一.黄金ある竹を見つくる(13)らいと
俺と竹本は校舎に上がった。そして冨田の姿を捜している。二人で出した解決策、それは「冨田と竹本が今日中に連絡先を交換すること」だ。さて上手くいくかどうか。
「チャラ田さん、どこでしょう」
「確か、なんつったかな? ――女子と会うって」
俺は思い出してみる。記憶を引っ張り出して閲覧する。ええっと、誰だったか。
「坂元だ。坂元って女子と学内ゴシップだとか、暗黒同盟がうんちゃらかんちゃらって騒いでいたな」
あのアホがそう言っていた気がする。竹本は俺の記憶力に感心した。
「へえ。それで、坂元さんという方はどちらに?」
「知らん」
会ったことも無い。名前は見たことあるような気がするが、気のせいかもしれない。
「駄目じゃないですか!」
そんな怒らなくたって……。どうせ何度もやり直しできるんだからじっくり捜せばいいじゃないか。校内に冨田がいることは確実なんだからさ。
俺と竹本はひとまず二年の教室に向かうことにした。教室は上の階なので階段を上らなくてはならない。体力の無い竹本を待ちつつ、西日が射し込む校舎を上がって行く。ほら急げって。
――なぜ、竹本のスマホには冨田の連絡先が残っていて、冨田の方に無かったか。これは簡単なことだった。放課後になった直後、冨田は竹本と連絡先を交換した。だが、その事実は時間を「遡って」リセットされている。次にやり直ししたときに、俺自身がやっかみで妨害した結果、現実世界で二人は連絡先を交換しなかったということになったのだ。忘れていたよ。
つまり、おかしなのは竹本のスマホということになる。なんでリセットされたはずの冨田の連絡先が残っていたのか? 竹本はすんなり答えてくれた。
――「時間を『遡る』ときは『遡った』本人の記憶と、その人が所持しているメモや記録がリセットの影響を受けないように『改変』から保護できるのです。事前に保護する対象を決めます」――
ということらしい。だから竹本のスマホの内容は、「遡って」も消去されない。冨田の連絡先も当然残っていたというわけだ。これが食い違いの原因だ。
でも、そうなるとおかしなことがあるような……。まあ、それは事件とは関係ないから後回しだ。
「つ、着きました」
竹本が息を荒くしている。校舎の四階が二年の教室だ。これくらいでバテていたんじゃ、毎朝どうするんだと俺は不安になってしまう。ひとまず教室を一つずつ確認していくしかあるまい。二人で一組から順に捜索を開始した。
「チャラ田さーん」
……たぶん教卓の下にはいないと思うぞ。入り口から俯瞰すればわかるだろう。そうやって九クラスぶん見ていったのだが、結果を言えば見つからなかった。あの野郎どこをほっつき歩いているんだか。
「ここにいないなら、隣の校舎かな」
「特別棟ですか?」
星陽高校には校舎が二つある。もう一個は化学室や、音楽室がある特別棟だ。一階と二階の渡り廊下を越えなければならない。仕方ない、もう時間も無いしすぐ向かおう。
「ま、また歩くのですか」
「おんぶしようか?」
「……? お心遣いはありがたいですが、結構です」
――すみません。冗談が通じないな、と思って苦笑する。なんで面倒臭がりのはずの俺が普段言わない冗談を飛ばして、しかもこんな人助けをやっているのだろうね。もしかして、俺は楽しんでいるのだろうか。こんなわけのわからないことに巻き込まれているというのに。それとも、誰かのためだからこんなことできるのかな。やれやれ。
二階まで下りて来て、渡り廊下のドアに手を掛けたときだ。向かいの特別棟ドアから冨田の姿が現れた。俺と竹本に気が付くと、同時に「あ」と声を出した。




