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みらいひめ  作者: 日野
序章/竹取・石作篇 らいと版
17/738

 一.黄金ある竹を見つくる(17)らいと

 駐輪場で冨田のボロママチャリを拾って股がり、正門前の坂でスタンバイした。

「上手くいくでしょうか」


 だから一か八かって言ったじゃないですか。あまり期待はしてもらっちゃ困る。


 ――俺の最後通牒はこう。「福岡が事故に遭う」が〈主軸〉なら「俺が自転車で福岡に接触する」でも成立するだろう、である。何も強く当たる必要は無い。接触するだけでも事故は事故だ。福岡が無傷で終えるには、それしかない。これで駄目ならお手上げだ。


 例えば「福岡が自動車にぶつかる」が〈主軸〉なら上手くいかないだろう。それは仕方ない。俺の案は屁理屈だ。一か八かの丁半博打。


 俺は福岡が出てくると思われる時間の三十秒前に漕ぎ出す。ゆっくり坂を下り、そうすると福岡が走ってくる。


「竹本さん、車は?」

「まだ来ないですね」

 車が来るのが遅くなった? 俺は自転車を漕いで、


「福岡危ない!」


 俺は(わざと)大声を上げる。福岡にも聞こえたみたいで、慌てて立ち往生した。俺は自転車に急ブレーキをかけて前輪を止め、後輪は滑らせて福岡の横につけるように停める。オンボロチャリにこんな無茶をさせたら危なかったろうが、そこは考慮し忘れた。で、完全に停止したのを確認してハンドルをコツン、と頭を押さえる福岡に当てた。


「痛たっ、あれ?」


 本当に正面衝突すると思ったらしい福岡はおもむろに顔を上げると、俺と目を合わせた。

「あ、相田くんだったの! あ、危ないよ!」

 確かに、故意に事故を起こす野郎なんて危ないと思う。俺は坂を見上げるが、車は来ていなかった。成功した?


「ごめん、福岡。冨田の自転車を返さなきゃいけなくて急いでた」

 俺が謝ると、福岡はキョドキョドした。


「わ、私も急いでたし。ごめん」

 あ、そういやコイツは何をそんなに慌てていたんだっけ?


「桜のライトアップが五時半から始まるの」

 知ってるよ。冨田も言っていた。


「片瀬ちゃんたちが先に待ってるから、始まる瞬間に間に合わなくちゃいけなくて。でも部活が五時過ぎまであって片付けもしなくちゃいけないしさ」

俺は時計を見る。時刻は五時二十五分。でもそれ以上に問題がある。


「福岡、一ついいか?」

 福岡は俺の言葉を待って、怯えている。


「あのな、桜が咲いているのは――坂の上方面だ」


 そう。坂を下っていた福岡は最初から見当違いの方向へ向かっていたのだ。だったら、車に背中から突っ込まれる必要もなかった。正面から突っ込まれても嫌だろうけど。


「そうなの⁉ あ、ありがと」

 礼はいいけど、間に合うのか? 福岡は明らかに青ざめた。走ってギリギリか。


「あのさ、これ冨田の自転車だけど使う? そしたら間に合うんじゃないかな」

「いいの?」

 いいのかな。道義的に。ヒトの物を勝手に貸してしまって……。


「まあ、できれば乗り捨てないであげてくれ」

「チャラ田くんに返せばいいんだよね。ありがとう」

 福岡は頷くと、自転車のライトを煌々と坂の上に駆け上がって行った。途中で坂の上の竹本とすれ違って一言挨拶していた。


「良かった。成功ですね、相田さん」


 竹本がこっちに下って来て、両手の平を俺に向ける。あいにく東洋人ではあるが、呪術には疎くて手相を見ても何もわからない。と、ワンテンポ遅れたけど何をすべきかわかった。俺と竹本はハイタッチをした。久し振りに何かを成し遂げた感覚だ。こうして頭捻って、汗流して、誰かのために一生懸命やるのは、結構いい気分がするもんだ。


 冨田には自転車を貸してしまったことを電話で詫びた(竹本のスマホで)。冨田は色々怒っていたが、まあ大丈夫さ。どうせ明日には忘れているだろう。


「さあ、帰りましょう」

 竹本に微笑まれる。俺は頷いた。事件解決して、いい気分で帰れる。

「相田さんの家に」


 ……懸案事項はまだ残っていたな。

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