十一.心確かなるを選びて(13)
「美味しい。みずみずしくて食感もきちんとしてるし、すすると蕎麦の香りが綺麗に鼻に抜けるの。さすが十割蕎麦。おつゆはしょっぱいから少なめで丁度いいかも。ワサビやネギなんかの薬味を付け足すと、一枚くらいは飽きずにぺろっといけちゃうね」
今のは福岡の食レポ。意外な特技。一般人には全然役に立ちそうにないけどな。俺たちは昼食のためにプール近くの蕎麦屋さんに来店した。店内は冷房が効いていて、涼しくて快適だ。ここでは皆でざる蕎麦を頼んで、テーブルを囲んでいる。ベストな食レポをした福岡を片瀬が「よくできました」と撫でていた。
「そんな修辞は要らないのよ。美味しいものは美味しい。美味しくないものは、どんな言葉を添えたって不味いの」
喋らないと不自然かと思って言ってみる。ミヨっぽく言えているのかどうか。よく見ると、美月とノエルがごくわずかに頷いていた。似てるっぽい。
「おいミヨ。黙って食え。早く帰りてーな」
ミヨ(男)が言った。俺はそんなにやる気ないイメージなのか? 他人がそういう感じなのを見ると気分悪いんだが。元の体を取り戻したら改めよう。
「いつも相田くんは、そ、そば、そんなだね」
「しょうがない——あ」
こっちに言ったのかと思って、間違えて俺が反応してしまった。今のはミヨ(男)のターンか。フォローしねえと。
「しょうがないわよ。シュータは午前中で体力を使い果たしたもの。私と美月にね」
そう言うと笑いが起きた。助かった。ミヨって、会話の中では笑いのフォワードだから癖になりそうだ。いつも最後のオチはコイツが持っていくもんな。俺はやり玉に上げられて、ボールになる役割だ。いつも俺はいじられる。それを回収するツッコミも俺の役割。ああ、つくづく俺に戻りたくないぜ……。
「本当にアイは美人が好きだな」
冨田はくっくっくと笑った。ミヨ(男)を見ると、不機嫌そうな顔をしている。ずいぶん上手な演技だな。
「そう言えばさ、修学旅行の班決めのときの相田は面白かったよね」
片瀬が余計なことを思い出す。
「へえ、修学旅行ってもうすぐでしたっけ?」
ノエルが尋ねた。掘り起こすな。だけど修学旅行がもうすぐってのは本当だ。
「約二週間後ですよ。北海道に行くのです。三泊四日で」
美月が答えた。そう、我らが星陽高校第二学年は八月中に修学旅行として北の大地へ赴く。だから俺は早く自分の体を取り戻したいのだ。俺だって結構楽しみにしている。
「で、どうしてシュータ先輩が面白かったんです?」
ノエルが片瀬に訊く。俺が反論できないからって、この後輩は……。
「美月ちゃんと同じ行動班になろうとして必死だったのよ。男子の中でどの女子グループと組み合わせるかの、じゃんけん争奪戦になって、相田は全力で勝ったの。だから、この五人が同じ班」
そう言って片瀬は、六組の五人を指差す。その通り、俺の努力のおかげで仲良しのメンバーで一緒になれた。めでたし、めでたし。
「アイは竹本ちゃんのためだけなら死ぬ気で頑張れるもんな」
冨田は楽しそうに笑っていた。その通りだがウザいな、と思っていると隣に座るミヨ(男)が脇腹をつついてきた。ここは、ミヨたる俺が何か言うべき箇所なのか。
「はっ、くだらないわね。もっと力を入れるべきことがあるでしょうに」
合ってんのかな? てゆーか、なんで俺が俺自身を批判しないといけないんだ。
「そうだ、みよりんの班はどこに行くの?」
福岡が訊いてきた。班で自由行動するときのことか? え、知らない。
「ミヨは前、市場とか牧場も行くって言ってなかったけ?」と、ミヨ(男)が援護射撃してくれる。サンキュ。
「そうよ。詳しい場所の名前は忘れちゃったけど、そんなところよ」と俺。
「盛りだくさんだな。もし向こうで一緒に会える時間があれば会おうぜ」
冨田が蕎麦をすする箸を止めて言った。
「チャラ田先輩は、みよりん先輩と一緒に行動したいだけじゃないんですか?」
ノエルが茶化すと一同に失笑が漏れる。当の冨田は全然気にしていない。
「いや、みよりんは確かに美形だ。でも、怒りんぼでキテレツな女子だってわかってからはアウト・オブ・眼中だ」
片瀬、福岡、ノエルは笑っていたが、ミヨ(男)は黙りながらも沸々と怒りを煮えたぎらせていた。俺が代わりに怒ってやるからな、怒りんぼ。
「チャラ田なんかこっちから願い下げよ! モテないのを人のせいにするから、いつまでも良縁に恵まれないのよ」
チャラ田は反論しかけて溜息を吐いてしまった。そうそう、コイツはヘコんでるくらいが丁度いいのだ。あー、でも。ミヨってこんな感じで案外モテないのかもな。可愛いのに。




