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みらいひめ  作者: 日野
三章/阿部篇 Who done it?
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十一.心確かなるを選びて(7)

「私はチュロス」

「あ、俺はホットドッグで」


 昼食のためにレストランに行くのだが、その前にミヨが売店で軽食を買いたいと言い出した。つくづく単独行動の好きなやつだ。ちなみに俺までがウナギ文でホットドッグを頼んだのは、何となく食欲がそそられたからだ。こういう所だと何でも美味そうに見えるよな。


「お金は私が払うわ。さっきはごめん」


 ミヨが俺の顔を見ずに言った。なぜいきなり優しくするんだ。ツンデレ狙ってんのか? 古いぜ。だっせ。


「耳障りね! 私のお財布はシュータのもの。シュータのお財布は私のものなの!」

 そんな理屈がまかり通るなら、国庫だって俺のお財布にならないものかね。


「でも今はキャッシュ持ってないから、アンタが肩代わりして」


 なんだこいつ。仕方なく上着のポケットから小銭入れを取り出し、小銭を女性店員に手渡す。すぐに所望していた食べ物が出て来る。俺の前にチュロス。ミヨの前にホットドッグが差し出された。


 反対だ。だけど、わざわざ手を交差させて受け取る必要も無いよな。俺がちょっと躊躇しながら手を伸ばすと、店員も気が付いたみたいだ。


「あっ、すみません。今入れ替えますねー」


 そう言って、二つの商品の位置を入れ替えてくれた。俺たちは礼を言い、受け取る。ミヨは女性店員に背を向けるとすぐにかぶり付いた。


「うんまいわ。おいしー」


 そりゃ良かったね。俺はちょいとホットドッグにセルフでケチャップやマスタードをかけないといけないんだ。ミヨに遅れて行くと、日陰に集まる美月たちと合流する直前だった。ミヨは立ったまま見返り美人図の恰好を取る。


「遅いわよー」

「ちょっと待て。今行く」

 俺は駆けて行く。ホットドッグを早く食いたいぜ。


 と思ったのだが——


 まあいつも通り。


 何も起きないわけないよな。


「……ちょっと、待てよ。ちょ、ちょっと待て!」

 あれ、走りをやめようとしてるのに止まらない。全然止まらん。足が動いたまま、ミヨに向かって突き進んで行く。ミヨも三メートル以内に入ったのにスピードを緩めない俺を見て、目ん玉を丸くし、顔を引きつらせた。


「な、いやっ」

「うわ、スマン!」


 俺はそのままミヨに激突した。ゴチーンと頭同士がぶつかる。頭蓋骨がかち割れる音がした。それとともに激痛が走り、尻もちを盛大についた。食べ物は紙袋を下にして置いた。


「シュータさん、みよりんさん!」

「先輩、大丈夫っすか⁉」

 すぐさま美月とノエルが近付いて来る。遠くで冨田や片瀬の笑い声も聞こえる。


「みよりんさん!」

 美月は俺の上半身を抱え起こして揺らした。駄目だ。視界に火花が散って上手く再起できない。


「ええと、こういうときは、どうしたら良いのでしたっけ? 人工呼吸? ああ、どうしましょう」

 美月は軽くパニックになっていた。ノエルは冷静で、


「先輩、健康状態のチェックお願いします」


「あ、そうですよね」

 美月は俺の顔をまじまじ見てきた。美月は視界にデジタル画面が見えていて、それを使ってメモや投薬もできるらしいのだが、健康検査もできるようだ。


「脳に異常は無いようですが、頭に腫れが確認できます」

 げ。たんこぶができたのか。美月は俺の前髪を持ち上げて頭を触った。近くてドキドキする。


「早く治癒できるように努力しますから、少しの間、我慢してくださいね」


 美月はそう言った。こんなナースがいたらいいのに(仮定法過去で)。


「いや、俺は平気だから。ミヨを診てやってくれ」

 ノエルも美月もキョトンとした。


「ふふ、みよりんさん。お上手です」

 美月に微笑まれた。ミヨの何が上手だったんだ? ぶつかり方? それをなぜ俺に言うんだ?


「ともかく、シュータ先輩を」

 ノエルが支えているのは、目を瞑ったミヨ——じゃなかった。


「はい、シュータさん。お待ちを」


 美月はそっちに行く。待て待て。俺が見る限りそれは偽物の俺だ。ノエルの元にはどこからどう見ても俺の姿をしたヤツがいる。


「おい、それは俺じゃない! シュータはこっちだ!」


 すると、美月とノエルはまたしても不思議な顔をした。


「んん。何よ、うっさいわね」

 言葉だけを見たらミヨの科白だろう? でもこれは偽物の俺が言った科白だった。


「あれ、私、確かシュータに当たられて……。そうよ、シュータ絶対許さないんだから」

 そう言うのは、やはり偽物の俺。何言ってんだ、お前。


「って、あれ? なんで私がいるのよ」

 偽物は驚いていた。そこでノエルの表情が凍り付いた。


「え、嘘でしょ。やだやだやだやだ!」


 偽物は立ち上がると、顔を触り、腕を見て、胸や腹を確認し、海パンの中を覗いた。


「きゃあああああああああああああああああああああああ!」


 おい、偽物。俺の体で変な声出すな。周りに見られてるだろ。頭打っておかしくなったのか?


「どうして私がシュータの体なのよ! 私の体、返しなさいよ!」

 偽物は俺の体を前後に揺さぶる。ノエルは頭を抱え、美月は困惑して止めに入った。


「ちょっとシュータさん。お怪我をしているみよりんさんにそんなことしちゃいけません」


 俺もなんとなーく思うところが出て来た。くっ付いて来る偽物を美月に任せ、立ち上がって自分の身体を見る。


 なんだこの布地面積の少ない水着は? 頭を触ると、長い髪が後頭部で邪魔にならないよう結ばれていて、頭皮がピンと張っている。胸を見ると、いつもよりずっと膨らんでいる。黒のビキニで支えられているが、重力が前より一・五倍だった。そしてしなやかなくびれ。さらに下の水着の中には、当然あってしかるべきものが無いような感覚がする。周囲を見渡してみるが、目線が十センチほど低い。


「おい、誰か。鏡をくれ」


 俺の声を聞いたノエルが、スマホを差し出す。カメラ画面で自分を覗く。そこに映っていたのは、紛れもなく蘭実代、その人だった。


「なんで俺の見た目が、ミヨになってるんだよ!」


 そういうことらしい。つまり、俺とミヨは……


「ねえ、シュータなの? 私の体を使ってるのは」

「ああ、そうみたいだな。お前、ミヨだろ?」


 俺の偽物の正体はミヨだった。ってことは、とどのつまり俺たちは、


『入れ替わってる⁉』


 はい、中身が入れ替わったヤツらの定番の決まり文句。マジか。本当にマジか。

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