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みらいひめ  作者: 日野
二章/庫持篇 アリス・イン・ワンダーランド
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五.いたずらに身はなしつとも(5)

「愛しい私のSF研、アララギミヨの部活~。みよりんが一年生で誘われた部活よ~。今年たぶん廃部する私たちの部活~」

 はいはい、元気元気。頼むから俺のツレだとバレないで欲しいものだね。自分の学校内なのに、大声を出すヤツと友達だなんて思われたくないからさ。


「こんちわ。調子いいっすね」

 部室に来たミヨをノエルが笑顔で出迎えた。ミヨは確かに調子がいいが、俺の調子は日本経済のようにお先真っ暗ガックリ下降傾向だ。


「遅かったですね、シュータさん。何かありましたか?」

 美月とノエルは二人でポーカーをしていた。美月がフルハウスで、ノエルはツーカード。


「何があったかって言っても、大したことはしていないが」


 俺は美月の隣に座った。俺もトランプの束から五枚引く。ハートの4、クイーン、キング。クローバーの6、7。勝てそうにねえ。


「シュータさんたちが遅かったので、話が始められなかったのです」


 話? 何かあるのか? ノエルの札はハートのA、2。クローバーのA。ダイヤの2、9だな。ミヨは俺の両肩に手を置いた。


「話ってのは、もっちー抜きでしたいってことね?」

「ええ。アリスさんは敵味方の判別がまだつかないので」

 だから生物室に集まったのか。アリスを除け者にできるから。言い方が悪いか。


「イベくんの調査結果が出ました。お聞きください」

 美月がそう言うと、いつも通り空中にスクリーンが登場した。美月の手札は、3が三枚で9が二枚のフルハウスか。


『よう。たびたび悪いな。よろしく』

「手短にね。何がわかったのかしら」


 伊部はアイスコーヒーを飲んでいた。未来人もコーヒー飲むんだと安心した。


『俺たちの記憶、そして世界中の記録からクラモチを消した人物は誰かが判明した』


 おう良かった。早く言え。伊部は事件解決をスムーズに進めるための端役なんだから、もったいぶって出番を増やそうとしてるんじゃねえよ。


『シュ、シュータ。言ったな、てめえ。後で思い知れ』

 へえへえ、わかりやした。俺は4、6、7をチェンジ。


『で、誰なんです?』と美月。

『それはな、俺たちだ』


 耳を疑った。俺たち? 俺たちが俺たち自身の記憶からアリスを消したって言うのか。つまりそれって、どういうことになるんだ。俺が引いたカードは、ダイヤの9、ジャック、スペードの10。役はストレート。強運だが美月には負けた。


『詳しく言うと、犯人は少し未来の俺たちだ。これは間違いないことで、俺のコンピューターが発信元だった。しかし意図は不明。俺から質問を送ってみたが、返答は無い』


 伊部は肩をすくめた。伊部が発信元なら、当然美月や俺が関わっているわけで、俺が自分の首を絞めるために行動するとは考えにくい。この記憶・記録喪失事件には、意図があるってことだ。未来の俺たちの。


「どういうことっすかね。正直、アリス先輩の仕業だと思っていました」

 ノエルの言うことも、もっともだ。だって人が急に現れて、俺たち世界中の人間の記憶の方が誤りだった、なんて信じられっこない。


「もうそこは信じるしかないですね。私たちの技術ならそれも可能ですから」

 犯人が伊部や美月なんかの未来人なら、できるのか。くそ、悔しいな。


『アリスを死んだことにする意味はわからない。だが、「改変」と同時にその時間帯から暗号化されたメッセージが一方的に俺のコンピューターに届いていた。「二月十日。星陽高校前、大通り。午後四時に戻れ」だけ』


 必要最小限だけど、すごく重要なメッセージじゃないか、それ。具体的に何を指しているんだか理解できないが。ミヨが山札から五枚取る。


「二月ってのは、今年の二月よね? もっちーの命日」

 え、そうなのか? なぜアリスの命日なんだ。ミヨは手札を見て吟味している。


「それに、星陽高校前はもっちーが車に轢かれた場所よ」

 ってことは、俺たちにアリスの轢死を目撃するよう伝えているのか?


