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みらいひめ  作者: 日野
二章/庫持篇 アリス・イン・ワンダーランド
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七.わが袂今日乾ければ(9)

「今日ほど楽しい日は無かったわね。満足満腹満点ね」


 ミヨがホットドッグを頬張る。俺たちは夕食を食べに来ている。ショーをショーハウスで見終えてから、軽食が食べられる場所に来たのだ。もうすっかり夜。午後八時。


「そうですね。たまの休日なら、こうして罪悪感なく遊び倒すのも手ですね」


 美月がドーナツを持ちながら親指を立てる。一ついいか。事件中なんだから罪悪感は持て! 同じく罪悪感に乏しそうなアリスがナポリタンを巻きながら、


「また皆で来ようね。ノエルくんに連れて来てもらえば交通費が浮くし」

 その上、美月がいればお金は要らないし、アリスがいれば手ぶらで行けるからな。ミヨがいたら、天気予報に役立つってことで。俺は絶対不可欠の引率。


「シュータ先輩どうします? 話しますか」

 ノエルが小声で訊いてくる。アリスのことか。一応、ショーの最中もノエルと話し合って充分な結論は出せたと思う。しかし本人を前にして話す勇気が俺にあるか。でも、


「皆、話がある。聞いて欲しい」


 いつかは言わねばならないのだ。なら言うしかない。


「アリスの事件を解決する方法。俺とノエルで考えてみた」

 女子三人は、そんなこともあったなーという雰囲気。


「ほとんどシュータ先輩が考案したんですけど、俺も間違いないと考えています」


「ふーん。それはもっちーを守れるんでしょうね。私は皆が無事に終われる方法じゃないと認めないわよ」


 ミヨの言い分はもっともだ。


「とにかく、今思い付いているのは一つしかないんだ。だからそれを聞くだけ聞いてくれ」


「ではイベくんにも意見を求めましょう」

 美月がスマホをテーブルに置く。一番頭がキレそうなコイツにも聞いてもらうか。


「って、寝てやがる」

『うわ、すまん。お前らが職務放棄してたから仮眠中だった』


 伊部はアイマスクをして椅子に寄り掛かっていた。マスクを取って眼鏡を掛ける。俺たちはそれを言われると元も子も無さすぎて何も言い返せないな。


「別に、これだって職務の一環なのよ」

 ミヨ、あんたがダントツで言い返す権利が無いぜ。俺はメロンソーダをストローで吸う。


「反論があったら言ってくれ。じゃあ、まずアリスが二人必要っていう矛盾を解消する方法なんだけど、わかるか。アリスは二月に死ぬが、五月まで生きてもらわないといけない。だからアリスは二人要るんだ。二月で死ぬ用のアリスと今ここにいるアリス」


 ミヨが何か言いたそうな顔。この時点で俺がアリスが死ぬことを前提にしているのが気に食わないんだろう。


「私の命が二つ以上必要なのはわかったよ。でもどうするの? 未来の力でクローンでも製作してもらうの?」とアリス。


「いいえ、アリスさん。未来だとしても人間のクローンを作るのは倫理違反です。私たちはそういう技術を過去の人間に対しても行使することは禁じられています。これは絶対なんです」


 美月はいつになく真剣に言った。そうなんだ。じゃあ身代わりを用いる手は使えない。


「でもさ、アリス。今この時間軸にはアリスが二人いる。俺もミヨもノエルもここには二人いるはずだ。ここは『戻って』来た過去。過去の自分がいるんだ」


 自宅には、今頃ぐうたらスマホでもいじっているであろう一年生の俺がいる。この世界、時間軸には俺が二人いるし、アリスも二人存在している。


「だから、二人のアリスのうち一方のアリスを殺して、もう一方のアリスを生かしておけばいいんじゃないか」


 ノエル以外の皆が理解し損ねたような反応をする。


「順を追って具体的な手順を話す。明後日、十日の午後四時にアリスを一人殺す」


 アリスは俺のことをじっと見る。


「どっちでもいいが、目の前にいるアリスを殺すことにする。遺体は消してもいい。そうすると世界の秩序が保たれて、ひとまず世界は存続することになる。だが、アリスはこの時代にもう一人存在する。だからこのまま四月になれば、この時間軸の俺たちとアリスは超能力者の事件を止め得るんだ。しかしだ。未来のアリスは明後日死ぬが、こっちの世界のアリスが生き残るんだから、周囲の人間にとっては死んだのに生きていることになって、辻褄が合わない」


 この矛盾を解決する策を、未来の俺たちは編み出したのだ。


「そのため伊部に力を借りることで、この世界の全員の記憶を書き換える。どう書き換えるかと言えば、事故なんか起こらず、アリスが死んでいないって思い込ませるように【記憶上】書き換える。でも【事実上】一人死んだ状態を作れるんだ。そうすれば、ここのアリスは生き残っているし、未来のものだけどアリスを殺したって事実も残る。ここで役目は終了。俺たちは元の時間軸に『戻る』」


 ミヨが「ねえ」と俺を真っ直ぐ見て行った。


「その話だと、もっちーは私たちの時代に帰って来られないの?」


「そうだ。だけど、それだけじゃ過去の時間軸は『アリスが死んでいない』っていう偽情報を信じたままになる。俺たちの状況と繋がらない。だからこの偽情報へ書き換えるのに期限を付ける。石島の事件を解決するまでだ。だってアリスは石島の事件を解決した後は用なしだからな」


 ずいぶん酷いことを言っていると自覚している。気を付けないと声が小さくなりそうだ。


「すると、アリスが二月に死んだっていう正規の情報が与えられる。ミヨはアリスが死んでいたと思い出すし、俺、ノエル、美月はアリスと会っていないことになる。俺たちがアリスの記憶を失ったあの日は、これが原因だったんじゃないか? アリス本人は本当に生きていた。しかし、もう一人のアリスが死んだという【事実】を周りの皆が思い出した。今もアリス本人に死んだという自覚が無いのは、自分じゃなくて未来から来たアリスが代わりに死んでくれていたからだ」


 アリスも美月も段々わからなくなってきたようだ。ミヨは俯いたまま。


「そうそう。『二月十日。星陽高校前、大通り。午後四時に戻れ』のメッセージは、元の時代に『戻った』俺たちが送信する。『正史』の記憶を得た俺たちにヒントを与えたってわけだ」


 あー、これ以上何をどう説明したものか。ノエル?


「うーん、さっき向こうでシュータ先輩が例えてくれたことを使うといいです。つまり観覧車っすよ。俺たちは観覧車に乗って降りましたが、アリス先輩だけは観覧車を降りずに回り続けている。ずっと二月と五月を回っているんです。

 二月に未来から来たアリス先輩が身代わりで犠牲になる。生き残った方の先輩は、進級して四月と五月の事件を解決する。そして正しい記憶を取り戻した世界で死んだことにされた先輩は、二月に『戻って』過去の自分の身代わりになる。その時代で生き残った方のアリス先輩は進級して……。といった感じです」


 アリスは正規の時間軸で進めない。必ず過去に「戻って」自分の代わりに死ぬ。事実上、アリスは元の時間に戻れないから死ぬのと同じだ。二月に死ぬはずだったから、延命したと言えば当てはまるが、俺たちはアリスを助けて元の世界で共に生きることはできない。

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