七.わが袂今日乾ければ
「シュータくん、しっかり」
デジャブだ。またアリスの上にいる。しかし今度は神社の建物の土台、四月に美月と話した場所で俺は膝枕されていた。毎度悪いな。こんなことさせて。
「いや私は嬉しいよ。シュータくんの看病できて」
俺は笑顔のアリスを見上げた。アリスは一度首を傾げて、再びくすっと微笑む。
「ジョーダンだけどね! マイケル・ジョーダン」
その冗談は心底寒いが、嫌じゃないならいいか。アリスは口元を押さえて笑っている。白い息が漏れ出ていた。なんか、外が暗くないか。
「真っ暗な夜だよ。午後八時」
夜? 緊急で「戻った」から時間帯の調節ができなかったのかな。今日は何日だ?
「二月七日。事件が十日だから、三日前だね」
三日前か。今日は夜だから実質二日しかないわけだが、考えをまとめるには充分な時間だ。「それはそうと、アリスは今の状況を理解できているか?」
「うん。美月ちゃんにマイク付けてもらってたから、全部聞いてたよ」
「そっか。アリスが死なないといけないって話も聞いたのか?」
「……ゴメン聞いたよ。だけど、心配してないから」
アリスは歯を見せて笑う。
「シュータくんは、絶対私のこと守ってくれるでしょ?」
「そりゃ、アリスは友達だからな。絶対守る。助ける」
「ありがとね。ずっ友だぜ」
アリスは照れ臭そうに頷いて髪留めを触った。俺は気分が改善してきていたので上半身を起こそうと思った。寝たままじゃアリスの脚も痺れるだろうからな。
「バカシュータ! いつまでもっちーの上で寝てるのよ!」
俺はジャケットの胸元を掴まれて、ミヨに引き上げられた。お前は起きていたのかよ。そう思ったら、俺が起床するのがビリだったようだ。ノエルも美月も俺を見て苦笑している。
「たまたまだろ、しょうがない」
「だから何度も言ってるように部の規則違反なの! うちの部員に手は出さないでちょうだい。もっちーも、スケベなシュータなんかに付け込まれちゃダメよ」
ミヨはどうしてこんなにしつこいのか。男女の接触は、手繋ぎくらいしか許されてないんだっけ? 有事なんだから膝枕くらい気にするようなことじゃないだろうに。
「私は寛大だから見逃すけど次は無いのよ。まあいいわ。今後の方針を決めないといけないからね」
そうだな。今はすっかり夜。方針どうこう以前に本日の宿を決めないといけない。
「んー、誰かの家に行くわけにはいかないよね。この時代の自分と会うことはできないから」
アリスの言うことはもっともだ。一人でいるミヨの所に押し掛けて事情を説明して泊めてもらう、とかも不可能だ。ミヨは以前に俺たちに会ったことは無さそうだし、「正史」を踏み外す可能性がある。
「野宿するか? テントでも張って」
「シュータって本当に頭悪いわよね。アンタが邪魔だって言うから、バッグに入ってたキャンプ道具を置いてきたんじゃないの!」
出発前にはそういうこともあったな。いいじゃねえか、アリスが何でも出せるだろ。
「でも冬なのよ! 冬に屋外で泊まるって大変なのよ」
「じゃあ、ホテルに泊まるしかないんじゃないか?」
「ホテルか。高校生ってラブホテル泊まれるんだっけ?」とアリス。
どうしてアリスはラブホ前提なんだ。お前は行ったことあるのか。
「無いよ! でも皆で泊まれる広い部屋ってここらへんにはラブホくらいしかないのかなって」
皆で同じ部屋に泊まる必要は無い。ビジネスホテルでもカプセルホテルでもネットカフェでもあるだろう。
「どうせなら皆で固まった方がいいんじゃない? ラブホにしましょう」
ミヨまで賛成してどうする。女子高生三人と男子高生二人で入室したら、頭を疑われて学校に通報されるぞ。そもそも俺は美月と一緒の部屋なんかにされたら、理性が悪魔に食い滅ぼされてしまう。絶対ムリだ。
「ジョークよ。アンタも頭が固いわね」とミヨが人差し指を突き付ける。
「えー、ジョークなんだ」
前髪をかき分けながらアリスが驚いた。お前、本気で言ってたなら友達を辞退させてもらうからな。ノエル、美月、ヘルプ・ミー。
「先輩たち、俺の能力が使えますよ」
ノエルがヘラヘラしながらこっちに来る。美月はちょこちょこ歩いて来て俺の背中の砂を払ってくれた。いい子だね。お小遣いあげたい。将来俺が持つであろう子供や孫よりも可愛いはずだ。
「ノエルくんなら時差で今頃昼の国まで飛べるわね」
「みよりん先輩、俺が言いたいのはそうじゃないっす。俺は行ったことある場所にしか行けないんです。でもホテルに泊まりたいなら、俺が今まで行った旅行先にすぐ飛べますよ」
どうせなら、ちゃんとしたいいホテルに行こうってことか。俺は正直、屋根と布団とシャワーがあればどこでもいいが。
「ふーん。いいわよ。行ったり来たりが瞬時にできるんだし、とりあえず移動しましょう」
ノエルに掴まって移動。俺たち(俺は除いてもいい)は、もしかしたら万能で最強かもな。




