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みらいひめ  作者: 日野
二章/庫持篇 アリス・イン・ワンダーランド
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九.言の葉を飾れる珠の枝(13)

 とうとうアリスは見つからず、高校が放課になる。学校が終わるのは三時四十五分だ。ここで一年生のアリスは帰宅の途に就くはず。俺たちは高校前の坂の麓にいる。生徒が歩く歩道とは反対側で待機だ。風が冷たいため、さっきから愚痴が聞こえる。


「寒いんだけどー。美月のカイロ分けてよ。ホントに昔って馬鹿みたいな気象なのね」


 ルリは分厚いコートを羽織って、手袋とマフラーをしているがそれでも寒いらしい。未来でわざわざ極寒(とは言っても雪国に比べたらマシだが)の場所に行くことは無いのだろう。寒さに対する耐性が無いんだろうね。


 美月は、コンビニで買ったカイロを背中に貼ったり、ポケットに入れたりしている。


「私から差し上げられる物はありません。これ以上体表温度が落ちると運動機能に制限が掛かります。申し訳ないですが」


「ケチんぼ。出し惜しまないで一気に出せばいいじゃん。それとも陰湿なイジメかな?」


「ルリさん、コレあげるっすよ」

 ノエルがルリに缶コーヒーを渡す。ルリは顔をパッと明るくして受け取る。


「あーん。ありがとう。切ない夜にはこれを見てノエルくんの温もりを思い出しますー」


 ルリは頬に缶を当てて喜んでいた。ノエルは苦笑。コイツとはやってられんな。ずっと道路の反対を注視するミヨの方に行く。


「なあ、ミヨ。これからアリスは一人で来るだろうが、どうしてお前と一緒に帰らなかったんだ?」

 ミヨはこっちを振り返って、また道路の方に顔を戻した。


「年度末だから生徒会の面倒な書類を作成するよう言われちゃったのよ。だからもっちーには先帰っていいよって言ったの」


 先に帰らせたら事故が起きたってことか。もしかしたらミヨは悔やんでいるのかな。


「なによ。別に仕事はきっちり果たすわ」

 そう言って俺に微笑んだ。とはいえ、俺はミヨをしっかり見ていないと。辛いこともあるだろうから。


 下校途中の生徒の流れを見ていると、なんと俺自身が通った。ポケットに手を入れてぼんやり前を見ながら歩いている。あんなに何も考えてなさそうな顔をしているのか。アホみたいだな。


「シュータ、今の方がカッコイイわよ」


 そうなのか。この数カ月で何かを変えたつもりは無いが。まあ、美月と毎日会うようになって多少は気にすることも増えたような。しばらく眺めていると、三時五十三分、


「皆、もっちーが来たわ」


 学校帰りで、制服を着たアリスが歩いて来る。過去のアリスだ。ここまでは案外素直な展開。現在のアリスの干渉も無いらしい。


「追い掛けますか? 現状はプランDですよね」

 美月が尋ねる。現在のアリスが見当たらない以上、過去のアリスをそのまま事故に遭わせる予定でいいだろう。


「ええ。彼女の後を付けて、見送りましょう」


 ミヨの合図で俺たちは付いて行った。俺やミヨは顔バレの心配があるから、フードを被って行こう。俺は自分とミヨのフードを頭に引き上げた。


「どーも」


 これならお前が泣いても皆に見えにくいし。俺たちは横断歩道を渡って、何も知らないアリスの後ろを付けた。そして例のファストフード店の横を通過する。次の信号だ。


「どうも、順調すぎる」

 ノエルがそう呟いた。それは俺も思っていたところだ。頼むからこのまま何も起きるな。このまま何事もなく(アリスが死ぬんだから何事もないわけではないが)史実のまま事故が起きて終われば、いいのか?


 何も知らないアリスは赤信号で止まる。


 もうすぐアリスは轢かれる。


 俺は何もしない。


 ——嘘吐け。


 できないだけだろ。


「ちょっと待ってね。倉持有栖」


 ニット帽を被ってマフラーで口元を隠した人間がアリスの前方を遮った。アリスは戸惑っている。背後を暴走トラックが通過した。


「絶対守ってあげる。誰かさんが裏切るからね」

 アリスは後ずさりする。ニット帽を被ったヤツの背中側から車が突っ込んでくる。


「おい、どうする!」

 俺が皆に問うても誰も答えない。ニット帽も巻き添えになるぞ。

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