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みらいひめ  作者: 日野
二章/庫持篇 アリス・イン・ワンダーランド
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七.わが袂今日乾ければ(8)

 美月とミヨが先に乗り、残りがその次のゴンドラに乗る。俺とノエルが進行方向に背中を向ける感じで、アリスが向かいに座った。ミヨがいなけりゃ静かだな。


「やっと座れたよー。私、男の子二人と乗ったから変な目で見られたかな?」

 アリスはそう言うが、別にそんなことも無いと思うね。アリスはそういう女子に見えない。


「うわ、夜の遊園地って綺麗っすね」


 ノエルは窓の外を眺めている。残念ながら俺もアリスも高所恐怖症で、外に目を向けられない。二人で苦笑した。


「そうそう、シュータくんは誰と一緒に乗りたかったの?」


 アリスはどこに興味を持ってるんだ。誰でもいいだろ。


「シュータ先輩は一途っすから。ずっとね」

 ノエルが笑いながら言う。俺の誰に対するどういう態度が一途なのか説明しろ。


「どっちかな。やっぱり美月ちゃん? とは言いつつもミヨなのかなー?」


 知らねえよ。別に誰と乗ったって楽しいだろう。アリスは俺の顔を覗いてくる。目を逸らすと、園内の建物の煌びやかな光の装飾や外のビルの点灯が見えた。


 怖いけど、綺麗だな。こういう夜景を見たときの気分を形容する日本語がぜひ知りたい。人工物を見ているから懐かしくはない。寂しいような感動するような気分だ。あったら後で連絡くれ。


「俺は、美月もミヨも好きだよ。アリスもノエルも同じくらい」

 俺がそう呟くと、二人は笑顔になった。恥ずかしいこと言ったかな。


「嬉しいっすね。シュータ先輩いいこと言うなあ」

「そうね。はぐらかしたけど」


 はぐらかしたかもしれないがな。でも本当にそう思うんだ。


「俺はまた来たいな。こういう所に、五人で」

 アリスは頷いた。そう、アリスも一緒に来る。


「皆で遊んだのっていつぶりだっけ? ショッピングモールでお買い物したのは遊びに入る?」


「あれは、痛みと疲労のせいで遊びって感じはしなかったっすね」


 確かに。石島とボコし合ったから、俺も戦闘の記憶ばかりだ。


「あのときって、アリスは何したんだ? 俺たちの記憶にはアリスがいないからさ」


「そっか。成功したときは、シュータくんに傘を渡したよ。ビニール傘。残念だな、覚えてないのか」


 俺はしれっと任務である質問を挟んでみたのだが、アリスはすんなり答えた。そしてビニール傘という答えが返って来た。


 ――思い出した。傘なら使った。美月を痛めつける石島を止めるために傘で足止めしたのだ。そのとき、どうして都合よく傘が落ちているのか気になったんだ。


「傘なら武器として使った。だが、アリスから受け取った記憶は無い」

「そうなんだ。確かに能力で傘を取り出して、シュータくんに手渡したんだよ。美月ちゃんがピンチだったから」


「そうか。他には?」


「あとは……実代を手伝った。一階に避難したら、実代が『シュータが落ちて来る』って予言したの。だから私が布団をたくさん出して積んだ。それをクッションにしてシュータくんを助けたんだよ」


 ファインプレーだ。あれが無いと俺は一度死んでいた。死んだとしてもどうせ時間を「遡る」から平気だが、死ぬ感覚を味わうこと無く済んだのは良かった。


 そのとき俺は、ミヨが一人で大量の布団をどのように集めて来たのか不思議に思ったのだった。アリスが能力で布団を出したという理由だったのか。じゃあ本当にアリスは存在していた? 傍点付きの怪しげな関与は坂元の事件のときもあったよな。


「坂元の事件で、バールを出したのもアリスだな?」


「そうだよ。ドアをこじ開けるのに必要だった。私が出したモノだけは覚えてくれているんだね」


 そうだったのか。足元にいきなりバールが落ちていてそれが無いと、早急にドアを開けられなかった。結構なキーアイテムを出している。これらの道具が無ければ俺たちは失敗していた可能性が高いんじゃないか? どちらの事件も紙一重だったから。


 俺はノエルと目を合わせる。ノエルも意味ありげに頷いた。ルリが話していたことはハッタリじゃない。アリスは確実に事件解決に必要だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これは正しいとみるべきだ。つまり、単にアリスを殺すだけじゃ、二月以降の世界は救えないんだな。


「あ、気付いたら半分越えちゃった!」


 アリスが外を指差す。垂直を示す所は既に通過したようだ。うわ、高くて怖いな。風もあってゴンドラが揺れる。


「ねえ、キスしない? 観覧車のテッペンだし」

 アリスは俺とノエルの顔を見て言うが、どっちに向けて言ったんだ?


