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みらいひめ  作者: 日野
二章/庫持篇 アリス・イン・ワンダーランド
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九.言の葉を飾れる珠の枝(17)

「アリス、お前は俺たちが死んでも構わないのか」

「まあね。そうだよ」


 簡単に言うよな。アリスは寒そうに袖口を触った。


「じゃあ、俺たちと一緒に過ごした時間も全部嘘だったのかよ」


「……うるさい。シュータくんや実代と一緒にいられたことは楽しかった。でもね、私は覚悟を決めたの! 見せてあげようか、ほら」


 アリスは俺の後ろを指差す。指の先にいるのは、美月だ。


「逃げろ、美月!」

「え」


 美月が一歩動く間も無かった。美月の首に急に現れた麻縄が巻き付けられる。


「放せ、アリス!」

 アリスの手に従って縄は浮き上がる。天井の照明に引っ掛かり、滑車の原理で美月の体を持ち上げた。


「……!」


 首が絞まる。美月が声にならない悲鳴を上げた。俺は理性の判断を仰ぐまでもなかった。ミヨの倒れる傍から一気にアリスの元に向かい、その胸ぐらを掴んで至近距離で言った。


「何が目的だ! 美月を殺したら、絶対お前も殺してやる」

「やっと本気になったね。シュータくん」


 美月は解放されて、真下に落ちる。ぐったりとしていた。


「他の人たちが邪魔だと思わない?」


 ミヨ、ルリ、美月が倒れている床が抜けて、三人が消えた。ここに残るのは俺とアリスと、この時間軸のアリスだけになる。しんと静まったこの空間も再び作り変えられて、玉座のような空間になった。


「俺と二人で何しようってんだ」

 アリスはその玉座に座って、脚を組んだ。


「ううん。あの子たちの前ではしたくなかった話」


 俺は縛られた方のアリスを抱え、そっと部屋の端に移させる。何が起きたかもわからず、不安だろう。未来の自分が同じ空間にいるから、目隠しは取れないが。


「私が嫌だったのは、皆が私が死ぬことは仕方ないっていう風に事を進めていたことなの」


 俺はアリスの前に立つ。目を見て話を聞く。


「否定して欲しかった。死んでいいわけないって。私自身も納得できなかったの。それなのにノエルくんも美月ちゃんも伊部くんも、気持ちをわかってくれなかった。だから嫌で逃げたんだよ」


 俺やミヨは入っていないのか。


「うん。たとえ嘘でも、助けるって言ってくれたでしょ? それで良かったの。それが嬉しかったの。シュータくんみたいな言葉を掛けてくれたら受け入れられたのに」


 そっか。俺たちがアリスとの思い出を共有していないとはいえ、無神経なことをしたよ。でも、お前の暴力は認められない。ミヨや美月、一応ルリだって仲間だろう。


「うん、ゴメン。それは謝る」

 謝るつもりなら、ハナからそういうことをするな。


「あはは。もっとちゃんと叱ってよ。私は世界を敵に回す悪役なんだから」

「あのなあ。叱られたいって何だよ」


「叱られたいの。しっかり者だから、ね」


 確かに、周囲からはそう言われていたな。アリスはこんなときでもニコニコする。そっか、なら存分に叱ってやる。


「ばか。しっかり生きろ。悪いことしちゃ駄目だ」


「……それだけ?」とアリス。


「それだけ」


「ふふ。ありがとう。私は『好き』って言われるより、叱られる方が好きだな」


 どういう意味だと考えようとすると、アリスは口元に手を当ててクスっと笑った。そのとき、電話が鳴る。俺のスマホだった。相手は美月。


「もしもし、美月。大丈夫か⁉ ミヨも無事か?」

 急いで尋ねると、返答が来る。


『しもしも。ルリなんですケド。美月にそこまで肩入れしているヤツに言うのもアレなんですケド、報告を』


「あ、ルリも生きていたんだな」


『ハーイ。残念ながらね。二人の容態は安定してない。でも生きています。すぐさま大事に至ることは無いです。だけど世界が危ないの。あと十分もつかどうか』


 十分だと? それってピンチなんじゃ。


『コケッコー崖っぷちです。ですから、そこにいるアリスさんにパスコードを訊いてください。そうすれば、時間を「遡って」何とかできます』


「ああ。わかったよ。すぐ訊くから」


『できるの?』


「できるよ」


 アリスにアイコンタクトを送る。アリスは苦笑した。


『じゃあソッコーお願いしますぅ。一刻も早くね』

 電話は繋いだままアリスに向き直った。


「そういうことだ、アリス。パスコードってやつを知ってるな?」

 アリスは、組んでいた脚を元に戻して頷いた。


「まあ、知ってるよ。シュータくんになら特別教えてあげる」

 そう言ってぺろっと舌を出した。可愛くしても、訊き出すからな。


「難しいのか、それを伝達するのは」


「ううん。簡単。入力フォームに単語を入れる形式だった。全て選択肢。答えは平仮名で送信されていた。ルリちゃんが読めなかったのは、仮名の読解ができなかったからだと思う」


 ルリは日本語の文字が読めないのに、現代に来て生活できていたのか? 催眠術があれば何事もどうにかなったのだろうけど、どうして美月と同じ技術を使わなかったのか。急遽プログラムを作ったのだろうか。そもそも読めない文字を送るか、普通?


「最初は、二択。マルバツだよ」

 アリスが微笑んだ。そんな簡単な暗号を、どうして読めない平仮名で送ったのか。つくづく未来人のわりにマヌケだと思うな。

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