十一.心確かなるを選びて(5)
「シュータって本当にくだらない生き方してるわねえ」
波の出るプールで浮き輪の上に座り、ぷかぷか漂うミヨに言われた。美月の水着姿を直視して腰を抜かした俺に対する讒言である。幻惑魔術を行使した美月は、俺が手で押さえる浮き輪に嵌っている。
「あ、あの、シュータさん。手は離さないでくださいね。たまに足が浮くのが怖いです」
美月は自分の魅力が俺を倒したとはつゆも思っていないらしく、浮き輪を押さえる役を任せてきた。どうやら美月は未来で水泳を経験していないらしく、カナヅチらしい。だから浮き輪に浮いていないと、怖くて水に入ろうともしなかった。
ただ、波で体が浮かない限り、足は着くと思うんだけどね。でもまあいい。だってこんなに間近で水着美月(UR)を見られるんだからさ。
「ちょっとシュータ。よそ見しないで。私が遠ざかってるわよ!」
美月のことを考えていたら、浮き輪上に座るミヨが波に攫われて離れてしまっていた。めんどくせーな。そのまま黒潮に乗って太平洋沖まで流されちまえ。仕方ないから迎えに行く。
「ああ、シュータさん! 手を放さないでください。怖い」
ちょこっと手を放してミヨを引っ張って来ようと思ったら、美月がピーピー騒いだ。ほぼ足が着いているじゃないか。美月とミヨの両方の浮き輪の紐を掴んで俺は波に揺られる。なんで遊びに来たのに、こんな子守みたいなことをさせられているんだろうね。
二人がナイススタイルの美人だからまだ許せるけど、俺だって久し振りのプールで思いきり遊びたいんだぜ。どうやら冨田、ノエル、片瀬、福岡は流れるプールで泳いだり、ビーチバレーしたり、水上アスレチックに行ったりで楽しんでいるらしいし、正直そっちに混ぜて欲しい。
でも初心者である美月のためならしょうがないね、うん。ミヨだってそう思ったからこっちに付いて来たんだろう。
「そういや美月。未来では水泳の授業とか無いの?」
「ありますよ。プールも模擬海水もあるので。ですが、私はたまたま経験が無いのです」
そういうもんかね。未来人だって泳ぐことがわかって安心したが、やはりこの子は箱入り娘なんじゃないのだろうか。
「スキーやスケートはしたことあるの? キャンプとか釣りみたいなアウトドアは?」
ミヨが質問すると、美月は眩しい(夏だからね)苦笑を見せた。そう言えばお二人さん、結った髪がよく似合っている。
「そういうものはあるのですが、私はしてこなかったんです」
ふーん。インドアなのか何なのか。
「じゃあ私たちが全部そーゆーの経験させてあげるわ。だって人生って一回きりなのよ。どうせ死んじゃったら誰でも骨だけになるの。だったら、何でもかんでもやった方がお得じゃない? 遊べるときに目一杯遊んで、そんで叶えたい夢には全部挑戦するの。
死ぬときにさ、もしかして全力でやってたら私も宇宙飛行士になれたのかしら、とか海外旅行に一度は行けば良かったなあ、なんて思うの嫌じゃない? そう思うくらいなら、全力でやれることは全部やったけど、全然叶わなかったわ。もう後悔ないわって死んだ方がいいと思うの」
おう、確かにそうだな。俺は美月のためなら思い残すこと無くやるぜ。
「みよりんさん、ぜひ私をよろしくお願いします」
熱い握手が交わされた。本当に暑いんだけど。
時折水分補給をしつつ、俺たち三人はしばらく泳いだ。美月に浮き輪を外させて、自力で浮いたり潜ったり、バタ足をさせたりするところまで成功させた。ひとまず今日の目標は達成ということで、あとは偉大なる浮き輪に頼って、大きめの流れるプールで文字通り流された。
たまにミヨと水上格闘技(?)をしたけど。ちょうど流れるプールにも飽きてきた頃、その他一行とばったり出くわした。
「お、アイと麗しの竹本ちゃん」
日焼けして上半身が真っ赤の冨田がこっちを見て言った。
「私もいるわよ、チャラ田」
ミヨが怒ると、冨田は「はい」と苦笑いした。ここで全員が合流する。
「あ、あつ、あち、相田くんたちは何してたの?」
「ん? さっきまでは美月が水に慣れる練習をしてたんだよ。カナヅチだって言うから」
一番肌の露出が少ないワンピース型の水着を着ている福岡に訊かれたので、素直に答える。
「へ、へえ。美月ちゃんって完璧美少女のイメージだったけど泳げないんだ。意外だね」
「シュータさん、言っちゃったんですか? 恥ずかしい……」
浮き輪ですいすい泳いでいる美月は、泳げないのが恥ずかしいみたいだ。でも、さっきのちょっとした練習だけでも上達が早かったぞ。センスはいいと思うね。
「もし河童みたいに速く泳げるようになったら、ぜひうちの水泳部にスカウトさせてね。今年のドラフトで指名するから」
片瀬がお茶目にそう言った。美月の浮き輪に掴まって泳いでいるが、さすが水泳部。姿勢が綺麗だ。
「いや、片瀬先輩。美月先輩は一生かかっても河童にはなれませんよ」とノエルが言う。
「この可愛さじゃあな」と俺が言葉を継ぐ。
科白を盗られたノエルは、苦笑して「その通りです」と言った。美月はやっぱり照れまくっていた。尊いね。
「ところで、もう昼飯にしないか? 暑いのもあるけどもう上がろうぜ」
時刻は12時半。流石に空腹だし、疲れたし、気温も上がって来たしそろそろ限界だ。皆は大体賛同してくれたが、一人だけ納得しないやつがいる。ノットイエスマン。マジョリティに楯突く女、アララギミヨだ。
「嫌よ。まだ遊び足りないもん。これからが本番なんじゃない」
バッキャロー。これからが気温35度超え。本物の地獄の時間帯なんだぞ。俺はミヨの顔に水を掛けてやった。案の定不愉快な顔になる。そして俺の頭を掴んだかと思うと、沈めてヘッドロックしてきた。おい馬鹿、やべえ。息が詰まって死ぬって!
ふがががが、と泡をこぼして死にかけていると、何とか解放された。
「そこの女の子。危ないからお友達沈めちゃ駄目だよー」
水から上がるとそんな声が聞こえた。こいつ、プールの監視員に怒られたから放したのか。ありがとう、監視員さん。監視員はこういうときのためにいる。
「もう! 全然理解できない」
ミヨは膨れていた。
「ふん。ばーか」
「私、ウォータースライダー行って来る! 誰か付いて来なさい!」




