十一.心確かなるを選びて(11)
「おい、ミヨ。俺のこと見ろ」
俺はミヨを振り向かせる。そしてミヨの赤い頬を触り、おでこに手を当てる。
「ちょ、何よいきなり!」
「いいから、動くな」
ミヨはワケがわからず慌てていた。なんでわからないんだよ。
「シュ、シュータさん? 何して……」と美月。
わかるだろって。もう時間なんだ!
「ミヨ、ごめん」
俺はミヨに頭突きした。頭突きしたってことは、やっぱあの女の影響が残っていたようだ。自分の手の平をクッションにしたから衝撃はいくらか軽くなったと思う。だが、鈍痛を感じた。ミヨの石頭め。
「痛い! もう、キスされるのかと思ったじゃない!」
「痛っつー。入れ替わりの時刻忘れるなよ」
俺は自分の頭を撫でて目を開ける。目の前にはミヨ(男)。
「あっ、忘れてました。すみません」
美月が謝った。いや、いいんだけど。ここにいつまでもいることはできないので、歩き出した俺たちだが、この姿で冨田たちの前に行くのか?
「そうっすね。でも、その口調をなんとかしないと」
俺はミヨの見た目で、ミヨとして生活するんだからミヨの言葉遣いをしないといけないのか。
「わ、私にシュータの真似をしろって言うの? 無理よ!」
俺の顔で言うな。気持ち悪い。
「どうすればシュータになるのよ。こうかな。お、俺でいいのかしら。『俺は相田周太郎だ。うるせえな。わかったって。ああ、よろしく』」
ミヨ(男)、全然似てないと思うんだが。
「そこそこいいですね。もっと怠け者らしく、気怠そうに」とノエル。
「私も大筋は似ているように思います。ただ、仕方ないとか好きにしろ、みたいな諦観が足りないように思いました」と美月。
お前らの評価おかしいだろ。恨むぞこら。
「だいたいわかったわ。『ああ、わかったわかった。まったくしょうがねえな。もう寝るぜ』」
おい、ミヨ(男)。
「似ています。最高っすね」とノエル。
本当にそんな感じで見えてるのか? なんかショックだな。
「シュータも俺の真似してみろよ、ああ眠みい」
ミヨ(男)が振ってきた。お前、絶対似てないからな、それ。
「私はSF研部長、アララギミヨ。シュータ、アンタは大人しく私の命令通りに動けばいいの。私に付いて来れば、一切合切ノンプロブレムなんだからね! 間違いないわ」
どうだ。俺なりのミヨの物真似だ。ミヨの顔でミヨの声だし、結構上手くできたんじゃないか?
「全然違うわよ! 私こんなんじゃないわ!」
ミヨ(男)が俺を指差しながら反論した。そうだろうか?
「いや素晴らしいですよ、先輩。傲慢知己な感じが非常によく似ています」とノエル。
「私も良いと思います。湯水のごとく溢れ出て止まらない、根拠の無い自信。まさしくみよりんさんそのものです!」と美月。
「アンタら、絶対許せないわ」
ミヨ(男)は怒った。だが残念だったな。俺の体で、少女の美月やチビのノエルに殴りかかったら、周囲の人に咎められる。お前はいつもみたいに傍若無人には振る舞えないのだ。
「ちょっとアンタ、私の体を勝手に使って変なことしでかさないでよね」
「なっ。うるせえ。俺はそんな無駄なことに労力使わねーよ」
俺とミヨが物真似し合ってケンカする。美月もノエルも上手だと褒めてくれた。なんとかなりきれそうな気もしてきた。
「あの、シュータ先輩はもっと内股に。みよりん先輩は逆に、がに股を意識してください」
どこまで演技指導するんだよ。やっぱかったるい。
「お、戻って来た。戻って来た」
冨田が日陰のベンチで出迎えた。ちょっと遅くなった感じかな。
「遅いじゃない。さっきお昼ご飯の場所を探してたの。もうプールは上がりましょ」
片瀬がこっちを振り向いて言った。
「えー、そうなの?」
とミヨ(男)が反応する。ミヨ、不用意な発言は控えろって。
「なんだ、アイは名残惜しいのか? ナンパの一つもできなかったからな。そうだよなー。俺も可愛い、そりゃもう丸っきりタイプの運命の女の子が七人見つかったが、こいつらのせいで声も掛けられなかった」
冨田が片瀬と福岡に目線を遣る。そもそもお前のナンパが成功する確率は、落下した人工衛星が頭上に直撃する確率より低いんだから、ナンパしなくて正解だぜ。
「いや、俺は美月やミヨと仲良く遊べたから充分だよ」とミヨ(男)。
絶対俺ならそんな科白言わん。
「シュータさん、そんなこと言ってくださるなんて嬉しいです」
美月は感激しているが、それはミヨ(男)が言ってるんだぞ。
「ほ、ホントに相田くんは美月ちゃんが好きだね」
福岡も微笑ましく見守っている。自分が操られているのを見るのは恥ずかしいな。
「シュータ先輩。もっと話してください。みよりん先輩ならそんなに黙っていません」
ノエルが耳打ちしてくる。もっと喋れって? 口数増やすの面倒だな。
「ちょっと、アンタたち。そんなのどうでもいいから、早く昼食に行くわよ!」
うわ、毎回こんなに大声出さないといけないのは辛いな。羞恥心が勝る。
「じゃあ行こっか。お腹空いたし、暑いしさ」
冨田が更衣室の方角に歩き出した。皆も付いて行く。なんとか違和感なく振る舞えたかな。道中はミヨと二人で話しているふりをして、他のやつらに悟られないよう努めた。そして更衣室の建物の前にたどり着き、俺は男子更衣室の方に足を向ける。
「ちょっと待ってください! シュータさんは女子更衣室。みよりんさんは男子更衣室です」
美月が小声で俺とミヨ(男)に言った。俺もミヨ(男)も表情が固まる。体は誤魔化せないわけだし、仕方ないと言えば仕方ないのだろう。それでもなあ……。
「シュータ、私の、私の……」
ミヨ(男)は涙目で訴えてくる。
「お互い様なんだ。ガキじゃあるまいし、我慢しろ」