「とにかく『戻って』みないことには始まらないような気もします。情報がこれ以上無いようですから」


 その、時間を「戻る」というのは一度聞いたな。いつもの瞬きが起きる「遡る」とは違うらしい。俺たち自身が若返るのが「遡る」だけど、「戻る」場合は俺たちが過去の自分と対面できるわけだ。今回なら高一だった俺がいる時間だ。技術的には大差ないようだが、いつもと異なるんだよな。


「ええ。一時的に私たちの個体情報をコピーする場所を変えますが、皆さんには関係ないですかね。操作上の違いですので。それとここの世界から、一瞬消えることになります」


 行けるならいいや。俺には理論も技術もわからない。ミヨは手札を一枚チェンジ。


「協力ならいいっすけど、その怪しげな誘いに乗るんですか。本当に」

 ノエルの言う通りである。俺たちの身に危険が起きるのは嫌だぜ。


『白状すると危険をゼロにはできない。向こうで危険が待っているのかもしれないのはもちろん。あっちの世界との行き帰りでトラブルが生じたとき、存在が消滅する可能性がある。過去とは完全なパラレルワールド状態だからさ』


「パラレルワールドなのに、俺たちが行ってどうにかなるのか? せっかく過去を『改変』しても俺たちの世界に影響が無いんじゃ……」


 ノエルも頷く。ミヨは聞いているのか知らないが、トランプに口元をうずめてニヤニヤしている。今日も綺麗な声の美月が答えてくれた。


「確かに向こうの世界で行ったことが、直接私たちに返って来ることは無いです。でも、シュータさんが時間を『戻って』何かを為して帰って来る、それ自体が『主軸』になることはあり得ます。それにいくらたくさんパラレルワールドが存在しても、秩序の均衡を保ってずっと存続できる世界は、たった一つだけです。それは『正史』です。『正史』で、私たちが『戻る』ことが『主軸』なら、私たちはすべきです。そうでないと、私たちは『正史』から外れて滅亡しちゃうのです」


 げ。そんな意識的に世界にとって正しい選択を取って生きてきていないぞ。じゃあ、今までも『正史』から外れて滅んだ俺たちの平行世界が無数にあるってことだ。徳を積んで生きなさいとはこういう意味だったのか。違うか。


『ま、決定権は君たちに委ねる。行くも自由、行かぬも自由。俺の分析は正しいと信じているが、クラモチの謀略の可能性だってゼロパーにはならないし。選択してくれ』


 だってさ、皆。やらないわけにはいかないんだろ。俺はどっちでもいいや。


「俺はミヨに任せるよ」

「えっと、俺はシュータ先輩がいいなら何でもいいっす」


 ノエルも特別に意思はないようだ。ミヨはどうなんだ。


「わ、私だって色々言われてわかんないわよ。責任だって負えないもん。過去に行くとき、もっちーは連れて行くの?」


「そこは話し合いで。連れて行っても構わないと思いますが」


 美月曰く、大丈夫と。アリスが行きたいかにも依るけど、便利な力も持ってる。アリスは連れて行ってもいいかもな。それに、一人にしたら何しでかすかも知れないことだし。


「うむむ。シュータは私の意見に賛同してくれるのね?」

「もちろん。俺は、ミヨが好きなようにやるのを手伝う。ミヨはキャプテンみたいなものだからな。何でも従うよ」


「私はやらない後悔より、やらかす後悔を選ぶけど?」


 じゃあ決まりじゃないか。美月も、巻き添え食らってもいいのか?


「ええ。シュータさんとみよりんさんが行くならお供します。死ぬ覚悟で!」


 ノエルも?


「だから言ってるじゃないですか。毒を食らわば皿まで。地獄の底まで付き合いますよ」


 そう言って微笑した。二人が自滅覚悟なのはいささか心配だが、今回も事件に乗り込んで解決するってことで、頑張ろうか。


「ところでミヨ。お前の手札は?」

「ふふふ。シュータ、残念だったわね! ひれ伏すがいいわ」


 ミヨが出したのは、全部がスペード。まさかのフラッシュ。器用なことだ。順位としては、美月、ミヨ、俺、ノエルだな。これってどうでもいいが……どうでもいいや。

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