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みらいひめ  作者: 日野
二章/庫持篇 アリス・イン・ワンダーランド
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十.年頃見え給はざりけるなりけり

 起きたとき、最初に感じたのは手の感覚だった。手の中にアリスのピンがある。青い小さなピン。次に、自分が机に突っ伏して寝ていたことに気付いた。顔を上げると、正面には美月が寝ている。その横にはミヨが寝ている。右隣にはノエルが、起きていた。


「おはようございます。シュータ先輩」

「今はいつだ」

「今ですか? 俺たちが過去に旅立った日の夕方です」


 窓の方を見ると、薄暗くて夕陽がカーテン越しに射し込んでいた。何だ。あんなに何日も過去に行っていたのに、こっちでは数時間しか経ってないのか。ポカポカが懐かしい。


「浦島太郎状態ですかね」

 竜宮城に行って帰って来たら、お爺さんになるくらい時間が経っていたってことか?


「それじゃ逆だけどな。俺たちの場合、時間が経っていなかったんだ」

「まあ、確かに。じゃあ、おじいさんにならなくて良かったっすね」


「浦島太郎が一気に歳を取ったのは、乙姫に渡された玉手箱を開けたからだ。開けてはいけませんと言われたのに開けて、外界で実際流れていた時間の分だけ歳を取ってしまった。それで被害が出たんだから自業自得とも言える。不老不死を手放したんだ」


 ノエルはふーんと頷いた。


「でも開けてはいけない箱を渡すなんて意味がわからないっすよね。むしろ開けることを期待していたかのような、未必の故意じゃないんですか」


 知らんね。日本の昔話に寓意を求めても仕方ない。浦島太郎みたいに未知の世界に行って帰って来て、最後は主人公が失敗をすることで台無しになるストーリーは結構多いんだぜ。


「『不思議の国のアリス』の最後は知っていますか?」

 俺はアリスの髪留めをポケットにしまった。


「夢オチだ。小説としては悪手だな。小説は元々フィクションなんだから、夢であろうが何だろうが変わりないけど、読者が納得しないやり方だ。でもルイス・キャロルはした」


 ノエルは微笑を浮かべて聞いている。


「なぜか? ルイス・キャロルは作家じゃない。元は数学者をやってたんだ。そして三十代のとき、愛する少女のためにこの話を書いた。別に夢だろうが面白けりゃ構わなかったんだろーよ」


「そうっすね。ところで、今日のことは夢だったというオチを付けてくれませんかね」

 ノエルは笑った。俺も夢ならいいと思ってる。本当にアリスは二月に死んでいて、俺たちと再会したのは夢幻だと。だけど、俺はアリスの髪留めを持っている。これは現実だったとしか考えられない。


「おい、起きろ。ミヨ」

 ミヨは涙の跡を付けて、すやすや眠っていた。なんか、溜息吐いちゃうよな。


「ノエル、今日は夕飯ここで食べよう。盛り上げてやらないと」

「もちろんいいっすよ。地獄の果てまで付き合います」




 後日、学校でアリスの席が無いことを確認した。そりゃそうなんだけど。でも、俺はある発見をした。生徒会室の前に交通事故を無くそうというポスターが貼ってあり、その下の机に載っている花瓶はアリスのためのものだったということに。


 それは、朝に生徒会室前で出くわした石島に教えてもらった。花はミヨや相園などが取り替えているらしい。今度は俺も持って来ようかな。


「うん。持って来てくれたら、倉持さんも喜ぶんじゃないかな」

 石島は爽やかスマイルでそう言った。ミヨ繋がりでアリスとも親交があったらしい。


「花なんて買ったこと無いけどな」

 花屋に行って花を買って学校に持って来るのか。ハードル高いな。美月と一緒に買おうかな。


「倉持さんのSF研は、存続できそうなのかい?」

 SF研か。アリスは忘れていいって言ってたよな。でもどうしたら。あと期限は二カ月だ。


「でもさ、俺と美月が入部しても五人には一人足りない」

「それは、努力するしかないけど……」


 誰彼かまわず入れて、それでアリスが喜ぶのか? どうだろうな。


「だが、潰れちゃうのは気分が良くない。ミヨとノエルにとって大切な居場所だからさ」

 俺がそう言うと、石島は微妙な反応をした。なんでそんな顔するんだよ。


「……でも、場所は残るからいいんじゃない?」


 待て。場所が残るってのはどういう意味だ? 詳しく話してくれ。


「知らない? 部員が五人以下になると『同好会』に格下げになるんだよ。だからSF研究会は、SF同好会になるんだね」


 同好会。格下げ。


「は、はあ⁉」

 てっきり部活自体が消えてしまうのかと思っていた。ミヨはそういう口ぶりじゃなかったか?


「そうなの? 実代さんにも通知したから知ってるはずだよ。それに生徒手帳の部活動規則の欄にも書いてあるしね。部員が十人以上が『部』、五人以上が『研究会』、四人以下が『同好会』。同好会になると、部室は貰えるけど、予算が下りなくなるんだ。活動の規模が縮小するから実代さんは抵抗していたんだろうね」


 なんだと。部室が残るならノー・プロブレムじゃないか。なんだって俺は心配してきたんだ!


「おい、それじゃあ名称が変わって予算が無くなるだけだろ? むしろ好都合だ。ミヨはお金を遊びにしか使わない。いっそ同好会に格下げした方がいいくらいだ」


「あはは。そうかもね。それは僕の口からは言えないから、君が頼む」


 ああ。むかっ腹が立ってきたから言ってやるよ。SF同好会としてやっていけってな。

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