「シュータくんは私としたい?」

 したくない。部内の法令遵守だ!


「はは。三人でキスしようよ。キスし合うの」

「ア、アホじゃねえの。バケモンみたいな提案するな」


 俺のツッコミに、アリスはお腹を抱えて笑い、脚を組んで「嘘だよー」と言う。当たり前だ。どういう冗談なのかもわからん。ノエルは、


「俺はしてもいいっすよ。密室だし」

 お前のジョークはつまらない。ノエルは少ししょんぼりした。アリスはスマホを取り出して三人で写真を撮ろうと言う。写真を撮って、それを確認していると下にたどり着いた。


「よし、到着だ」


 アリスとノエルを先に降ろし、俺が最後に降りる。女性従業員が扉を開けてくれていた。


「Heheheh, you……ing deceived ……y bad girl.」


「ん?」


 その人に何か言われた気がした。ディシーブド? 聞き間違いか? そういう日本語は俺の辞書には無いぞ。ボナパルト・ナポレオンは恣意的に「不可能」を削除したらしいが、俺はそんなことはできない。いや、空耳だよな。その従業員の顔は見られない。次の接客に向かっていたからな。俺は皆の元に向かう。観覧車の前に、ミヨなども含めて集合していた。


「遅いわよ、シュータたち。もしかして二周目に行ったのかと思ったわ」


 二周目か。二周目? あのまま降りなかったら二周目に突入していたわけだ。でもそれは他のアトラクションでも同じことが言える。遊園地の乗り物は同じ所を回っている。乗る人が替わっているだけだ。


「…………」


 アリスが二月に死ぬ。しかし五月まで生き続けないといけない。アリスは二人必要。伊部は記憶を書き換えられる。同じ所を回り続ける。ピースは揃ったのか。もうアリスの件の推論が得られるんじゃないか。推論と言うより、解決策の着想。もしかしたらどこかに欠陥があるかもしれない。惨酷な答えが出るかも。だけど、考えをまとめる価値はある。


「——シュータ、そうしない?」

「ん、え? 聞いてなかった」


 ミヨが俺に質問を投げ掛けていた。いかん、自分の考えに集中していた。


「シュータさん、またぼうっとしてましたね。これからショーを観に行きまショー、とアリスさんがボケたのです」


 くだらんな。ショーなら観てもいいけど。


「実代部長、シュータくんと手を繋ぎたいのですが」と挙手したアリス。


「む、私は反対側の手でお願いします」とネコ耳が可愛い美月。


「俺は、えっと、第三の手でいいです」と雑に入って来たノエル。


 皆が俺を引っ張りだこである。気持ちは嬉しいが、今は放っておいて欲しい。あと第三の手って何だ。俺は千手観音菩薩ではないぞ。


「部長である蘭美代が命じます。シュータと手を繋いでいいのは、私だけです!」


 一番めんどくさいヤツに決まった。俺が嫌そうな顔をすると、皆はぞろぞろ歩き出した。諦め早いな。未練は無いのか。


「おい、ノエル」


 俺が手招きすると近付いて来て、歩調を合わせる。アリスが気付いてこちらを見た。でも雰囲気を察して美月に声を掛けてくれた。アリスには話しづらい。


「ちょっと思い付いたことがあってな。話しながら考えをまとめたい」


「おや、きちんと考えていたんですね。聞きますよ。誰かに話すことで頭を整理できることもあるでしょうし、俺も微力ですがお貸しできます」


 うん。ショーが始まるまで時間があるだろ。それまでに何とかしたい。たとえどんな結論でも、二日後には決定を下さないといけないんだ。

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