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みらいひめ  作者: 日野
三章/阿部篇 Who done it?
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十一.心確かなるを選びて(17)

 俺、相田周太郎は星陽高校女子更衣室で下着一枚になり、制汗ペーパーで汗を拭い、女子制服に消臭スプレーをかけていた。


 どうだ。これだけ読むとだいぶ変態だろ? でも俺の体はあくまでミヨなんだ。ミヨの体を借り受けた俺は、ミヨの体で文化祭準備に登校し、こうして汗の処理をしている。


 今日は夏休み真っ只中の8月中旬。晴れで猛暑日、午前十時とはいえ、蘭家から学校まで二十分弱なのだが、もう汗だくだった。


 美月からは、女子なんだから汗をサッパリ取って匂いもきちんと消して過ごせと念を押されている。そういうもんかね。俺も一応汗は気にするけど、女子ってそれ以上に難儀だな。


 ちなみに髪は後ろで束ねている。これは自分でできないので美月に結んでもらった。髪を垂らしたままだと、汗が付いてべっとりしたとき処理しにくいからな。夏らしくていいんじゃないか。毎日鏡を見ると自分に惚れそうになる。これでも入れ替わってから四日目だった。


 俺は制服を着替え終えると、リュックを背負って二年一組に向かった。どうも一組は文化祭に向けてお化け屋敷を作っているようだ。ミヨが言うことには。夏休みには修学旅行のグループで班分けして準備を行っているらしい。うちと同じである。どこのクラスも夏休み期間は文化祭の準備で忙しいんだな。


 そして本日は、ミヨの班の担当だ。だからミヨの体を持つ俺が行くことになったわけ。いや、実際に上手く騙せるのか心配だ。六組の冨田たちとはもちろん会っていたが、ミヨのクラスメイトと会うのは初めてだった。大丈夫かしらん。


 ミヨならノックしないどころか、ドアをぶっ壊す勢いで開ける。俺はドカンと一組のドアを開けて入室した。


「わあ! びっくりしたあ」


 ドアの付近にいたイケメンの生徒会長、石島が流石の反射神経で驚く。案外ビビリなんだな。


「私が来たからにはもう大丈夫よ! さあ、お化け屋敷の着工をテキパキ進めて、今日中に完成させるの!」

 俺は慣れないミヨの傲慢態度を演じる。これでいいはずだ。教室から冷風が向かってきた。


「相変わらず、みよりんは元気だねー」

 そう反応したのは眼鏡を掛けた女子、坂元だった。坂元は幽霊用の衣装を縫っている。


「さ、早くみよりんも仕事してよ。ビリなんだからね」

 そう言って大人しく口角を上げたのは、小野佐奈子おの さなこと思しき人物だった。


 ミヨから聞いていた情報では、この班は石島と坂元以外に、カップルの男女(軽く死ねと思ってしまった)がいるという。小野佐奈子は表情があまり変わらないクールな印象を受ける。髪は肩付近で綺麗にカールしていた。


 ミヨが言うには、淡々とキッパリ喋る子らしい。俺が見る限り、そのことが見た目によく表れている。目元はあまり動かさないようだ。この無表情で演劇部ってアリなのか。


「そっちで墓石作ってね。ふふ」


 佐奈子はまたしても口角を動かして俺に言った。控えめな笑顔が逆に好感を持てる。なんか彼氏持ちだって聞くと逆に興味湧くよな。湧かない? ゴメン、妄言だった。俺が教室の真ん中の椅子に座って発泡スチロールを引き寄せると、後ろにいた生徒と目が合った。


「あら、慶くん」

 後ろにいた存在感の薄い、そして顔も薄い男子は翁川慶おうかわ けいしかいまい。こいつが同じ班で佐奈子の彼氏らしい。一カ月顔を合わせないと忘れてしまいそうな印象に残らない塩顔だな。ミヨ情報では弓道部らしい。


「ああ、実代さん。暑い中お疲れ」


 もっと返答で個性を主張してこい。性格も爽やかで無害だという。俺が見た感じ、無味無臭という印象だった。ある意味、こういう男がモテるんだろうな。で、どっちが告白したんだろう。二人とも恋愛に熱い雰囲気は無いが、案外どちらかが燃えるような恋心を抱いているのかもしれん。


 ……こういう話って面白いよな。他人事だとさ。冨田の気持ちもちょっとわかる。


「あのさ、いつ帰れるのー?」

 坂元が訊いた。誰も答えない。制作監督はいないのか。


「わかんないけど、二時間くらい作業してって言われてるからね」


 石島が答える。見たところ、完成した暗幕や衣装の布、小道具などが教室内に積み上げられているから、それなりに作業は順調に進んでいると思える。俺たちは適当に仕上げておけばいいだろ。


「なんか、進行度のチェックシートがあって、他の班の進行度がわかるみたいだよ」


 佐奈子が一枚のB5のプリントを掲げて見せた。俺が寄って見てみると、確かに作るべき物がリストアップされている。優秀な担当がいるんだな。


「凶器やお化けの手や生首みたいな小道具が二、三個。墓石とか井戸みたいな大道具は、ちょっと進めるだけ。衣装は、作り終わったり中途半端だったり……」


 俺が他の班の進捗報告を読み上げると、佐奈子は一回頷いた。佐奈子は女のマネキンの生首に血糊を塗っていた。それ気色悪いな。


「そうみたいね。真面目にやっていれば充分できそう」


 俺は自分が座っていた席付近に戻り、下に段ボールを敷いてあぐらをかく。大きいから床に座って塗った方がいい。墓石は中身が空洞で、発泡スチロール板を合体させたものだった。


 俺はペンキで灰色に塗る。これって銘文を書く作業まで進めないと駄目か? 相田周太郎ならやらないんだけどな。ミヨはどうするんだろ。


 ――コンコン。

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