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みらいひめ  作者: 日野
三章/阿部篇 Who done it?
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十一.心確かなるを選びて(12)

 俺は溜息を吐いた。覚悟はしているさ。もうどうなっても知らん。


「おい、アイ、ノエル少年。早く行こうぜ」

 冨田に誘われ、ミヨ(男)は男子更衣室へと消えて行った。恨みがましい顔を向けて。


「では、私たちも行きましょう」


 美月に促されて俺は女子更衣室へ。こんな所、生まれ変わりでもしなきゃ入ることは無いと思っていた。禁断の花園。恐ろしいぜ。何か大事なものを失ってしまう気がする。いや、既に自分の身体という大事なものを失っているのだが。


「あの、一応プライバシーがありますので見ないでくださいね」


 美月が俺の頭にマフラータオルを被せてきた。そして髪を結んでいたゴムを取ってくれる。ああ、そうでもしてくれないとだよな。俺はさながら連行される容疑者のように、頭にタオルを被って足元を見ながら、美月に連れて行ってもらった。隅にあるロッカーの所に着く。俺は座らされて壁の方を向かされていた。


「お、いた。さっさと着替えて外出よう。男子は着替えるの早いから」

 片瀬と福岡が来たようだ。背後で声がする。


「そうですね。えっと、私たちは浮き輪の空気を抜くので、先に着替えて出てしまって構わないですよ」

 美月が二人にそう促す。


「後でもいいじゃん。空気抜くなんて」

 片瀬が言う。だってお前らがいると、色々不都合なんだって。俺はお前らや美月の方を向けないんだからさ。


「大丈夫よ。今やるの。だからさっさと着替えて出て行ってもらっていいわ。すぐ追い掛けるもの!」と俺もこいつらを説得する。


「あはは。わかった。片瀬ちゃん、そうしよ?」と福岡。

「そうね。みよりんが言うなら。お先に着替えちゃおっか」と片瀬。


 ちょい待て。お前らは俺の背後で着替えるのか? 俺は浮き輪の空気を美月と一緒に抜いているが、もう何がなんだかわからなくなってきた。後ろできゃあきゃあ言いながら、片瀬と福岡が水着を脱いでいるのがわかる。衣擦れの音、弾力のある肌の音。


 片瀬は引き締まっていて平らで、福岡はチビで豊満で……。うわあ、何考えているんだ! 死ね、俺の想像力。二人は級友だろ? そんな妄想するなボケ。


 俺は異様に手に力が籠って、浮き輪の空気をいつもより少しだけ早く抜き切ることができた。


「よし、着替え終わっちゃった。まだ二人とも空気抜いてるの? 手伝おうか?」

 片瀬が声を掛けてくる。良かった。着替えが済んだらしい。


「では、運んでもらえますか? お二人は外で待っていてもらって……」

 美月に頼まれて、片瀬は「了解」と言って受け取った。そして遠のいて行ったようだ。


「シュータさん。私たちも着替えましょう」

 美月は赤らんだ顔で言う。それはそうだけど、どう着替える?


「その、シュータさんには、後ろを向いてもらって」


 後ろを向いている隙に美月が着替えるのか?


「無理、無理、無理! 絶対に良くない!」


 見るなと言われれば、見ないことはできると思う。だけど、状況そのものが良くない。あまりに不道徳というか、理性への挑戦行為というか、羞恥の極みというか。


「俺はシャワールームに行って来る。美月は着替え終わったら呼びに来てくれ」


 俺は美月の了承を勝ち得て、タオルを頭に掛けつつシャワー室に向かった。足元だけを見て歩く。何も見てない、何も聞いてない、何も言わない。


「あっ、すみません」

 ドン、と誰かにぶつかった。顔を上げると水着を着た、日焼けのギャルがいた。


「すみません」

 こっちも謝る。その人は会釈して行ってしまった。が、俺は同時に更衣室の、何というかな、全容を見渡してしまった。


「…………」


 アララギミヨとして、第二の人生をスタートしたんだなあという気持ちだ。わーい。楽しいぞう。やっほーい。



 数十秒後には、冷水のシャワーを頭からかぶっていた。ものすごく()()()()()()が変わってしまったような、実存的なアイデンティティの危機にいるような感じだった。まるごと全部反対だ。


 以前やりたかったことは、やりたくないこと。言いたかったことは、言いたくないこと。すべきことは、してはいけないこと。百八十度入れ替わってしまっている。人生観を真っ逆さまに引っくり返された気分だ。俺はこれからどうやって生きればいい?


「あ、シュータさん」


 白いワンピースに着替えた美月が来た。俺はいつの間にか洗面所の鏡の前でぼうっと立っていた。映っているミヨの姿を見ながら。


「シュータさんも着替えましょう」

 俺はロッカーの前に戻った。このビキニを脱ぐのか? 脱ぐというより、ミヨを脱がせているようで嫌だな。


「でも、これからも同じことをしなくてはなりません。覚悟を決めてください」


 まあ、そうだよな。ミヨも同じ気持ちで着替えるのだろうし。嫌だなあ、ミヨにも俺の体を見られるのか。俺は目を瞑る。えいや、とビキニの上下を外す。そして美月に渡す。


「ではこちらを着けてください」

 美月からパスされたのは、ブラジャーだった。


「いや、俺は着け方がわからん。美月がやってくれ」


 美月に押し返す。美月は背後に回って、後ろから着けようとした。


「わっ」


 美月、不器用すぎないか? 上手く装着できないみたいで、何度も胸を揺らされる。


「すみません。私も他人のものを着ける機会が無いので」

「きゃっ、ちょっ、だ、いいい一回ストップ!」


 目を閉じた暗闇の中、俺はあまりのこそばゆさに思い切り振り向く。しかし不覚にも目を開けてしまった。下をちらりと見てしまう。


「#R&=!(*_*)k*$○%?U▽wnG#<l◇mQ×‼」


「シュータさん、お気を確かに!」


 美月に背中を支えられる。ゴメン、ミヨ。いつかは見えるものだが早速見てしまった。熱中症や脱水症状も相まって倒れそうになったが、もう平気だ。


「シュータさん、もう見てしまってもいいのでは?」


 一度見てしまった以上、今更だよな。流石にブラは美月に着けてもらったが、それ以外は自分で着替えた。今日のミヨは涼しげなブラウスと青のスカートだった。


「髪の毛も結びましょう」

 美月が後ろに立って髪を一つに結んでくれた。


「みよりんさんは、つむじの位置の関係で少し上の方に結ぶといいですよ」

 確かに体育や食事のときは、頭のちょっと上の方で髪を束ねていたっけ。


「他に、何か身だしなみで直す所はありますか?」


 いや、特に無い。だが……。


「何かありましたか?」

「スカートって初めて穿いたけど、こんなに風通しがいいんだな。何も穿いてない感じがする。変態になった気分だ」


 美月は苦笑した。俺なんかが本当に女子高生としてやっていけるのかね。

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