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みらいひめ  作者: 日野
二章/庫持篇 アリス・イン・ワンダーランド
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九.言の葉を飾れる珠の枝(5)

「じゃあ、作戦立てよー。癪だけど、美月の力が必要になると思う。とりあえず休戦」


 ルリは美月に手を差し伸べる。美月は嫌々握手。美月も嫌いな子ができたんだな。また一段と人間臭くなった。


「まずー、あれを用意して欲しいの。交渉用に」

「安楽死するための薬ですか? いいですよ」


 美月は手を離して、伊部にメッセージを送っているようだった。空中でペンを動かす仕草をする。ルリはノエルの方に行って、抱き付こうとして瞬間移動で避けられていた。ルリはベッドに突っ込む。


「ノエルくんは移動と戦闘要員ね」

「わかりましたよ。戦闘の必要は無いでしょうがね」


 ルリは俺を目で捉えた。手招きされる。俺は近付いて行って、起こしてやろうと手を伸ばした。ルリはその手を握って——俺をベッドに引っ張り倒した。


「シュータくんは交渉要員。ちなみにルリはベッドの上だと通常より体力も攻撃力も二倍なの!」


 わかったから放せ。く、苦しい。コイツの巻き付く能力は常人離れしている。アナコンダでもこんな暴力的じゃないぞ。俺はベッドの上でルリに絡み付かれた。


「シュータさんをイジメないでください!」

 美月が猫パンチ並みの威力と可愛さを兼ね備えた反撃をルリに食らわせることで助けてくれた。汗かいたぜ。


「だってー、退屈なんだもん」

 退屈だったらプロレスごっこするのかお前は。退屈ってことは、もうできることも無いんだな。


「一応はそうかな。あとは明日になるのを待つだけでしょ」


 ミヨが隣のベッド(部屋に三台ある)に飛び乗って来た。


「あのさあ、アンタが封印したって言う美月の能力を開放してもらえない? 時間が『遡れた』方が失敗してもやり直せるから何かと便利なのよ」


 そうだな。あの便利能力が一番欲しい。あれさえあれば、昨日まで時間を「遡って」アリスと会うこともできるだろう。


「難しいなー。あれはこの時間軸の設定そのものに組み込んでしまったものなので」

 ルリも余計なことをしてくれたもんだ。美月にもどうしようもないのか?


「ええ。ルリさんにお願いするしかないのではないでしょうか」

 ということらしいが。


「えーとですね。ルリは、美月にその力を復元させることならできる」


 ほう。なら、それを早くやってやれよ。


「復元するプログラムを起動するには解除にはパスコードが必要で——」

「忘れちゃったんすか? なんて」


 ノエルが笑う。ルリはギクッとして、冷や汗を垂らしながら笑った。


「お前、まさか」


「パスコードがわからなくなっちゃったんですーっ!」


 ほら、これだよ。ルリみたいなヤツを過去に送るしかない未来ってのは、相当に人材不足が深刻なんだな。冨田だってもう少し慎重でマシな働きができるだろう。


「ど、どうして忘れちゃったのかしら?」

 ミヨは怒りと呆れと悲しみを通り越し、一周回って優しく問い掛けている。


「そのー、送られてきたパスコードがこの時代の記号や日本語で、ルリには特殊記号にしか見えなかったの。だから昨日の晩にアリスちゃんに解読してもらって、メモ帳に書いてもらったんだけど……」


 メモ帳を落としたのかな。俺はここで溜息。


「アリスちゃんにメモ帳を持って行かれたんです!」


 ん? 犯人はアリスなのか? それってつまり、アリスが美月の能力を積極的に封じたってことだろうか。そうだよな。だってこのパスコードはルリが使用して、体内コンピューターで起動させるものだ。パスコードだけを持ち出したって意味が無い。ルリは半べそで、


「恐らく、美月の時間を『遡る』能力を脅威に感じたアリスちゃんが盗んだのだとルリは思います。ノエルくん慰めて~」


 ノエルは諦念の笑顔で「誰にでも失敗はありますよ」と言っていた。まあ失敗は誰でも犯すし、恥ずべきことでもないのだが、犯すべくして犯した失敗と偶然犯した失敗じゃ罪の大きさは段違いだ。ま、過ちて改めろくらいしか言えないが。


「あれはお気に入りのメモ帳だったのに」


 と、泣きべそのルリ。そこじゃないだろう。そもそも粋がって実際の紙に覚書きをするからいけないんだ。美月みたいに体内コンピューターに写しておけよ。アリスが本物の紙に書いたのだとしても、それを記憶するために写真を撮ったりだってできたろうに。


「ま、待ってください! ルリさんはそのパスコードを体内コンピューターで受信したんですよね? だったら今も見られるのではないですか?」


「いや、重大機密情報だから一度しか閲覧できないんだよね。もう見るのはムリ。メッセージも向こうから一方的に送られてくるだけだし」


 俺とミヨが脱力して近くのベッドで横になった。お前は何してくれてんだよ。もう時間を「遡る」ことは諦めて、一発で成功させるしかないじゃないか。今の状況を表す言葉の最適解が「落胆」だ。内臓から何から全部が下に落ちていく気分だぜ、まったく。


「ま、まあ、まずはお昼にしましょうか」

 美月の提案に賛成票を投げるから、テイクアウトにしてくれ。

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