表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みらいひめ  作者: 日野
三章/阿部篇 Who done it?
163/738

十一.心確かなるを選びて(3)

 俺は美月を家に送っていた。三時だ。梅雨も明け、真夏のクソ暑い猛暑日の中だらだらとミヨ宅まで歩く。ノエルさえいれば移動も楽なんだがな。美月も汗を流し、タオルで拭っていた。


「この時代の夏季は、ここまで気温と湿度が上昇するのですね……」

「そうだな。島国だし、湿度が厄介だ」


 体表に付きまとうような暑さ。どうにかして欲しいよな。マジで。巨大除湿器とか、伊部なら作れるんじゃないか?


「あれ、相田くんと竹本ちゃんじゃん」


 そう声を掛けてきたのは坂元だった。坂元は色白で細身の体に制服を纏い、ファストフード店の紙袋を抱えている。お前、最初に高校のパソコン室で話したときもソレ食ってたよな。


「どうしたのー? まさかのデート?」

 坂元はケラケラ笑った。俺は溜息で、美月は大慌てする。


「ち、違います! 私はおうちに帰るんです。おおおおうち!」

 俺と話すときの福岡みたいになってるぞ。このままだとミヨの家に居候していることをバラシてしまいそうだな。


「俺たち、文化祭の準備をして、それから帰ってるんだ。デートするにしてもこんな日向の道は選ばねえ」

「それもそうだよね。少年少女、ひと夏の経験大事にしろよ」


 俺が高校を卒業するときまでに、美月は未来に帰ってしまう。あと二回しか夏を経験できないわけだし、そりゃ大事にするさ。とも言えず、


「そうする」


「やっぱりね、ははは。じゃ、私は涼しい我が家に帰るよーん。アツアツカップルさん」

 坂元は手を振ってそのまま横断歩道を渡って行った。


「帰れ帰れ。じゃあな」

「お疲れ様です」と美月も。


 俺たちはまた歩き出す。すると美月が俺の頬の汗をタオルで拭いてくれた。


「ありがと」

「あの、シュータさん。一つ訊きたいのですが……」


 俺は「何?」と返す。美月からはよく色々な質問をされるから珍しいとも思わない。美月は暑さで真っ赤な顔で言う。


「私はシュータさんとどういう関係でしょうか?」

「どういう関係?」


 何だその質問は。美月はキョトンとした顔で問うが、どう答えて欲しいんだ?


「えっと、最近よく訊かれるのです。仲良くなった同級生の方たちから、シュータさんとはどういう関係なのですか、と」


 そうなんだ。美月は、俺やミヨとよくつるんでいるから気になる周りのヤツも多いのかな。でも、俺って目立たない存在だと思っていた。ミヨや冨田のせいでちょっと知名度が上がっちまってるみたいだ。名前を覚えられるくらいまできているのか。


「いえ、名前まで覚えていらっしゃる方は多くないですよ。シュータさんは、ほとんどの場合『いつも話している男子』と呼ばれています。安心してください」


 美月はそう言ってにっこりした。それはそれで複雑だな。東京駅構内くらい。


「で、何て答えてるの?」

「仲良いの? と訊かれたら『とても仲良しです』と言います」

 それって、変な意味にとられないかな?


「変な意味とは、どういうことですか。もしかしてこの時代では猥雑な隠語なのですか?」


 美月は真剣な顔をしている。俺は苦笑して首を振った。


「そうじゃなくて。何というか、その、付き合ってるみたいに聞こえるだろ?」

 美月はさっきからポカンとした顔ばかりしている。


「恋人関係ってことですか?」

「そう」


 あちーな。住宅街に入ったが、アスファルトの上は日陰だろうが何だろうが灼熱地獄だ。


「シュータさんは私のこと好きですか?」


「…………待って。好きってどういう意味?」


「ですから、恋愛対象ですか、という意味ですけど……」


 ななな、なんでそんなこといきなり訊くんだ美月さん! 美月はちょっと純真すぎる。俺はどう答えたら正解なんだ。美月が好きか? そりゃ好きだ。見た目も性格も申し分ない。だがよく考えろ。どうせ美月は元の時代に帰っちゃうんだ。好きだと言えば、美月は悲しむだろうし、俺だって無意味な気持ちってことになる。それに、美月は本当にそういう相手なのだろうか。いや、何とも結論は出ないね。


「人として好きだよ。友達としても好きだ。恋愛かどうかはわからないね」


「私もです。シュータさんは優しくて物知りで真面目でとっても良い人ですし、一番の友達です。でも好きって難しいですよね」


 美月は困ったように笑った。俺に対して過大評価しているけど、そっちより恋愛がわからないって言った方が問題だ。じゃあやっぱり俺は「好きです、付き合ってください!」みたいに言わなくて良かったんだな。勘違いした痛々しいヤツになるとこだった。美月に恋愛は早いよな。俺もだけど。


「じゃあ私はそういうとき、友達って言えばいいんですね」


 まあそうかな。友達ってことにすれば、大して大事にならないだろう。


「ですけど、みよりんさんもノエルくんも、片瀬さんも福岡さんもチャラ田さんも坂元さんも石島さんも全員友達じゃないですか。でも、シュータさんやみよりんさんはちょっと特別と言いますか、もう少し親密ですよね。日本語では何と言うのですか?」


 あとアリスも友達だろ。


「そうだな。仲間とか? 仲間の方が同じ志を持つ関係って感じがする。俺たちは秘密を共有してるだろ?」

「なるほどです。でも恥ずかしいですね」


 まあ、「美月は俺の仲間だ」って言い張るのは恥ずかしいな。


「あれはどうかな。ミヨとアリスは親友だって言ってる。友達の上は親友じゃん」

 美月は感心したように頷いた。


「では、私とシュータさんは親友で」


 親友、ね。


「そう言われると、親友って言葉は同性に使う気がするな。俺なら、不服だけど冨田とか」


「ええ。難しいですね」


 結局、その人との関係を表す正しい言葉なんて無いのだろう。俺と美月の関係は、俺と美月だけの関係なのさ。そう、たぶん俺はそう思っているはずだ。


「ですが、皆さんからはどう見えるのでしょうね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