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みらいひめ  作者: 日野
二章/庫持篇 アリス・イン・ワンダーランド
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九.言の葉を飾れる珠の枝(6)

 ごく自然な流れでルリの部屋で昼飯を食べることになった。近くの駅前の百貨店で女子(ルリも)が海鮮丼を買って来てくれた。このままだと、今夜はこの豪華な部屋に居候させてもらえる気がする。というか、それくらいしてもらわないと採算が合わないよな。ノエルと俺は部屋で待機。もちろん、俺は面倒がって外に出ないことにしたが——


「特に目ぼしい物は無いっすね」


 ルリの素行調査の一環として、部屋の捜索である。ノエルはルリのバッグを開けて化粧ポーチ、替えの制服などを引っ張り出していた。


「あまり女の着替えには手を付けるなよ。バレるからきちんと畳んでおけ。で、他には?」

「あー、えっと。他は全部、良い子の皆には見せられないよって感じのブツです」


 ふむ、なるほど。何なのかはご想像にお任せしよう。って、ホントにこいつは未来からの刺客なのか⁉ 何しに来たんだろうね。


「シュータ先輩は何か見つけました?」


 いや、さっぱりだ。アリス捜しのときにも部屋は見たが、何も貴重な物は無い。未来人は頭の中に四次元の空間があるから、あまり物は持ち運ばないのだろう。どうもルリは余計なものを実物で持ち運んでいるらしいが。


「あのルリって人、何者なんでしょうね。行政組織を名乗っていましたが末端だとも言っていました」


 ノエルはL字型のソファーに座る。俺は立ったまま大きな窓からベランダ越しの街並みを見た。海とビル街。こういう街に一度は住みたいな。


「ルリ自身は偉くもなさそうだし、特殊な人間というわけでもなさそうだよな」

「そうっすね。美月先輩は、今で言う政府にあたる行政組織の公認の実験の被験者でしたよね」


「そうみたいだな。タイムマシンが無い時代に向けて飛んだ最初の人類だとか何とか」

 俺は四月の記憶をたどる。


「ですが、俺が気になったのは、ルリが美月先輩に向けて実験をやめろと言い、美月先輩が公式な実験だからやめるつもりは無いと言ったことっす」


 美月が実験に対し、主導的に何かを果たしていると? 任務を遂行するだけじゃなくて、実験そのものの企画や運営にすら関わっているってことを言いたいのか。


「確証は持てないんですけどね。ニュアンスからそう感じ取ったんです」

 だからと言って、どうということも無いだろう。美月が丸きり嘘吐きにはならない。


「そうですね。疑問その二は、ルリが正義の味方を名乗ったことです」

 悪に加担していると自覚している悪役は、フィクションの中の怪人か殺人者かマフィアだけだ。


「そのルリにとって正義とは、この時間軸を守ること以外にもありましたよね。それは、美月先輩を元の時代に帰すこと、それと実験を中止することです。まあほぼ同義ですけどね。実験を美月先輩にやめさせて元の時代に連れ帰る。これが正義だと言うんです」


 美月を殺すとか身代金を取るとか、そういうことじゃない。


「ええ。何かしら不当な非人道的な実験が行われた場合、倫理違反や法律違反などを根拠に実験が差し止められる場合があり得ます。例えば我が日本国では、ヒトのクローンを作成することは法律で禁じられています。違反が発覚すれば実験は即刻中止でしょう。同じように美月先輩がこの時代に来ることで違反を犯してしまったなら、行政組織のルリさんが中止を言い渡しに来ても不思議は無い」


 何だよ、違反って。そんなもの起こすようなヤツじゃないだろう。伊部も美月も。


「違反ですか。そうですね、こんなのは当てはまるんじゃないですか? 時間を『戻った』先で瞬間移動や未来予知ができる人間を生み出してしまった、みたいな」


 確かにそれは人類の能力を大きく逸脱していることだ。世界はどんどんおかしな方向に向かっている気もするし、倫理的にもバッチリ抵触している。


「でも、良くないとわかっていながら実験を続行する意味合いは、科学者に無い。きっとそれでも実験を続けないといけない理由があるんだ」


 俺はそう信じたい。美月や伊部は極悪人ではないからな。


「別の考え方として、ルリさんがとても保守的な、あるいは改革的な思想の持ち主で、国家プロジェクトに悉く反対する強硬派であるという線もあります。ほら、極右や極左の連中は気に入らないことがあると、矢も楯もたまらず暴力的手段に打って出る傾向があるでしょう。公権力のやること為すこと全てが気に入らないんです。それでとうとう実験を直接妨害しに現れたと」


 その割には協力的だけどな。その場合、ルリはまだ若いし、捨て駒式に送り込まれたのかもしれない。どっちにせよ、末端というのは正解だろう。


「これは考えたくないのですが、ルリが自分より可愛い美月先輩に嫉妬したって感じの個人的理由で過去に行って、美月先輩の邪魔をしているというのもあり得ないことは無いですが」


 ルリが相手だと、本当にあり得ることが怖いな。少しやり過ぎな気もするが。


「ただ、ルリは美月先輩に対して一方的に面識があったんすよね。同じ組織にいながら、それはどういうことなのか。一つに、どちらかが嘘を吐いていて、行政組織ではない所に所属している。二つ目、美月先輩は容姿、家柄その他事情によって有名人である。三つ目にルリは直近に雇われた者で、美月先輩はルリを知る間が無かった。しかし、ルリはターゲットである美月先輩をよく調査したために知っていた。あー、他に思い付きます?」


 ルリが組織の末端だという情報を信じるなら、美月が上層部の人間だという風に考えればいい。ルリは上司である美月を知っているが、美月はいちいち部下の顔なんざ覚えていない。それだと美月が一般の被験者だという情報と矛盾する。が、この場合は美月が嘘を吐いているというのが前提の考え方だから、さして問題じゃない。身分を隠していたことになるからな。


「はは。これが事実ならすごく面白くないっすか」


 ノエルは全然面白くなさそうに言う。美月お偉いさん説。もし偉い人間だったとしたら、俗世間に疎すぎる感じはする。伊部やルリを見る限りじゃ、未来人が全員天使や仙人のような心の持ち主というわけでもなさそうだからな。

 それに、偉い人が被験者になることも考えがたい。過去に漂流するなんてそれこそ末端のすることだ。貴種流離譚みたいなことか? あり得ねえだろ。俺の想像の美月はどう考えてもクラスのマドンナの域は出ない。人類を統括する世界組織の幹部なんて、あの優しすぎる子にはできないだろう。


「世界組織と決まったわけではないでしょうがね。行政ということですから、人類全ての頂点ということもありますし、コロニー一帯ということもあります。そうではなくて、コロニーの中の一地区、一町の組織かもしれません。もっとも、人類初の実験がどのレベルで行われるかというところに依るんでしょうが」


 ふん。ルリだって美月だって本音と建て前を使い分けているだろう。伝聞情報だけを頼りにこれ以上推測するなんて野暮だ、野暮。あとは大人しく女子たちの帰りを待とうぜ。


「その前に、替えのパンツを今のうちに洗っておかないと」


 う、そう言えば。二枚でローテーションしているんだった。

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