七.わが袂今日乾ければ(2)
「ここなんてどうです? テーマパーク前っす。ホテルが選び放題です」
ノエルが連れて来たのは俺もよく知るテーマパークの入り口……から少し外れた茂みの中だった。移動したのがバレるとマズいのはわかるが、場所の設定が雑だな。綺麗に整備された草で良かったぜ。カサカサと茂みから脱出する。
「ここなら泊まる場所もありそうね。明日は遊べるし」
ミヨは明日遊ぶつもりらしい。家から遠いのでいつも来られるわけじゃない。遊んでおこうって気持ちはわからなくもないが、今は色々忙しいんだよ。
「あの、ホテルの料金は誰が払うのですか?」
美月がパタパタと服を払いながら眉を下げる。お金問題は考えていなかった。
「シュータが出してくれるでしょ。スイート泊まるわよ!」
アホアホ。俺の資金じゃロビーに雑魚寝が関の山だぞ。
「資金力が無い男性ってモテないわよ」
ミヨが苦虫を噛み潰したような顔をする。俺はバイトもしてないんだから資金力があった方がおかしいだろ。将来はバリバリ稼ぐんだよ。
「アンタにそこの部分は期待しないけどね。で、実際どうするのよ」
皆も同様にお金が無いらしい。学生なんだから当たり前だ。
「アリスはお金が出せないんだったか?」
「うん。紙幣には番号が刻まれているからね。ちなみにこの話は、星新一さんの本に載っているからご一読くださいませ」
そうか。ショートショートだし、読んでみてもいいが。
「じゃあ美月先輩というか、伊部さんに頼むしかないっすね。駄目なら温暖な地方に行って野宿しましょう」
野宿は嫌だな。キャンプ場を探してみてもいいが、女子が受け入れがたそうだ。
「イベくんに言ってみますか。ここの時代にまたお金を送金してもらわないと……」
美月が伊部の画面を起動する。空中に伊部の映像。老けたな、お前。
『おい、この期に及んでまだ俺に仕事させようってのか。二回も時間を「戻って」来たのに今度はお金の準備って。エナジードリンクが何本あっても足りない』
知るか。少し申し訳なく思うが、この時間に飛ばしたのはお前なんだから責任持てよ。
『これが終わったらしばらく休む。十時間は起こすな』
伊部はそう言って自ら通信を切断した。美月は罪悪感満載の顔をする。素晴らしき良心の持ち主だ。とにかくお金問題は解決ということで、俺たちは——コンビニに行った。
ホテルの部屋にたどり着くまで割愛しよう。惜しいことだが中身が無いからな。コンビニで俺たちは夕飯用の弁当を買って温めた。その間美月はATMでお金を引き下ろしていた。未来人がお金を下ろすってシュールレアリズムだろ?
それから徒歩圏内のホテルでミヨが部屋を取った。もちろん男女で部屋を分けた。部屋は六階で、ベッドと風呂とコーヒーテーブルなんかも付いた、そこそこ大きなものだった。今は廊下の前。男女で別れて、明日の朝に会おうという感じだ。
「部屋の鍵はお互い一個ずつ交換しておきましょうか。いざというとき、駆け付けられるようにね」
ミヨは二つ貰ったルームキーを一個渡してくる。一個渡して一個受け取る。
「これを使って、夜中に美月と密会すればいいんだな?」
俺が明らかな冗談を言うと、ミヨは目の色を変えて角を出した。ちなみにミヨの背後にいた美月はビクッとした。生理的に嫌だと思わせたならセクハラだな。すまん。
「シュータ! 何度も言うように、部の決まりなの。公序良俗を守りなさい!」
「ごめんって。つまり、ミヨを夜景観覧に誘い出すのにも使っちゃいけないんだな」
ミヨは目を細めて俺を睨む。はいはい、つまらないね。
「アンタって誘い方ヘタよね」
うるせえ黙れ。誘ってねえ。俺はコンビニ弁当を自分たちの分を除いてミヨに手渡す。翌朝会おうぜ。
「シュータくんおやすみなさい。また明日」
アリスが手を振る。迷惑掛けてすまないなと思って手を振り返した。
「明日、朝ごはん一緒に買いに行きましょうね」
もちろんだ美月。明日も可憐な笑顔を見せてくれ。
「女の子を漁っちゃ駄目なんだからね。来ちゃダメなんだからね」と怒りんぼのミヨ。
りょーかい。俺は鍵を使って部屋に入り、手前のベッドにダイブした。




