十一.心確かなるを選びて(18)
「失礼します。生徒会文化祭担当の相園深雪です。この前の申請書が通ったのでお知らせに来ました」
教室後方のドアが開いて女子生徒が入って来る。見慣れたショートボブの髪型。相園だった。生徒会の仕事で来たのか。生徒会副会長のくせして、今年も文化祭担当なんだな。去年の功績が認められたのなら、俺としては幸いだが。いきなり来るから焦った。
「ああ、相園さん。お疲れ様。僕も午後行くよ」
同僚の石島は相園から書類を受け取る。相園は頷いた。
「生徒会って夏休みも仕事あるの? めんどくさ」と坂元。
率直すぎるだろ。生徒会長と副会長だぞ。
「生徒会は、行事の実行委員会の手伝いをする係がいてさ、相園さんは去年も今年も文化祭担当なんだ。それとは別に、生徒会では各クラスや部活がルールを守ってるか、経費として捻出できるかの事務もやるんだ」と石島。
「うえー。よくできるね。私、絶対やりたくない」
坂元が顔をしかめる。そんなこと言っちゃ、真面目に頑張っている実行委員や生徒会が可哀想だろ。相園に目線を向けると、座っていた俺の存在に気付いたみたいだった。
「あ、みよりんだ。元気?」
こっちに来る。来るなって。相園とミヨってどういう関係なんだ?
「何作ってるの?」
俺の手元の墓石を覗いた。まだ半分くらいしか塗っていない。
「こ、これはね。相園さん、アナタの墓よ」
そう冗談を言ってみたのだが、あまり反応が良くなかった。石島も坂元も何も言わない。佐奈子や翁川は言わずもがな無反応で見ているだけ。
「ごめんなさい、相園さん。冗談よ」と誤魔化した。
「それはわかるよ。前みたいに『深雪ちゃん』って呼んでくれていいのに」
「深雪ちゃん」って呼ぶのか。初めて知った。いや、四月の部活動紹介のときにミヨがそう呼んでいたっけ。失念していた。知り合いなんだな。相園は隣にしゃがむ。相園とこんなに近いのって久し振りだった。
「ちょっと見せて」
相園が近くにあったカツラを手に取る。そして俺にしか聞こえないように小声で言ってきた。
「みよりん、怒ってる?」
相園が心配そうに、しかして少し拗ねたように訊いた。突拍子も無い質問だった。
「え、どうして?」
「いつもみたいに明るくないし、相園さんって呼ぶし、距離を感じるから」
そう見えただろうか。相園とミヨの距離を測りかねていたからな。
「そんなことないわ。深雪ちゃんは友達よ。それに、怒らせるようなことあった?」
「それは、だから、アイくん……相田くんとの話を聞いたのかなって。去年のこと」
ん? 去年の俺と相園の話? なんでそこで俺が出て来るんだ?
「え、どういうことかしら? シュータと何かあったの?」
俺が再度尋ねると、相園は勘違いに気付いたようだった。何をどう勘違いしていたのかは結局わからなかったが。
「あっ、ち、違うの。違うんだったら忘れて。ごめんなさい!」
顔を真っ赤にしていた。口元を押さえて恥ずかしそうにしている。
「ま、まあ何でも構わないわよ。文化祭の仕事、ほどほどに頑張ってね」
恥ずかしさを紛らわせてあげようと思って声を掛けた。すると、相園は目を合わせてきた。
「どこか、アイくんに似てきたみたいね」
寂しそうに言われた。俺は、はっとした。
「深雪。ちょっとこっち来てみ」
佐奈子が相園を呼んだ。俺は作業に戻る。佐奈子は相園に衣装を着せていた。真っ黒の全身を覆うマントらしい。相園はフードも被った。
「それ死神用だよ。私が着るの」と落ち着いたワントーンボイスの佐奈子。
相園は「どうなの? これは」と苦笑しながら一回転する。
「めっちゃ似合う! 超可愛い!」と坂元。
「いいんじゃない? ハロウィンみたいだ」と石島。
「うん、それ着て生徒会やったらいいのに」と俺も便乗。
翁川も何か言おうとしたが、声が届かないことを悟ってやめていた。相園は照れ臭そうに笑う。実際似合ってるぜ。
「皆でからかわないでよ。じゃ、私は仕事に戻ります」
相園は衣装を脱ぐと、いつものように真面目に仕事に帰って行った。また今年も文化祭の季節か。




