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みらいひめ  作者: 日野
二章/庫持篇 アリス・イン・ワンダーランド
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九.言の葉を飾れる珠の枝(2)

 俺と美月は、その海浜公園を散策して(本来の目的を見失って観光していた)、海辺の柵にたどり着いた。眼下には消波ブロックが積まれ、時折小魚の影が見える。ゴミも見えるけどさ。お世辞にも潜りたくはないね。港には大きな船が停泊していて、美月が珍しがっていた。海上のビルだもんな。必要性は、未来人にはわからないだろう。で、俺たちはルリを捜していたんだ。


「ルリは近くにいそうか?」

「いえ。わかりません」


 美月の金色の髪が風に流れた。寒いな。


「ですが、アリスさんを見つけても私たちは助ける術が無いんですよね」

「そういう話になってるな。今のところ」


 美月はどう思うのかな。アリスが死ぬことを。


「私には、よくわからないんです。私の時代だと、死因はほとんど老衰しかあり得ません。おじいちゃんおばあちゃんになった人がゆっくりと亡くなるのです。亡くなるときに悔いがあれば、デジタルの仮想世界で、意識を残しておいて遺族や友人と話せば良いのです。ですから悔いを残して死ぬのは、滅多に無いことなんです」


 俺は柵に背中をもたげている。美月は腕で柵を掴んでいるので向きが反対。だから顔をきちんと見ていないが、たぶん美月は悲しんでいるのだろう。ウミネコかカモメか知らないが、白い鳥が頭上を通過して行った。


「悔いが無いんじゃ、未来に幽霊は出ないんだな」

「え? あはは、そうかもしれませんね。怪談はあるんですけど」


 じゃあお化け屋敷もあるんだろう。アリスのような怖がりもいるだろうな。


「俺は人が若くして死ぬことがない世界は想像がつかない。食事や健康に気遣ったり、楽しいことを早めにやっておこうと考えたりしないんじゃ、ツマらなそう」


 実際、そういう世界に生きることは無いだろう。


「死ぬのは怖いですか」

「すごく怖い。誰だって死にたくないし、家族や友達が死んだら悲しい」


「いつ訪れるかもわからない死があるのに、生きていて楽しいですか」

「とても楽しい。楽しいときは、死ぬことを忘れる。死が迫って来たときに怖いと思う」


「忘れられますか」

「布団に入ったとき、たまに思い出す。目が覚めなかったらどうしよう。自分が死んだ後は真っ暗で何も知覚できない。誰とも話せないし、誰かの人生やその先の世界を見届けることもできない。今まで積み重ねてきた経験や思考も消える。そういうことを考える」


 美月の方を見ると、特に表情で何かを表してはいなかった。ただ海を見ている。


「さ、ルリを見つけよう。闇雲に捜しても仕方ないだろうけど」

「そうですね。そうしましょう。みよりんさんたちはどこを捜しているんでしょう」


 内陸方面に行くって言ってたから、今頃そこら辺のものでも拾って食ってるんじゃないか。


「連絡を取ればわかるでしょうね」

「ああ。本当にGPSでも付けておけばいいんだ。ミヨはいつもいなくなるから」


「GPSって何ですか?」と首を傾げる美月。


「知らない? 衛星機で位置情報を確認するやつ。グローバル・ポジショニング・システムのことだが」


「人工衛星は必要ないので、私たちの時代には無いんですよね。なるほど。それで、どこに発信機を埋め込むんですか? 手首?」


 なぜ手首に発信機を埋め込まにゃならんのだ。


「スマホだよ。皆持ってるだろ? それに位置情報を表示できる」

 美月が何かに気付いたように俺に一歩近付く。近いっす。


「あの、もしかしてそれを使えばアリスさんの居場所も掴めるのではないですか?」


 アリスのスマホの位置情報をどうやって取得するのかは知らんが、もしわかれば追い掛けられる。ってことは、失くした俺のスマホも……。


「シュータさんのスマホも捜せます。そうです。あれはルリさんが持っているので、ルリさんの居場所も、もしかすれば見当が付きます」


 やっぱルリはマヌケだ! 俺のスマホをわざわざ持って行くなんて。美月が知らないんだから、GPSのことも知らなかったんだろうが、尻尾を掴ませてくれるとは。


「イベくんに頼んで捜してもらいましょう。まずはシュータさんのスマホから」

 伊部の画面が美月のスマホに浮かび上がる。今日は起きていた。


『おお、いい景色。じゃなくて、シュータのスマホを見つけるんだな?』


「頼むよ。大変なんだ」

『昨晩も痛い目を見たそうだな。音声しか聞いてないけど』

 うるせえ。ルリのマリオネット状態だった俺を庇うくらいしろ。美月の前なんだから。


「やはり痛い目に遭っていたのですか?」

 美月は心配そうに訊く。ある意味では痛い目に遭ったが、文字通り痛くはなかった。


『よし、特定完了! ここで間違いないはずだ』

 伊部の上半身が映る画面から、地図画面に切り替わる。地図を拡大していくと——


「めっちゃ近いじゃねえか!」

 地図が指し示す場所は、同じ海浜公園の中だった。ここから百五十メートル。


「ルリさんがいるのでしょうか。それとも機器が埋められているとか」

 盗んでおいて埋めるなよ。でもたまにGPSはズレることもあるから、海の底という可能性も払拭できない。用済みになって捨てるとか、あの女はやりそうだ。


「行ってみましょう。地図の場所に」

 そうだな。捜すだけでもしてみよう。


『へえ、ルリがいても気まずくねえのか?』

 気まずくねえよ! 何ならぶん殴ってやる。俺と美月は駆け出した。

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