が注文の権利を勝手に譲渡してきたので、安定感のある定番ネタを選んだ。拒否権は一度も行使されなかった。




