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みらいひめ  作者: 日野
二章/庫持篇 アリス・イン・ワンダーランド
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六.命死なばいかがはせむ(4)

「ちょっと考えられないわよね。流石に雷でもっちーを殺しにくるなんて」

 また駐車場にいる。五人は沈痛な顔だ。ノエルは、


「俺も雷は避けられなかったっす。あれは執念でアリス先輩を……」

 事故がダメなら雷で殺そうって。神様の怒りでも買ったんじゃないのか。


「し、知らないよ。そんなの。私はあんな目に遭ったこと無いし、買ったことも無い」


 アリスは懸命に首を振る。最近はネットで何でも買えるし、ポチっと神の怒りでも購入したんじゃないか。時期によってはクーリングオフできるぞ。それか消費生活センターとか。


「馬鹿な話はそこまでよ。対策しないといけないわ」

 あのさ、ミヨ。俺はまだ状況がよくわかってない。事故が条件なら、福岡のときみたいに俺が自転車でぶつけてもいいけど。


「相手は事故だけじゃないよね。あれって『事故』じゃなくて私の『死』が目的っぽいけど」

 アリスが完全に落ち込んで言った。俺も少し同意できそう。


「で、ですが何かはしないと。もうアリスさんが……」

 アリスはもう歩道を歩いて来ていた。二の舞な気がする。


「一応使ってみて。私が家で使ってるママチャリ」


 自転車が現れる。アリスの能力だ。自転車程度の大きさでも出せるのか。ノエルが「失礼します」とそれを押していく。積極的に体を張ってくれて助かるよ。福岡のときみたいに軽い事故を起こすってわけだ。


「上手くいく気がしないわね。見てみるけどさ」


 ミヨは頬を膨らませる。ダメで元々だし、繰り返すしかないんじゃないか。


 ノエルは自転車に乗ったままペダルを漕がず、すーっと進んで行き、信号で立ち止まっているアリスの肩に後ろからコンとハンドルの端を当てた。アリスが振り返り、ノエルがお辞儀。アリスもお辞儀を返したところで、信号が変わった。ノエルはアリスを一旦止まらせる。トラックが信号無視。これはセーフ。


 そしてもう一台が突っ込んでくる。ノエルはアリスを引き寄せて瞬間移動。移動先はどこかと思えばファストフード店の入り口に飛んだ。抱えられたアリスは混乱している。そりゃ見知らぬ後輩(恐らくノエルは年下にしか見えないだろう)に瞬間移動で攫われたら誰でもそうなる。


 ノエルは、屋外なら雷があるからってことで、店内に逃げるつもりらしい。


「俺たちも追い掛けよう」


 アリスも含めて俺たちは付いて行った。入店してノエルは律儀にメニューを閲覧している。おい、今は非常時なんだから後回しでいいだろ。


「ノエルくん。私たちが注文するから安全な場所に」

 ミヨはノエルと制服のアリスに声を掛ける。


「実代? 今、変な男の子にナンパされてるんだけど!」と制服のアリス。

 ノエルが変なナンパ男だと思われてやがる。笑々だ。ノエルは苦笑。


「その子は私の友達のノエルくんよ。何なら私と一緒に席に行きましょう」

 

ミヨは俺にウインクして、二階の客席に向かって行った。制服のアリスは「何で実代は私服なの?」と状況が飲み込めないでいる。

 俺と美月とアリスは、列に並んでポテトやらハンバーガーやらを適当に買った。食欲はあまり無いのでね。プレート二つ分を美月と俺で分担して持って行く。先行組は、窓から遠い奥の四人掛けに座っていた。


「アリスは来たらマズいんじゃないか」

 さっきから俺の背中に隠れていた私服のアリスに言う。アリスは「わかった」と苦笑い。ハンバーガー二個とポテトを渡して、俺だけがミヨたちの所に向かった。


「よう。初めまして」

 制服のアリスに声を掛けて席に座る。アリスはミヨに説得されたのか、少し落ち着いていた。


「これがシュータよ。ほら、隣に座りなさい」


 俺はミヨの隣に座る。正面がノエルで、斜めにアリスがいる。俺はプレートを真ん中に寄せた。ミヨはオレンジジュースを飲むと、チキンバーガーを取り出して早速かぶり付く。アリスにも勧めたが、アリスは遠慮気味にポテトをつまんだ。


「えっと、これはどういうこと?」


 アリスは戸惑っている。そりゃそうだろう。どう説明したものかという感じだが、今の俺はアリスと知り合いじゃないんだもんな。ミヨに任せるか。


「えー、チョットだらだらしすぎじゃないですかー? ポテトください」


 誰の声だ、と思ったときにはテーブルの脇、俺とノエルの隣に見知らぬ女子が立っていた。


 背は低め。どこか知らない高校の制服を着崩している。スカート短いし、何と言うか、ふくよかな胸をしているし、目の遣り場に困る。髪型はイタイタしいツインテール。素肌は雪のように真っ白タマゴ肌だ。ニコニコして俺たちを見下ろし、ポテトを二本口に運んだ。その指先を舐める。


 誰かの知り合いか?


「あら、シュータくん。ルリは美月とかいう、いい子ぶった生真面目ド変態(*放送禁止用語がいくつか挟まるため中略)お姫様気取り腹黒天然おデブ偏差値低め鈍感整形女以外とは初対面ですよー」


 初対面なのに殺意が明確に湧いたのは初めてだよ。こいつ、美月に敵意を抱いているな。


「待ってください。俺たちの名前を知っていますね?」

 ノエルが尋ねると、謎の少女はニコッとした。


「そうよ、ノエルくん。だって情報収集は基本でしょう?」


「どこの基本よ、それは。名乗りなさい」

 ミヨが鋭い視線を送る。その女はニコニコしたまま答えた。


「みよりん怖ーい。どうしても名乗る必要ありますか? どうせ偽名しか教えませんが、岡野おかのルリです。そう覚えてね」


 岡野ルリ。もちろん耳馴染みは無い。それ以外のプロフィールを知りたいな。


「そんな、女の子のプライバシーに侵入しようとするなんて。シュータくんったら積極的ね」


 妙にムカつく女だ。


「ところで、美月先輩と知り合いのようですが。どういう経緯で知り合いましたか?」

 そうだな。まさかルリみたいな女が美月の友達なわけないし。そもそもこの時代には、まだ美月は来ていないことになっているはずで……何者?


「あー、もう核心に迫っちゃうの? ノエルくんってイジワルね。そういうSっ気があるところスキだよ」


 美月だけでもここに呼ぼう。俺は振り返って美月に手招きをする。美月とアリスは心配そうにこっちを見ていたから、すぐに気付く。


「ルリは、竹本美月と名乗る人物と同時代の人間です。つまり、ミス三十一世紀のスーパーアイドルですよ」

 場が白けた。制服のアリスは、先ほどから諦めてポテトを食べ続けている。現実逃避ってやつだ。


「まだキャラが定まってない今がチャンスよ」とミヨが耳打ちしてくる。

「そこ! 聞こえていますよ! 本当はアイドルじゃなくて行政組織に雇われた末端の工作員ですが、可愛さは本物ですから。可愛いよね、ノエルくん?」


 ノエルは不可解を表情で示していた。どういうことだ? 変わり者の未来人が何の用だよ。そこに美月が来た。

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