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みらいひめ  作者: 日野
二章/庫持篇 アリス・イン・ワンダーランド
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七.わが袂今日乾ければ(7)

「じゃーんけん、ポン!」


 ミヨの掛け声でじゃんけん。結果、俺と美月が負け。ミヨとアリスとノエルが勝ち。何をしているかって? もちろん遊んでいる。事件なんてもういいやって思ってね。明日は明日の風が吹くと思ったんだ。


 今は午後五時。まあまあ暗くなってきた。コーヒーカップの列に並ぶ俺たちは、組み合わせのためにじゃんけんをした。つまり、俺と美月が一緒に乗る。ミヨは器用にも眉を真ん中に寄せた。


「シュータって私のこと嫌いでしょ。避けられてるわ……」


 思い返せばミヨと同じ席に座ったことが無い。今日はどう組み合わせてもミヨ以外の人とペアになっている。


「避けてはいない。じゃあ次はミヨの隣にするよ」

 ミヨは手を腰に当ててそっぽを向いた。


「別に構わないわ。次もじゃんけんよ」


 かくして美月と二人でコーヒーカップに搭乗することになった。向かい合ってみると、美月はぐるぐる回転する乗り物の感覚を知らないのか緊張していた。


「美月、ドキドキしてる?」

「はっ! え、どういう意味ですか?」


 そのまんまの意味だが。俺は頬を掻いた。


「美月は初めて乗るみたいだし、ゆっくり回そうね」

「あ、そうですね。お手柔らかに」


 美月は微笑む。初めてじゃ、どのアトラクションも怖かっただろうな。


「そういえば、まだもやもやしてるの?」


「いえ。大丈夫です。さっきはごめんなさい。でも、一つ訊いていいですか? どうしてシュータさんはアリスさんと……」


「……あんまり大きな声じゃ言えないけど、アリスの持っている情報を探ってたんだ」

「なるほど。ですが、手を繋いだのは?」


 この世の中には理屈じゃ説明がつかないこともあってだな、それで、えっと——


「これから動きますから、立ち上がったりしないでくださいねー」


 そこにアトラクションの従業員が来て、乗り物の乗り口の鍵を閉めた。背が低い若い女性で、やたら笑顔が上手だった。美月も俺もペコリとお辞儀。その女性は俺の目をしっかり捉えた。ん、なんだ。すごい目を見てくる人だ。どこかで見たような顔だが。


「どうも初めまして。カップルさんですかー? お楽しみくださいね」

 そう言い残して行ってしまった。カップルじゃねえよ。カップルになりたいんだ。


「美月、もうすぐ——」

「カップルって、恋人同士ってことですよね。そう見えますか?」


 美月は俺にぐいと近寄って来た。いや、わからんが。


「美月がお嬢様で、俺はSPとかに見えるかもな」


 開始のアナウンスが鳴って美月は座る。俺が回すのかな。やがて愉快な音楽が鳴って回り始めた。美月は驚いている。いや笑ってる。可愛いことだね。


「回ってますね。もう少し回しちゃいましょう」

 美月もハンドルを取って回す。これくらいが楽しいのだ。


「ちょっと美月。そんなんじゃ駄目よ。もっと高速で!」


 ミヨは俺たちに野次を飛ばして来た。迷惑な客だ。誰が何と言おうと、中庸が一番いいことが多いんだぜ。ノエルもアリスも死にかけてるじゃねえかよ。


「対決よ! 回したもん勝ち」


 一人でやってろ。ギネス記録でも樹立していればいい。戦い応えのある記録がわんさかあることだろう。俺は美月の子供のような笑い声を聞きながら束の間の癒しを得た。


 音楽もカップも止まってしまうと、俺たちは鍵が開けられるのを待つ。背の低い例の女性が来て降り口を開ける。美月を先に降ろして、俺が後に続いた。


「次に会ったときは転んでね」

「え?」


 その従業員の女の声だった。俺が振り向くと、目がばっちり合う。化粧をしていてすごく綺麗な顔だった。俺のタイプからは外れているけど。


「お疲れ様でしたー。また来てくださいね」

 両手を振られた。その人は他の客の所へ向かって行った。


「シュータさん? どうされましたか?」

 美月が不安そうに俺の様子を窺っていた。美月の近くまで歩いて行く。


「すまん。何でもないんだけどな。あの従業員、何か言ってたか?」

「聞いてなかったです。すみません」


 そっか。空耳かな。ごめん。


「シュータ、美月! 早く来なさい! 時間がもったいないわよ」


 ミヨの呼び掛ける方に向かった。まだ楽しむつもりなのかよ。その次は観覧車の列に並んだ。冬だから日が落ちるのが早くて、五時半過ぎだと夜も同然である。そして学生の身分からすると夜に出歩くってのは、ちょっとした楽しみだ。なぜだか冒険心が湧き踊るんだよな。美月もミヨもどこかソワソワしている。そして、組分けじゃんけん。


「じゃんけんポン! ってぇ、シュータのアホボケ!」


 結果、俺とノエルとアリスが負け。またミヨとは離れたな。俺は地味に連敗中でもある。ミヨがじゃんけんに強いだけなんじゃないか?


「まあ、楽しんできなさいよ。こっちはゴンドラ揺らして遊んでるから」


 落ちない程度に揺らせよ。美月が落ちたら終わりだ。


「シュ、シュータさん。その前にあんな高度で揺らしてはいけないのでは?」


 それもそうだ。マナーと節度が無いと心から楽しめない。しっかりしろよ、部長さん。


「もちろんよ。美月とイチャイチャするだけだもん」


 ミヨは美月に抱き付いた。美月は困りながら優しく抵抗していた。姉妹みたいに仲が良くていいな。たまにはこのメンバーで集まってこうして遊ぶのも悪くないかもしれない。ただ、女性同士で抱き付くのはオッケーで、男の俺が駄目なのはおかしくないか。おかしいよな。俺も抱き付いていい? そこのモコモコ冬バージョン美月に。

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