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みらいひめ  作者: 日野
二章/庫持篇 アリス・イン・ワンダーランド
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七.わが袂今日乾ければ(10)

「私は認めない」

 ミヨが涙目で俺に向かって言う。そりゃ、俺だって認めたくない。


「それって、もっちーを利用しているだけじゃないの。二月にもっちーが事故で死なないといけないのは、大股百歩譲ってあり得るとしても、二年生になってからの事件を解決するために生かしておくのはおかしいわ」


「でもアリスがいないと、坂元も石島も倒せなかった」

「そんなの、だって……」


 わかってるよ。利用しているだけだ。事件の解決ができなかったのは、俺たちの力不足で、決してアリスのせいじゃない。だが俺たちは既にアリスの力に頼って解決した過去がある。今更「遡って」坂元の事件からやり直すなんて現実的じゃない。


「今の話を聞くなら、こういうことも言えないかしら。この時間軸でもっちーが犠牲になる必要は無い。もっちーが一人死ぬのが条件なんでしょ。なら私たちの時間軸のもっちーは連れて帰ればいいじゃない。この時間軸のもっちーには悪いけど死んでもらって。そうすれば、ここは四月に消えるけど、私たちとは関係ない平行世界なんだからいいでしょ。もっちーは帰還することだってできる」


「みよりんさん。もし連れて帰ったとして何ができますか。アリスさんは私たちの時間軸では死んだことになっているんです。一生、アリスさんを匿って生きるのですか? 私は二年で故郷の時代に帰ります。ですが、アリスさんはそうではありません」


 美月は元気なさげに主張する。


「でも、伊部くんがいるじゃない。記憶をまた塗り替えてもらうのよ。もっちーは生きていたってことにして、家族の元に戻ってもらうの」


 ミヨの言いたいことはわかる。でもそれが可能なら未来の俺もやっているんじゃないのか。伊部も黙ってないで喋れ。


『まず俺はシュータの意見に賛同するってことを伝えておく。恐らくだが正しい。で、さっきのみよりんの意見だけど、俺は成功するとは思えない。だって「正史」ではクラモチは身代わりになって死ぬはずだ。それを無視したら、世界の流れに背くことになる。ここの時間軸も崩壊することになるしな。だったら逆らって動くと危険だ』


 ミヨはまだ反論しようとしていた。今まで口を利いていなかったアリスが止めた。


「もういいよ、実代。私は馬鹿だから皆が話していることがどこまで正しいのかわからない。それに他の解決策も思い付かない。でも、私は皆とずっと一緒にいたいよ。場違いなこと言っちゃったかな」


 そう言って苦笑した。俺は胸が締め付けられる思いがした。アリスが死にたいわけが無い。アリスは約一カ月、俺や美月と一緒に過ごしていたんだ。俺はアリスの気持ちを軽く見すぎだ。


「アリス、俺は——」

「大丈夫だよ、シュータくん。私が死ぬしかないんでしょ? 今は気持ちを整理しないといけないけど、きっと皆の力になるよ」


 俺は当初、アリスを疑っていた。アリスという謎の少女の陰謀が引き起こした事件なんじゃないかって。でも違った。アリスこそが一番の被害者だったんだな。アリスは自分がさっきまで着けていたカチューシャをいじりながらピンを着け直していた。


「実代もそんなに落ち込むこと無いよ。今日は楽しむんでしょ?」


「私は、もっちーと自分の世界を天秤に掛けたりできない。私はもっちーと一緒にこの世界で心中してもいいわ」


「もう、拗ねないの。皆を困らせちゃ駄目だよ」

 アリスはミヨの頭を撫でる。ミヨは下を向いたままだ。


「シュータくん、お話は以上かな」

「ああ。そうだよ」

「じゃあ、次は何しよっか」


 アリスが皆に微笑みかける。美月は口を開かない。ノエルが、

「今日の宿を取りに行きましょう。時間が遅くなると部屋が無くなるかも」


「そうだね。野宿は嫌だね。ああ、でももう帰るの?」

 アリスは気丈に振る舞う。俺はというと、気の利いた科白が思い付かない。


「あのさ。私、最後にお城を見に行きたいの。だから、シュータくんに一緒に来て欲しいな」


「え、俺?」

 アリスはにっこりする。皆がアリスを一斉に見た。


「駄目? いいじゃん」


「俺は、まあいいよ」と思わず言う。


「じゃあ、俺たちは瞬間移動でホテルを予約してきますよ。美月先輩はお財布役で付いて来てください」

「わかりました。では、一応お金は二人に少し残しておきますね。有事のために」


 アリスは美月からお金を少額受け取って、バッグに入れた。


「みよりん先輩もこっちに来ますか?」

「わかったわ。三十分後に迎えに来る。シュータ、もっちーの面倒見てあげてね」


 意図はわからないが、アリスが望んだことならそうしようか。俺はどうすりゃいいんだ。

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