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みらいひめ  作者: 日野
二章/庫持篇 アリス・イン・ワンダーランド
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九.言の葉を飾れる珠の枝(10)

 というわけで、近くのカフェでモーニングをいただく。フレンチトーストやパンケーキがテーブルに並ぶ。俺はサンドイッチにミルク少々のコーヒー。で、作戦って言ってもどうするんだ?


「いくつかパターンが考えられるでしょ。そういう状況に合わせて対処していかないと、焦って失敗するわよ。一度しくじったら終わりなんだからね」


 ミヨは、甘ったるいように見えるパンケーキをナイフで切りながら言った。美月の時間を「遡る」機能が止められていることを指して、失敗できないと言ったのだろう。


「そのパターンってのは何がある?」


 俺がコーヒーを口に付けて言うと、ノエルが、

「まず、アリス先輩が大人しくこっちの要求に従った場合っす」


「そうね。そのときがプランA。なるべく穏便に済ませたいけど、穏便に殺すなんて無茶よね」

 とミヨが返す。アリスは死にたくなくて逃げているんだし、そう素直に説得できるとも思わない。


「説得できなかったときがプランBですね。私たちには安楽死用の薬がある。それを条件に自殺をお願いする。アリスさんが交通事故で痛みを伴う必要を無くすのです」


 美月はフレンチトーストをフォークに差しながら言う。よし、食べていいよ。


「そうっすけど、たぶんアリス先輩は痛みが怖いというより、自分が死ぬという事実そのものを恐れていると思います。負担は軽くしてあげられるでしょうが、交渉材料になるかどうか」


 ノエルの発言はもっともだ。アリスはまだ生きたいと思っている。死ぬ過程を嫌がっているのではない。そもそも、トラック事故なら即死だっただろう。だから大丈夫という話でもないが。ところで、ルリはさっきから喋っていないよな。


「ごっめん。ルリ、唯一食べてるときは静かなの。意外でしょ? ギャップ? ギャップ萌えかな。萌え萌えキュン」


 ルリはハートを手で形作って、俺のサンドイッチに向けた。やめろてめえこん畜生、飯がまずくなるじゃろがい! 異物混入事件、民事裁判じゃ!


「プランCは何だ?」

 俺が訊くと、苦笑しながら美月が話し出した。


「アリスさんが精一杯抵抗を試みてきた場合じゃないですか。そうしたら、力ずくになってしまうのでしょうか」


 そんなの嫌だ。本当に殺人じゃないか。


「それなら、こっちの時間軸のアリスちゃんを標的に変えればいいと思いまーす。記憶はどうせ書き換える必要があるので、正直どっちのアリスちゃんでも問題無いですから」


 アリスが一人でも生きている間は、事故でも雷でも世界自体がとにかくアリスを殺しにかかるから、放っておけば期限には死ぬ。何もムキになってアリスを殺める必要は無いのか。プランCの場合、標的を変更っと。


「あとはまだありますかね?」とノエル。


「あるわ。もっちーが時間までに発見できなかった場合。プランD。このときも同様にターゲットをこの時代のもっちーにするわ。そして私たちは元の時間軸に帰還する」


 どれにせよ後味が良くない。もっとアリスとは楽しい時間を過ごして、笑っていてもらいたかったな。こういうのも傲慢なのかね。北千住駅構内くらい複雑な気分だ。


 朝食が終わってから、ノエルの力を借りて我が星陽高校に帰って来た。数日来ていなかっただけで、だいぶ懐かしい気分になる。ノスタルジックって言うんだったかな。郷愁の想いだ。たまにはリッチなホテル住まいも体験したいけど、寂れたチンケな地元もいい。そして転移先が星陽高校の裏手の薮の中なのも味だね。薮の中って危ない感じがするが。


「痛たた。ノエルくんヒドーい」


 ルリも流石に怒っている。ノエルはもう少し上手く移動できるようにしろよ。昨日は俺と美月の感動の指切りの瞬間に、上手く部屋に戻って来たくせに。


「学校の裏なら移動の瞬間を見られないかと思ったんすけど、こんなに茂ってましたっけ」


「まあ、こういうこともありますよ。私たちが超能力を使っているところを目撃されたら取り返しのつかないことになりますから、結果オーライじゃないですか」


 美月のフォローが貰えるなんて。光栄に思えよ。あと、一個アドバイスしておくと、結果往来って言っておいた方がちょっとしたユーモアになるぜ。


「そうね。シュータもたまにはマシなこと言うじゃない」


 ミヨの場合、本当に「結果往来」だと思い込んでいるから怖いんだよ。俺たちは服に付いた葉っぱや土を払って、道路に出る。ここからどうする?


「もっちーを捜すの! もうそれくらいしかできることが無いわ。もしかしたら過去の自分が気になって来るかもしれないからね。で、コレよ」


 ミヨが土に書き出したのは、あみだくじ。また班分けするのか。


「シュータから選んで。どこにする?」


 俺は面倒なので右端に決めた。指で「シュ」と書く。次に七本の横棒を足す。


「あーもう、棒が多すぎよ。私の番ね。えっと、隣だとアレだから……」

 ミヨは何やらぶつぶつ言いながら、二個隣を選んだ。各人が欄を埋めて棒を増やしていく。


「開票するわ。シュータのやつからね」


 言っておくが、ミヨ以外の皆はそこまでクジに熱意を傾けていないようだぞ。そんなことはつゆも気にせず、ミヨは俺の名前から下に辿っていった。そして①に到着。


「マル1は二人班ね。じゃあ、もう一個のマル1から遡っていく方が早いか」

 そうだな、賢い。ミヨは①から上に指をずらしていく。そこにあった名前は「みよ」。


「やっ——」


 ミヨは両こぶしを握っていきなり大声を上げたかと思うと、止めて咳払いをする。


「私ね。まあそういうことだから。私はシュータと。他三人でよろしく」


 ミヨは百の戦場をくぐり抜けて来た、カリスマベテラン司令官のような口調で言い渡した。ミヨと二人か。そういえば、このところの班分けではずっとミヨと離れていた。


「運っていうより気合ね」と腕組みをしたルリ。

「力技というか、神の情けといったところっすかね」とはノエルの言葉。


 俺は何言ってるんだコイツらと思った。ん、美月はどうした?


「シュータさん……」

 美月は俺の後ろでかくれんぼをしている。どうしたの。お腹痛いの?


「私、シュータさん無しであの方と行動するなんてできません」


 美月の視線の先にはルリがいる。ああ、そういうことか。この犬猿の仲ともいうべき二人が一緒のグループになったのか。あのな、学校では気に入らないヤツとも協調して働かないといけないときがあるんだよ。我慢してくれ。呉越同舟だよ。


「なによ、ルリと一緒が嫌だからってシュータくんに泣き付いてるの? そういう女々しい女って時代にそぐわないわよ。いつまでも自分が可愛いお姫様気取りなんだから」


 ルリが不必要な挑発をする。美月は俺のアウターを掴んで必死に堪えている。まあ、今回は一切合切ノエルに託すぜ。


「あ、あの。シュータ先輩、俺には荷が重いかも——」

「よし、出発よ!」


 かくて、ミヨの号令でアリス捜索がスタートした。

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