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みらいひめ  作者: 日野
二章/庫持篇 アリス・イン・ワンダーランド
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九.言の葉を飾れる珠の枝(8)

「わ! 驚きました」


 俺は今度こそ目を覚ました。天上を見上げている。どうやらソファーに横になって眠っていたらしい。そこで起こしに来た美月に向けて右手を突き上げていた。危うく殴ってしまうところだった。俺の右目はなぜか一粒の涙を流した。


「アリスは俺を恨むだろうか」

 いきなりそんな言葉が出て来た。ほとんど無意識に、考える間もなく口から発せられた。


「ええ。私たちを恨むでしょう。憎むでしょう。でも自然の摂理として受け入れてもらう努力はします。誰か一人のために、世界が心中する必要は無い」


 美月は真っ直ぐ俺の目を見て言った。もやもやが軽減した。気持ちの悪い悪夢を見ていたが、どうも詳細まで思い出せないな。確か相園が出て来た。なぜだろうね、ホント。


「今って何時なのかな。三時くらい?」

 俺の質問に美月は目を丸くした。あれ、部屋のカーテンが閉まっている。


「いいえ。午後六時です。もう暗いです」

 な、じゃあ俺は昼からずっと寝ちまっていたのか。皆は何してたんだ?


「実はシュータさんが起きそうになかったので、寝かせたまま出掛けていました。ノエルくんの能力を使って、星陽高校付近でアリスさんを捜索していたんです。ですが収穫は無く、今は晩ご飯を買いに行っています。私はシュータさんの様子を見に戻りました」


 なんか、悪いな。俺も力になってやらないといけなかったのに。こういうことをしているから、学校で「ぼうっとしている」とか「怠け者」って言われるんだろう。


「ぐっすりでしたから、さぞ疲れていたんでしょう」


 美月はニコニコして許してくれる。こんな寒い日なのに温かい気持ちになった。


「あのさ、美月はもし俺がピンチで今すぐ助けないと危ないってときに、未来からの命令で助けるなって言われたらどうする? 助けるか任務を遂行するか」


 言ってみてから意地悪だったなと思った。ノエルの話を聞いた後だから気になったんだと思う。だけど美月は迷う素振りを見せなかった。


「仕事ですね」


 全くの棒読み。嘘だろ。いや、しょうがないよな。しかし美月はすぐに笑った。


「ふふ。嘘です。絶対にシュータさんを助けます。何があっても最優先はシュータさん。大切なのは仲間です」

 良かった。ありがとう。冗談がわかりにくい人だ。


「俺もずっと美月の味方だ。美月を守る」


 少し恥ずかしくてクサい科白を吐いたから、俺は誤魔化すつもりで背中を起こして小指を出す。指切りげんまん、知ってる?


「もちろん。約束しましょう」

 美月は細くて白い小指を差し出す。指を合わせる。


「指切りげんまん、嘘吐いたら針千本飲ーます。指切りました」


 美月が小さな声でおまじないの文句を唱えながら指を揺らす。


「これで噓偽り無く、私たちは味方ですね」

「うん。『指切った』って、ヤクザみたいだけどな」


 美月は「それもそうですね」と言って微笑んだ。小指、放した方がいいのかもしれないが美月は小さな力でギュッと握ったままだった。


「いやー、疲れたわ。早くひと眠りし——え?」

 いきなり瞬間移動で部屋に現れたのは、ミヨ、ノエル、ルリだった。おい、ノックくらいしてくれないか。


「きゃー、小指どうしを結んでる! 密約カップルなんだぁ」

 ルリが騒ぎ立てる。待て待て。これは違うんだ。浮気現場を押さえられた気分だ。


「ア、アンタら今日という今日は許さないわよ!」

 ミヨは目くじらを立てて怒った。あー、面倒だ。ミヨは部内の風紀を守りたいんだったか? 俺たちは部員じゃないんだが。


「みよりんさん、これは仲間の皆でこれからも頑張りましょうということで、指切りげんまんをしていたのです。本当です」

 と美月がミヨに言った。


「美月先輩が言うと、信憑性が増しますね」とノエル。しばく。


「シュータ。指切りげんまんの『げんまん』が何か説明してくれたら減刑してあげる。今のところ絞首刑と切腹だから」


「そんなの簡単じゃん。〈ピー〉が〈ピー〉ってことでしょ」

 とルリが言う。呼吸をするように放送禁止用語を言うな。「げんまん」か。ゲンコツ一万回じゃなかったっけ。


「今日は、二人のためにベッドルーム開けておかないとねー。ルリはオカシイと思ったんだ。美月が一人でシュータくんを起こしに行くなんて」


 ルリはやけに嬉しそうにニヤニヤしている。賑やかでいいことだ。

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