七.わが袂今日乾ければ(5)
俺たちは(美月の下ろした金で)チケットを買ってテーマパークとやらに入場した。朝九時から並んでしまった。入ったのは十時。晴れているとはいえ寒い。そして人が多い。なるべく固まって行かないとまた迷子になるぞ。
「久し振りねー。どっちから行こうかな。あっち、いやそっちね!」
ミヨは五メートル先できょろきょろしている。早速迷子になろうとするな。
「珍しい建物がいっぱいありますね。あれは何ですか?」
「観覧車っす。あのカプセル型のゴンドラに乗って一周するんですよ」
目をキラキラ輝かせる美月にノエルが教えている。美月もはしゃいでいるようだ。未来人なら目新しい物もあるのだろうと思う。俺はあまり騒がしい場所が好きじゃないので後ろからまったり付いて行く。アリスが隣を歩いている。
「いやあ、皆元気だねー」
「ホントだな。俺なんか悩みすぎて昨晩眠れなかった。寝不足」
アリスが笑う。昨日は解決策を考えていたら、そればかりが頭の中でグルグル再生されて眠れなかったのだ。俺が心配性なのか?
「ねえ、二人とも! どうしてそんなジジイとババアみたいに後ろからにこやかに見守っているの! 思いっきり楽しまないと駄目でしょ。まだ若いんだから」
ミヨがリターンして俺とアリスに文句を言う。年寄り扱いされる筋合いは無いぞ。
「シュータさんはいつも冷静沈着でいらっしゃいますものね」
ありがとう、美月。物は言いようだと思う。
「ははは。若いもんは思う存分遊んで来なさい」
アリスはノリノリだけどな。
ミヨ先導で俺たちは進んで行った。途中で頭に付けるカチューシャみたいな物を女子は買っていた。ミヨはウサギ、美月はネコ、アリスはツノ? みたいなやつ。俺とノエルは変な帽子を被らされた。その後、室内のアトラクションをいくつか体験した。
「次はジェットコースターにしよ。美月も乗るでしょ?」
ミヨは美月と手を繋いでいる。こうして見るとやっぱり姉妹だな。コンタクトより目に入れても痛くない姉妹は他にいないだろう。ちょっと褒めたところで、俺は高所恐怖症なんだが。
「シュータくんも? 実はアリスもそうなんです」
俺の隣でアリスが苦笑交じりに手を挙げた。アリスもそうなのか。良かった。一緒に見学していようぜ。
「え、駄目よ。皆で乗りましょう。もっちーが高い所苦手なのは知ってるけどさー」
ミヨは高い所が怖い人間の気持ちを知らないからそう言えるんだ。
「そうだよ。私は絶叫系がダメなの。速いのもムリ」
アリスは首を横にブルブル振る。一番楽しんでいるように見えるノエルが、
「いや、ここはシュータ先輩とアリス先輩に残ってもらいましょう。無理強いすると気分が下がってしまうでしょうし」
そう言って俺に一瞬ウインクした。わかってるよ。アリスから訊き出すんだろ?
「えー。じゃあ私たちが帰って来るまで待っていてよね」
ミヨたちは大行列に並びに行った。美月とも別れる。ゴメン。俺とアリスは近くの座れる所を探した。やがて人工の川の近くに座れるスペースを見つけて休憩する。
「ふう。老体にはキツイよ」
アリスが一息吐いた。俺は「ちょっと待ってて」と言い、近くの売店でポップコーンを買って来た。アリスにキャラクターの容器を見せると喜んだ。
「可愛いじゃんコレ! ふふ。一緒に食べよっか」
そうしてアリスと束の間の休息。交互にポップコーンをつまむ。
「なんか楽しいよね。実代と美月ちゃんと一緒だと飽きないな」
「まあな。充実度でいったら満点だ。だけど俺の今までの人生のペースとは違いすぎてスタミナが足りない」
アリスは口に頬張ったまま笑う。アリスの髪留めは今日は青だ。
「去年、実代を誘ってSF研に入って正解だったよ。私って見る目があるな」
アリスがミヨを誘ったのか。てっきり逆だと思っていたよ。
「実代とは芸術科目が同じで知り合ったの。それで、私がSF小説が好きで、科学好きの実代を誘ったんだ。SF研は三年生しかいない部活で、三年生はすぐ引退しちゃったけど、二人で楽しい思い出いっぱい作ったよ。文化祭とかね。あの子の推進力と私の舵取り能力があれば、大概上手くいくもん」
文化祭か。思い出したくもない。去年は実行委員を押し付けられ、苦労を重ねた。
「シュータくんにとっては、そういう息ピッタリの存在は誰になるのかな? 美月ちゃん?」
「そう、かな。美月は時折とんでもない無理難題を持って来るけど、美月の目を通して世界を見るとどれもこれも面白く見える気がする。だから一緒にいて飽きない。どうしても手伝わないといけない状況に追い込まれているからかもしれないけどさ」
アリスは「ふーん」と頷いた。
「シュータくんは本当に美月ちゃんが好きね。大好きでしょ?」
「うるさいな。たまにやってられるかって思うぞ」
「でも、やってあげてるじゃない」
それはそうなんだが。だって美月を放っておくなんてできない。なぜできないんだと訊かれたら弱るものの、美月みたいな美人が、俺みたいな一般男子を頼ってくれるなら何だってしてやると思うものさ。清水の舞台から蔀を抱えて飛び降りることだってできる。
「そうだ! 私たちも待ち時間にどこか遊びに行こうよ」
アリスはポップコーンの容器を首から提げて立ち上がった。俺も立ち上がる。——と、アリスは俺の右手を握った。俺はアリスの顔をまじまじと眺める。にやにやしているな。
「どういうつもりだ? 立ち眩みか?」
アリスは、その表情のまま手をぎゅっとして、反対の手はピンを触った。
「手を繋ぐくらい何ともないでしょ?」
どうしてわざわざ手なんか繋ぐ必要があるんだよ。
「周りの雰囲気だよ。いいじゃん、人混みでバラバラにもならないし」
「そういう問題かな。まあ責任は取らないぞ」
「大丈夫。美月ちゃんがいないなら平気でしょ?」
何でアリスは、俺が美月を好きだと思うんだろうか。よくわからんね。
「いや、私から見ればあからさまだよ。逆にあんなにシュータくんから好きのサイン貰って、トキめかない美月ちゃんって鈍感だと思う」
はあ。アリスはどこからが冗談なのかが掴みにくいな。
「私が美月ちゃんの立場なら、一週間でシュータくんのこと好きになっちゃう」
俺は頭を掻いた。アリスは楽しそうに笑ってやがる。俺ってそんなに面白いですか。




